「SIMロックフリーなスマートフォン」、略して「SIMフリースマホ」。
最近、「格安SIM」と組み合わせで登場することの多い「SIMフリースマホ」。最近ではこのように呼ばれることが多いですが、もともとは「SIMロックフリー」のスマートフォン、つまりこの連載の第2回でご説明した「SIMロック」が掛かっていないスマートフォンのことを指します。それがいつしか簡略化され、「SIMフリースマホ」と呼ばれるようになったわけです。今回は、このSIMロックフリースマホについてご紹介します。
「SIMフリースマホ」といっても、SIMロックの有無以外は普通のスマートフォンとそう大きくは変わりません。例えばiPhoneでは、我々MVNOの中の人でも型番や画面操作でSIMロックフリー版iPhoneと携帯電話会社版のiPhoneの区別は付けることができず、SIMカードをいろいろ入れ替えてみて、初めて「SIMロックされてないからSIMフリー版iPhoneだ」と気付くくらいです。
ここでは、ひとまずiPhoneは横に置き、「SIMフリースマホ」として店頭で売られているAndroidスマホと、携帯電話会社のブランドで売られているSIMロックありのAndroidスマホの違いをご説明します。
いくつかのメーカーは、SIMロックフリースマホも販売しつつ、携帯電話会社ブランドでもスマートフォンを供給していますが、そのどちらかだけというメーカーもあります。
例えばソニーモバイルは、最新型の「Xperia Z5」をドコモ、au、ソフトバンクに供給しているほか、過去にも数多くのXperiaシリーズを携帯電話会社に供給してきました。ですが、SIMロックフリースマホは「Xperia J1 Compact」のわずか1機種のみです。そしてこのXperia J1 Compactは機能的には2014年に発売された「Xperia A2」と同等の製品であり、「2015年に発売されたXperiaの新製品」と思うと多少見劣りがします。
このように、携帯電話会社からは各社の最新ハイエンド端末が登場しながらも、SIMロックフリーとしては製品化されず、処理能力、メモリの量、画面の解像度、カメラの性能など多少性能面で劣る端末がSIMロックフリースマホとして登場することはよくあります。最新のハイエンド端末を追いかけたい利用者からは、SIMロックフリースマホのラインアップはやや物足りなく感じられるものでしょう。
おサイフケータイ、ワンセグ、以前この連載でもご紹介した緊急地震速報など、日本独自の機能や、世界標準ではあるものの日本市場以外ではほとんど普及していない機能は、多くのSIMロックフリースマホが対応していません。
これは多くのSIMロックフリースマホが日本市場のために企画開発されたものではなく、メーカーが海外で販売しているモデルを元にして日本で製品化されたものだからです。なかには富士通の「arrows M02」のように SIMロックフリースマホながらおサイフケータイに対応したモデルもありますが、モバイルSuicaに対応しないなど、キャリアモデルに比べると一段劣るものとなっています。
海外で販売したモデルをベースにしていることによるもう1つのデメリットは、日本の周波数への対応面です。例えばドコモのLTEは現在5つの周波数帯でサービスが提供されており、ドコモのネットワークを利用したMVNOのSIMでもこの5つの周波数の全てを利用することができます。
携帯キャリアでは、人口の多い場所で、ある周波数が混雑してしまい増強ができない場合、その他の周波数を重ねて使ってエリア整備を行うことがあります。その場合、さまざまな周波数に対応したスマートフォンであれば混雑の影響を受けにくくなるのですが、周波数対応が十分でないと、混雑した周波数を使い続けるしかなく、通信品質が十分に保てないことになりかねません。
一般に携帯電話会社ブランドのスマホの場合は、各携帯電話会社が持つ周波数への対応は万全ですが、SIMロックフリースマホでは、日本向けに企画されたものでないために周波数対応が十分でないものが多く、そこもデメリットの1つでした。
ただ、最近では携帯電話会社ブランドのスマホほどではないにしろ、LTEの多くの周波数に対応したモデルが増えてきて、より安心してSIMロックフリースマホを利用できるようになってきています。
