フィル・シラー氏に聞く ライバルが崩せないAppleの優位性と、日本市場への思い神尾寿のMobile+Views(1/2 ページ)

» 2011年12月23日 14時30分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 現在のIT産業において、Appleが欠くことのできない企業になっていることは言うまでもないだろう。とりわけ2007年のiPhone発売以降の躍進と存在感の高まりはめざましい。iPhoneとiPadが、今日のスマートフォン市場とタブレット市場の可能性を切り拓き、力強く牽引していることは紛れもない事実だ。

Photo Apple ワールドワイドプロダクトマーケティング シニアバイスプレジデントのフィル・シラー氏

 そしてAppleは、PC市場やデジタル家電市場にも「革命」を起こしている。2011年に投入された「MacOS X Lion」と「MacBook Air」は、ソフトウェアとハードウェアの両面でPC市場の“モバイルシフト”を鮮明化。PC市場のトレンドを先取りしている。一方、デジタル家電分野は今後の取り組みが注目されるところだが、“スマートフォンやタブレットとシームレスに連携する新たなユーザー体験”の嚆矢は、2010年11月に投入されたApple TVとiOS 5やMacOS X Lionとの連携にその片鱗を見ることができる。

 名実ともにIT業界を牽引するAppleは今、何を考えているのか。

 筆者は今回、Apple ワールドワイドプロダクトマーケティング シニアバイスプレジデントのフィル・シラー氏に単独インタビューをする機会を得た。そこで年末の特別企画として、Appleの現況と日本市場との関わり、年明けの新生活商戦に向けた意気込みなどについて話を聞いていきたい。

Appleの強みは「責任を持つ」ところにある

――(聞き手 : 神尾寿) Appleはスマートフォン、タブレット、オーディオプレーヤー、PCなど各セグメントでライバルメーカーに対して高い競争優位性を持っています。IT業界は差別化戦略がもっとも難しいところですが、Appleはなぜ、高い独自性と競争力が維持できるのか。この点をまずお聞かせください。

フィル・シラー氏 Appleは強い独自性を持っていますが、なぜそれができるかと言えば、「製品に責任を持つ」ことが常にできるからです。これはコンシューマー向けの(IT・デジタル)製品が増えてくるにしたがって、とても重要になっています。

 Appleはハードウェア、ソフトウェア、サービス、コンテンツのすべてにおいて、最良のものを提供するという考え方です。これにより優れたユーザー体験を実現しています。こういった(すべてに責任が持てる)体制があることが、他社には真似のできない製品が提供できる背景にあるのです。

―― 複数のApple製品を使うと分かりますが、Appleの製品群とソフトウェア、サービスはシームレスに連携しています。これはAppleがすべてにおいて責任が持つからこそ実現できているわけですね。

シラー氏 そのとおりです。翻って他社の製品を見れば、その多くがフラグメンテーションされていて、(ハードウェアやソフトウェア、サービスが)うまく連携されていません。製品として見た時に、完成度が低くなってしまっているのです。

―― Apple製品の強みは、UIデザインをはじめとした「ユーザー体験」にあります。なぜAppleは、優れたユーザー体験を生み出せるのでしょうか。

シラー氏 ユーザー体験の部分で他社と違いがあるとすれば、Appleの製品は常に「新しいカテゴリーを作ろうとしている」ことです。さらに、それぞれの新たなカテゴリーにおいて、すばらしいものを作るというビジョンと信念を持っています。失礼ながら多くの競合他社は、Appleの真似をしていますよね(笑)

―― 言い換えれば、創造性があるかどうかである、と。

シラー氏 ええ。Appleは道を作ります。そのAppleが作った道を追走してくるのが競合他社だと思うのですね。新しいカテゴリー作りにビジョンを持っているかどうか。オリジナルのアイデアを持って努力をしているかどうかというのが、(Appleと他社との)ユーザー体験の質の違いにつながっています。

Androidのシェアが増加しても、iOSの優位性は崩れない

―― 現在、PCやタブレットのカテゴリーではAppleのシェアが伸びています。しかし、その一方で、スマートフォンのOS別シェアで見ますと、全体の伸びに対してAndroidのシェア拡大が著しく、相対的にiOSのシェアは小さくなる、という状況になっています。このような傾向は今後も続くのでしょうか。

シラー氏 それは違う角度で見た方がいいでしょう。まず製品別シェアで見れば、iPhoneは他メーカーのどのAndroidスマートフォンにも負けていません。

 またプラットフォームで見た場合も、Androidは個々のメーカー・製品ごとに分断されていて、同じアプリが動かないことがあります。また同時期に販売されているモデルでも、Androidのバージョンが異なっていることすらあります。これでは同一のプラットフォームとは言えません。Androidはひとくくりにカウントされていますけれども、実はそうではないのです。

 一方、iOSデバイスはプラットフォームの単一性が高く、トータルで2億5000万台もの出荷台数があります。プラットフォームの規模としてどちらが優れているのか、フェアな形で比較をしていただきたいと思うのですね。

―― プラットフォームの単一性や累積出荷台数で見た時の優位性はいまだに崩れていない、ということですね。

シラー氏 そのとおりです。その上で私は思うのですが、単純に“いちばん売れていること”だけが重要なわけではありません。もちろんiPhoneは販売台数でトップを維持しているわけですが、これは品質やデザイン、(ハードウェアとソフトウェアの)インテグレーションなどがお客様に評価されているからです。単に数を売るだけなら、安いだけのスマートフォンをたくさんラインアップすればいい。しかし、それでは意味がないのです。

―― なるほど。販売数を稼ぐために品質を落としたり、やみくもに製品バリエーションを増やしたりはしないわけですね。

 日本でもアプリ開発者のインタビューをしますと、iPhone向けの方がプラットフォームが単一なので開発・検証しやすいという話を聞きます。これはiOSプラットフォームの中での互換性が高いレベルで維持され、ラインアップが粗製濫造されていないからこそ実現されている“よい環境”なわけですけれども、こういった方向性はAppleの方針として今後も継続するのでしょうか。

シラー氏 それは「イエス」です。iOSのプラットフォームが多くの開発者に評価していただけているのは、我々の大きな優位性です。アプリ開発がしやすい環境を作り、コンテンツストアやアプリストアを1つにまとめておく。そして製品と一貫性を持って提供する。これらは開発者の方々とお客様の双方にとってメリットがあります。

 あと、もう1つ重視していただきたいのが、iOSのプラットフォームがセキュアであることですね。アプリストアやOSプラットフォーム全体にスパイウェアなどマルウェアの脅威があるようでは、お客様は不安になり、ひいてはデベロッパーにとっても不利益が生じます。我々のApp Storeでは、そういった(セキュリティへの)不安がないのです。

―― 確かにAndroidスマートフォンが普及し始めたことで、Androidスマートフォンを狙ったマルウェアが急増し、一般ユーザーの中に“スマートフォンはウイルスやスパイウェアがあって危ない”という意識が広がりました。実際、販売現場を取材していると「マルウェアが怖いからアプリはダウンロードしない」というユーザーの声も少なからず聞きます。こういった風潮が広がりますと、コンテンツ開発者のビジネスには逆風です。

一方で、iOSはAppleがプラットフォームやアプリストアの安全・安心に腐心している。実際、AppleのApp Storeは、GoogleのAndroidマーケットよりセキュアな環境が維持されています。だから一般ユーザーでも安心してアプリの購入ができる。この違いは、かなり大きなものと言えますね。

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