PCとスマートデバイスの融合の中で繰り広げられる、新たな“OS戦争”本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)

» 2012年02月28日 12時30分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 2月29日、スペインはバルセロナで開催されているMobile World Congress 2012(MWC)で、MicrosoftがWindows 8のパブリックβ版(一般に配布して機能を試してもえらるよう整えた未完成・試用版)を発表する予定だ。ところが、2月初旬にその旨がアナウンスされたにもかかわらず、Windows 8への注目度はさほど上がってきていないように感じる。

 Windows 8よりも、むしろ3月に発表されるのではないかと噂されているAppleのタブレット端末「iPad」の次世代版の方が話題に上ることが多いほどだ。

 一方はPC用OSをタブレットにも応用できるようにアレンジした製品、もう一方はスマートフォンの手法をアップスケールしたコンシューマー向けタブレット型端末で唯一の成功例。“同じようでいて違うもの”だが、ある切り口でこの2つのプラットフォームに注視していきたいと考えている。

 それは、“PCとタブレットが、どのように融合していくか”である。これはパーソナルコンピューティング(個人のコンピュータ活用)について、MicrosoftとAppleが、それぞれどのような着地点を探そうとしているか? という疑問に置き換えてもいい。

OSはあらゆる仕掛けの源である

Photo 日本通信 代表取締役専務 CFOの福田尚久氏

 2011年、日本テレビの情報番組「iCon」(放送地域は関東のみ)で、日本通信 代表取締役専務 CFOの福田尚久氏にロングインタビューをした。数時間の話の中で、放送されたのはほんの数分だったため、難しい話はほとんど放送されていないが、この中で福田氏は「自分たちが作ったOSをネットワークの中で、いかに普遍的に存在するものにするかを、スティーブを筆頭にAppleの幹部はずっと考えてきた」と話した。福田氏はApple本社で6年間、ジョブズ氏らと仕事をした人物だ。

 例えば“パーソナルコンピューティング=PC”の時代は、Microsoftがデジタル技術のトレンドをコントロールすることができた。OSの中に機能を組み込んで行けば、それがパーソナルコンピューティングのトレンドになったからだ。今でもPCの世界だけならば、Microsoftが支配的な位置にある。

 しかし、さまざまなメディアがデジタル化し、パーソナルコンピューティングを取り巻く事情は大きく変わっている。スマートフォン、オーディオプレーヤー、デジタルテレビなど、デジタル機器がPCとつながることが当たり前になり、さらにはネットワークサービス(クラウド)を通じて連動するようになってきた。

 こうなってくると、デジタルライフスタイルを取り巻くあらゆる機器に、自分たちがコントロールできるOSを入れていかなければ、プラットフォームを牛耳ることはできない。Microsoftはここで失敗している。

 汎用コンピュータであるPCは、OSを供給するだけでも十分な商品力を持つ製品に仕上げていくことができるが、スマートフォン、オーディオプレーヤー、デジタルテレビなどは、製品の特性に合わせた作り込みが必要になる。

 MicrosoftはOS屋、ソフト屋に特化していたが故に成長したが、それ故にPC以外の機器ではプラットフォーマになることに失敗した。OSやOS上に標準で実装されたアプリケーションを、ネットワークサービスや端末の細かな設計とすり合わせることができなかったからだ。

 福田氏との話で興味深く感じたのは、ジョブズ氏は90年代終わり頃に「OSを支配しているかが重要だ。しかし消費者みんなにMacを持たせるという計画は非現実的だ。将来、Mac OSをデジタル機器に搭載し、オーディオプレーヤーや携帯電話などの形で自分たちのOSを普及させよう」と話していたとするエピソードである。

 もちろん、そんなことは成功した後だから言えるものだ、と思う読者もいるだろう。しかし、このエピソードを筆者が聞いたのは二度目で、最初に聞いたのは米国でiPhoneが発売されたばかりの頃。まだ現在ほどの成功を収めていない時期である。

 そして実際に——例えばAirPlayのような形で——、Mac上のソフトやOS、iPhoneやApple TVなどのデバイス用OSを同時に更新して、シームレスな体験を実現した機能を提供したり、iCloudのようにサービスとOSをセットで更新することで、サービスへの接続をほとんど意識させずに使わせるといったことを実現してきた。

