「Xperia Z」に込められた“ソニーらしさ”本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)

» 2013年01月18日 00時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 2012年、ソニーモバイルコミュニケーションズは、スマートフォンのシェアでHTCを抜いて3位に上昇した。前向きではないニュースが続いたソニーにとって、スマートフォン市場における復活の兆しは久々の嬉しいニュースだっただろう。

Photo ソニーモバイルコミュニケーションズ UX商品企画部バイスプレジデントの黒住吉郎氏

 HTCのシェア下落に助けられた面や、2位との差は大きいことから「3位以下はダンゴ状態の日替わり順位だから」との声も聞かれるが、従来からよく売れていた日本は別として、世界市場でのブランド定着がなければシェア上昇はない。

 先週行われた2013 International CES会場で、ソニーモバイルコミュニケーションズのUX商品企画部バイスプレジデント、黒住吉郎氏にインタビューする機会があったので、新製品「Xperia Z」と、ソニー完全子会社後のXperiaについて聞いた。

Xperia Zは新ソニーを代表する製品の第一弾

 CES期間中に行われたインタビューで、ソニーの社長兼CEOの平井一夫氏は、今年のソニーCESブースを代表する“ソニーらしい製品”を尋ねられ、4K2Kパネル搭載ブラビア、フルフレームセンサー搭載のサイバーショット「DSC-RX1」とともに挙げたのが、AndroidスマートフォンXperia Zだった。

 平井氏はソニーのエレクトロニクス事業を立て直す柱として、ゲーム、モバイル、デジタルイメージングの3つを挙げているが、このうちモバイルは特に重要視しているように見られる。

Photo 「Xperia Z」

 その平井氏がソニーモバイルコミュニケーションズ社長を兼任する鈴木國正氏とともに、新しいソニーを象徴する製品として開発に力を入れたのが、Xperia Zだったといいう。

 Xperia Zは、ガラス表面からの視差が少なく美しい5インチフルHD液晶ディスプレイや、超薄型のデザイン、背面にもガラスを配した質感の高さや、Qualcomm製のクアッドコアSnapdragonプロセッサー、2Gバイトメモリ、防水設計、大容量バッテリー搭載などが話題。とはいえ、スペックだけならば他社も並べることはできる。

※初出時にXperia Zのディスプレイのメーカーに言及がありましたが、事実と異なる可能性があるため削除しました。(1/18 13:00)

 しかし、各ブースでスマートフォンのハンズオンに興じる来場者のXpera Zに対する目は、かつてのものとはかなり違っていた。日本を含む一部地域を除き、ブランドがあまり浸透していなかったXperiaに、ここまで注目が集まるのは、製品そのもののできが良いからだ。

Photo ボディカラーに合わせた色の充電台も用意されている

 従来の独自のユーザーインタフェース(UI)を踏襲しながら、よりシンプルで標準UIに近い使い勝手になったUI。専用充電台を用意し、防水設計ながらカバーの開閉などが不要で、容易に充電できる点。そして手に持って使い込んでみると、手のひらによる誤動作を防ぐため、ソフトウェア表示によるホームキーなどが中央寄りに配置されていることに気付くなど、使い勝手が向上するような気遣いが随所に感じられる。NFC搭載ということで、日本版の発売時にはFeliCa(おサイフケータイ)対応も、当然期待できるだろう。

 もっとも、声を挙げるだけで製品力、ブランド力が急に強化されるわけではない。では、ソニーのスマートフォンは何が変わったのだろうか?

 「電話とは何かを考えたとき、コミュニケーションの場を、制約なしに作り出せる。そんな新しい体験(Experience)を得られる新しい国(土地)をイメージして、Xperiaと名付けたんです」と話す黒住氏は、ソニーの100%子会社化によって、大きな変化があったと証言する。

“ソニエリ”から“ソニー”になって変わったこと

 ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズはフィーチャーフォンの時代に、一度は大きくシェアを伸ばしたことがあったが、スマートフォンの時代になって存在感を下げた。Xperiaは日本や欧州の一部地域で人気があったものの、世界的にみるとブランドの存在感は高くない。しかし、HTCを抜いて3位になるには、欧米での存在感向上が不可欠だ。

