レビュー
» 2012年03月01日 09時30分 公開

iPhoneの音楽機能もさらに使いやすく――Apple「iTunes Store」の進化を考える (2/2)

[神尾寿,ITmedia]
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音質のいいスピーカーとApple TVが欲しくなる!? Mastered for iTunesの威力

 音楽のクオリティ向上という点では、もう1つ注目の取り組みがある。「Mastered for iTunes」だ。

 Mastered for iTunesは楽曲の制作時に、「iTunes向けに最適化したマスタリング作業を行うことで、高音質化を実現する」(ロウ氏)というもの。iTunes PlusやAppleロスレスのように音楽圧縮技術を向上させる機能的なアプローチではなく、音楽を制作・収録する“音作り”の課程で音質を向上させるのだ。

 短い時間ではあったが、いくつかの楽曲を視聴してみたところ、確かに同じ楽曲でもMastered for iTunesは明らかな音質向上を感じられた。それは“よいスピーカー”や“よいイヤフォン/ヘッドフォン”を使った時に顕著に感じられた。とりわけApple TVを通じてAir Playで本格的なスピーカーシステムで聴くと違いは明らかだ。Mastered for iTunesの楽曲が今後増えるのならば、Apple TVをテレビにつなぐだけでなく、オーディオシステムにもこだわりたくなる。

 このようにMastered for iTunesの音質の違いは明確だが、こちらはiTunes Plusのように今後の配信楽曲すべてに適用されるものではなく、それを使うかどうかはミュージシャンと音楽レーベルの方針に委ねられる。すでに先行的にMastered for iTunesで作られた曲がiTunes Store上の特設ページで紹介されているが、筆者としては今後さらに多くの楽曲がMastered for iTunesで作られて、標準的なものになってもらいたいと思う。そのくらい音質の差は歴然なのだ。また、すでに制作・販売済みの楽曲についても、Mastered for iTunesでリマスタリングしたバージョンの登場にも期待したいところだ。

Photo Mastered for iTunesはiTunes用にマスタリングすることで、同じビットレートでも高音質を実現している。現在はMastered for iTunes対応の楽曲を特設サイトで紹介中だ


音楽ビジネスの選択肢拡大にも取り組み

 iTunes Store向けの音楽ビジネス拡大という観点では、新たに「Complete My Album」と「Ringtone」という機能が用意された。

 Complete My Albumはその名のとおり、アルバム楽曲を“買いやすい”・“売りやすい”ものにするためのものだ。これまでのiTunes Storeでは、アルバムで販売されている曲の中から1〜2曲だけ購入し、その後にアルバムの他の曲すべてを買おうとすると、アルバム単位で買うよりも高くついてしまうことがあった。Complete My Albumはこの問題を解決するものであり、「アルバムの中にすでに購入済みの楽曲があると、その曲の分の価格は差し引いて、残りの金額だけ支払えばアルバム全体が買える」(ロウ氏)のである。

PhotoPhoto Complete My Albumでは、すでに購入した楽曲の価格を差し引いて、アルバムを購入することが可能。アルバム単位での購入がしやすくなった

 音楽を曲単位で買うというマイクロコンテンツ化の流れはAppleのiTunes Storeが作ってきた潮流であり、アルバムという形で“売れる曲に合わせて安易な曲がパッケージ販売される”という問題を破壊する面では貢献もあった。その反面、音楽の中には「アルバムというコンテキスト(文脈)の中でしか表現し得ない世界観」があるのも確かだ。また、やみくもなマイクロコンテンツ化の流れは、コンテンツビジネスそのものを疲弊させてしまうという弊害もある。

 そういった観点からいうと、今回のComplete My Albumは“最初はコンテンツ単位でしか売れなくても、良質なアルバム作りをすれば、アルバムとしても買ってもらえる”という環境を作るものだ。音楽ビジネス側にとっても、アルバムというコンテキストでのビジネスに再挑戦するきっかけになるだろう。

Photo RingtoneではThe Beatlesの楽曲販売が始まった。今後、邦楽をはじめどれだけ楽曲数が増えるかが注目である

 もう1つのRingtoneだが、これは日本ではケータイ向けでおなじみの「着メロ/着うた」の仕組みである。1曲250円単位の販売になり、標準着信音やアラーム音などに設定できるほか、特定の相手に対してのみ着信音を変えて設定することも可能になる。また今回、AppleではThe Beatlesの曲をRingtoneとして独占的に配信することになったという。

 しかし、その一方で、iPhoneのRingtone対応に関しては、少し“今さら感”があるのも事実だ。周知のとおり日本では、着メロ/着うた市場がすでに普及拡大期を終えている。若年層を中心にケータイの着信はマナーモードやシンプルな着信音を設定するケースが増えており、「着うたが流れるのは今さら恥ずかしい」という風潮が一部であるのは事実だ。海外市場の地域によってはRingtoneのビジネスがまだ普及拡大期にあるのかもしれないが、着うたブームが一巡し、市場が停滞・縮小期に入り始めた日本では遅きに失した感は否めない。もう少し早く投入されていれば……、と残念に思ったのは偽らざるところだ。


Appleは音楽を愛している

 少々、厳しい意見も述べたが、諸々のiTunes Storeの機能強化が、ユーザーにとって歓迎すべきものであるのは確かだ。しかも単なる利便性向上に留まらず、“音楽を楽しむ”ことそのものに踏み込む取り組みがなされている。音楽を自社の製品・サービスを売るためだけの手段ではなく、文化として尊重し、音楽の世界を広げていこうという姿勢が垣間見えるのだ。この点についてロウ氏はシンプルに、

 「Appleは音楽を愛している」

 と語った。これがAppleの強みであり、iTunesの最大の優位性と言えるだろう。

 モバイルITを軸とする今後のデジタル市場を俯瞰すると、コンテンツの重要性はさらに増していく。とりわけコンシューマー向けスマートフォンやタブレットは音楽コンテンツ市場との結びつきが強い。iPhoneとiPadの好調を支えるという点でも、今回のiTunes Storeの機能強化は重要なものと言えそうだ。

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