 仕組みが分かっている側からすれば、“Appleならばそれができるだろうね”と比較的、冷静にこうしたことを捉えているかもしれない。しかし、テクノロジーに対して深い知識を持たないユーザーの視点から見ると、もうApple以外には戻れないと思わせる利用感覚を実現する。

Windows 8における2つのチャレンジ

 OSとサービスとアプリケーションを統合し、一体となった体験をMac、iPhone、iPod、Apple TVなどの間でアップルが実現できているのは、Appleがハードウェアメーカーであり、OS分野の支配者ではなかったからだ。

 逆説的だがWindowsが伸びた時代には、OSのみを支配してハードウェアメーカーにOSを提供し、PCに関連するアプリケーションの世界を支配できた。しかし、今やPCはネットワークに接続されたデジタル機器の、一分野でしかない。もっとモバイル機器との統合を進めねばならない。

Photo Windows 8に追加されたMetroスタイルのスタートスクリーン

 そこでMicrosoftは、Windows 8を軽量化するとともに、モバイル機器にもフィットするよう設計を変更している。例えばConnected Standby(コネクテッドスタンバイ)という、通信接続を維持したまま省電力状態で動作させるといった機能も盛り込んでいるが、1つ目のチャレンジはハードウェアとのタイトな統合を行うため、従来とは異なる開発体制を採っていることだ。

 以前、Microsoftのソフトウェア開発者向け会議「BUILD」のリポート記事でお伝えしたが、Windows 8はAndroidなどと同様に、システムLSIのベンダーごとにハードウェア開発パートナーを選定し、MicrosoftとシステムLSIベンダー、それにPCベンダーが三社共同で開発を行うスタイルを採用している。

 これにより、特にタブレット型端末の使いやすさやパフォーマンスなど、細かな実装レベルでの作り込みを行う。こうした作り込みは従来型の、クラムシェル型ノートPCやデスクトップPCでは行われない。それだけ、タブレットに関しては摺り合わせ技術が重要と考えているのだろう。

 従来はあらゆるPCベンダーにWindowsをプリインストールしてもらい、とにかくたくさんPCを売ってもらえば、Windowsのライセンスで利益を上げることができた。しかし、今回は端末ハードウェアを使うユーザー体験そのものを演出し、完成度を上げていかなければならない。もちろん、従来のPCは従来通りの方法で作る。

Photo Windows Phoneとの統合もWindows 8の大きなチャレンジだ

 もう1つのチャレンジは、Windows Phoneとの統合だ。現在のWindows Phone(バージョン7.5)は、もともとはオーディオプレーヤーの「Zune」を元にしたもので、PC向けのWindowsとはあらゆる面で異なる。Windows 8では、同様の振る舞いをするMetroユーザーインタフェースが採用され、Metroに対応した全画面アプリケーションを動作させることが可能になるが、どこまでWindowsとWindows Phoneを統合できるか?というと、まだ分からないことが多い。MicrosoftはApolloという次期Windows Phoneで、アーキテクチャをWindowsに近づける(あるいは核となる部分を共通化する)努力をしているという。

 スマートフォン以上のコンピュータ全てについて、同じ設計のOSを使おうというのだから、これは大きなチャレンジになることは間違いない。ただし、Microsoftは“アプリケーション側から見たシステム”が同じであれば、その下の構造が何であっても構わないという考え方を昨今、披露することが少なくない。

 どのようにまとめるかは、まだまだ未知数だ。しかし、うまく統合することができれば、Windowsファミリーで固めた企業システムの中で、Windows PhoneやWindowsタブレットが広く使われるようになるだろう。セキュリティやシステムの連動性などの面で、開発しやすく、開発コードの共有などが可能になることで、システムにスマートフォンを組み込みやすくなる。

 また、コンシューマー向けに独自の仕掛けを組み込んでおいたり、クラウドと統合した機能を展開する際にも、サービス側のアップデートに合わせて連動機能を強化していくことも簡単になるため、Appleがここ数年見せたように、あるとき“魔法のように”新しい機能で機器同士が連携し始める、といった実装をすることもできるだろう。

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