面白いのはiPhone 6s/6s Plusで、2015年9月に登場した最新のスマートフォンであるにも関わらず、Band 21(1.5GHz帯)への対応がされていません。これはドコモ版でも全く同じ。SIMロックフリー版iPhone 6sをMVNOのSIMで使っても、ドコモ版のiPhone 6sでも、こと電波のつかみという点では全く同じです。
「スマートフォンが故障した」「水に濡らしてしまった」などの場合、携帯電話会社ブランドのスマートフォンであれば、直営の携帯電話ショップにて修理対応してもらうことができます。時間がかかる場合は代替機を借りられるサービスがあったりもします。
SIMロックフリースマートフォンの場合は販売店に相談することになりますが、修理に時間がかかったり、水没の場合などは多額の修理費用がかかったりすることもあるようです。最近ではMVNOが故障修理費用の一部を補てんするサービスなどを提供している場合もありますので、利用されるといいかもしれません。
ここまで、携帯電話会社ブランドのスマホと、SIMロックフリースマホの違いをご説明してきましたが、もしかすると皆さんの中には、SIMロックフリースマホを選ぶことが少し怖くなってしまった方もいるかもしれません。ただ、最近では、SIMロックフリースマホもさまざまなモデルが登場しており、その完成度も日増しに上がってきています。ここでは、SIMロックフリースマホを選びたいけど店頭では目移りしてしまう、どんなところに気を付けて選んだらいいか分からない、そんな方に向けていくつかアドバイスしたいと思います。
SIMロックフリースマホは必ずしもまだ普及しているとはいえないもの。もし何か使い方に困っても、周りで同じ機種を持っている人を探すのは難しいかもしれません。そんなあなたにおすすめなのは「iPhone 6s」。都市部にあるアップルストアだけでなく、ネットで注文することもできます。
値段は他のSIMロックフリースマホよりかなり高額なものの、周囲に使っている人が多いiPhoneは、困ったときに相談できる人が身近にいることがメリットです。「でもちょっと高い……」という方、1世代前の「iPhone 6」、2世代前の「iPhone 5s」も新品がまだ販売されており、こちらは多少安く買うことができますので、覚えておくといいかもしれません。
携帯電話というと日本メーカーのものが……という方も多いかもしれませんが、海外メーカーでもASUSやHuaweiなどは、高品質が要求される日本市場でのSIMロックフリースマホの販売実績が豊富で、価格と性能のバランスが優れています。
「そんな会社聞いたことない……」という方でも、この値段(2万〜4万円ほどの製品が多い)なら恐れず一度買ってみてもいいのでは? また日本メーカーにこだわりたい方には、2015年の秋に発売された富士通のarrows M02が価格も安くお勧めです。
携帯電話会社ブランドのスマートフォンでは、周波数のことを考える必要はありませんが、SIMロックフリースマホは先に書いたように、日本市場向けに企画された製品ではないことが多いので、ほんの少しだけ注意していただきたいところ。
ただ、各社の最新のSIMロックフリースマホでは、日本国外ではほとんどLTEのために使われていないBand 21を除く4つの周波数に対応したモデルが増えてきていて、より安心して買えるようになってきました。Androidをお考えであれば、各社の最新モデルがお勧めです。
最後に、これはSIMロックフリースマホだけの問題ではなくMVNO全体にも関わってくるのですが、気軽にショップに行って相談できる既存携帯電話会社と違って、MVNOやSIMロックフリースマホとなると、困ったときにどこに相談できるかということがとても重要です。
家電量販店やアップルストア、MVNOのサポート窓口、メーカーの修理受付窓口などさまざまな窓口がありますので、困ったときに安心して相談できるか不安に思われる方もいらっしゃることでしょう。あらかじめ不安なことがあれば、店員やMVNOやメーカーの窓口、Twitterアカウントなどにどんどん聞いてみて、しっかり対応できる安心な事業者から購入されるといいと思います。
佐々木 太志
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) ネットワーク本部 技術企画室 担当課長
2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。
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