 では、なぜ好転してきているのか。ローエンド製品強化で出荷数が増えてきた側面もあるが、社内体制の変化が製品やマーケティング、販売の現場に影響を与えているという。

 「私自身はソニー出身なのですが、ソニー・エリクソンの時代は“別会社の別ブランドである”自分たちの存在意義を示そうと、あえてソニーがやらないだろうことをやり、ソニーらしさから離れようとしていました。企業DNAは確実にあって、ソニー出身者が多いと、どうしてもソニー的な製品になりがちです。それゆえに、あえて違うことをしようという意識が強かったと思います。ソニー文化を携帯電話の世界に持ち込んでも、そのままじゃダメだろうと、当時は考えていたんです」と黒住氏。

 しかしソニーの完全子会社化が行われ、もともとソニーで育った人間が、ソニーの中でソニーブランドの製品を作ることになった。「ならば、もう“ソニーらしさから離れよう”などとは思わず、本気で自分たちなりの“ソニーらしさ”を追求していこうとなったのです」(黒住氏)

 「これまでも、妥協しない製品作りを心がけてきましたが、このXperia Zについては企画、デザイン、設計などあらゆる部門の担当者が共通の意識を持って取り組みました。もちろん創造性やイノベーションを意識して、薄さに対するこだわりも持っていました。しかし今回のXperia Zでは、設計の人間も“これまでは、可能なことを不可能だと思って誤魔化していたのかもしれないね”と漏らすほど、新しいことに挑戦しています」(黒住氏)

 例えば、従来ならばカメラ画質を重視しながら、さらに薄さも追求するといった場合、カメラユニットが多少、背面から出っ張ってしまうのを誤魔化すようなデザインを施していた。しかしXperia Zでは、設計上の制約を外装デザインで誤魔化すことはやめて、コンポーネント単位で積み木がキレイに組み合わさるよう設計し、薄く妥協のないデザインと性能、機能を実現できないかと考えた。

 「同じ目標をチーム全員が共有し、デザイナーと設計者がそれぞれに基本デザインを組み上げていくと、両者ともまずは目標とするべき骨格(フレーム)を作り、その中にぴったり必要部品を並べていきました。妥協のない工業デザインとしての美しさを、設計とデザイン、両者のコラボレーションで引き出せたと思います」(黒住氏)

 もっとも、それだけならば他社も同じことはできる。そこでこだわったのがカメラだと黒住氏は言う。

 「ソニーのモバイル用カメラユニットは外販していますから、性能や機能などの面で他社製品との差別化はできません。しかし、そうした制約の中でも何か特別な製品を作るアプローチはないかと考えました。そこで、センサーやカメラを作っているデジタルイメージングの開発チームが、カメラの中に入れている映像処理や画作りのノウハウをXperia Zの中に組み込みました。さらに、今回採用したイメージセンサーは、センサーと映像処理回路を積み重ねた積層センサーを使っています。この積層部分に独自の回路を入れ、アナログレベルでのチューニングも行いました。レンズの明るさやセンサー自身の優秀さもありますが、それ以外の部分での作り込みで高い完成度のカメラを作ることができました」(黒住氏)

 同じような“作り込み”に関するこだわりは、このほかにも多く盛り込まれている。ブラビアエンジンIIを組み込んだ(動画や写真の見栄えが良くなるという)表示品位も、「一目見ただけで通常の液晶ディスプレイとは違うことが分かるはず。だからこそ実物を見て評価してほしい」と黒住氏。そう主張する部分もまた、ソニー社内のテレビ部門が持つノウハウを注入したものだ。

 “よりソニーらしくあること”に対して恐れなくなったことが、ソニーモバイルの製品を変えた。これが黒住氏の自己分析である。とはいえ、ひとつの製品に注ぎ込む情熱だけでは、将来にわたって優れた製品を生み出すブランドにはならない。

 しかし、黒住氏は「従来の考え方をすべて捨てて、まったく新しいアプローチで製品開発に取り組んでいるのが、今のソニーモバイルコミュニケーションズです」と話した。

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