「モバイルディスプレイの根本を変革する」――シャープがIGZO新技術を発表有機ELにも応用可能

» 2012年06月01日 19時31分 公開
[田中聡,ITmedia]

 シャープが6月1日、スマートフォンなどモバイル機器向けの液晶ディスプレイに用いる「IGZO」(酸化物半導体)の新技術を、半導体共同エネルギー研究所と共同開発したことを発表した。

 新IGZOは、In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)で構成される酸化物半導体に結晶性を持たせたもの。現行のIGZOよりも薄膜トランジスタ(TFT)の小型化や高性能化が可能になり、ディスプレイのさらなる高精細化や、有機ELなどへの応用が可能になる。今回同社が試作したディスプレイは、液晶が4.9インチ/720×1280ピクセル(302ppi)と、6.1インチ/2560×1600ピクセル(498ppi)、有機ELが13.5インチ/3840×2160ピクセル(326ppi)、3.4インチ/540×960ピクセル(326ppi)。

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IGZOは「高精細」「低消費電力」「タッチパネルの高性能化」を満たす技術

 シャープ 副社長執行役員 技術担当 兼 オンリーワン商品・デザイン本部長の水嶋繁光氏は発表会で、あらためてモバイル液晶分野の重要性とIGZOの優位性を説明した。携帯電話、タブレット、ノートPC、車載モニターなどに搭載されているモバイル液晶は「年率17%で成長しており、この成長を支えるために、モバイル液晶には大きな技術革新が求められている」と水嶋氏は話す。

photophotophoto モバイル機器向けの液晶市場は毎年成長している(写真=左)。携帯電話やタブレット向けディスプレイでは高解像度化が進んでいる(写真=中、右)
photophoto 携帯電話、特にスマートフォンにおける低消費電力のニーズは大きい(写真=左)。タッチパネルの搭載機器も増加している(写真=右)
photo シャープの水嶋繁光氏

 モバイル液晶に求められる要素は「高精細」「低消費電力」「タッチパネルの高性能化」とシャープは考えるが、IGZOは、まさにこれら3つの要素を満たす技術だと水嶋氏は説明する。まずは高精細について。IGZOでは電子の移動度(オン電流)が、従来のアモルファスシリコンよりも20〜50倍高く、液晶に使われているTFT(薄膜トランジスタ)をさらに小型化できる。その結果、より細い配線で電力を供給できるので、液晶の開口率(透過率)が向上し、「同等の透過率なら2倍高精細になる」(水嶋氏)という。

 携帯電話の消費電力のうち50%以上を占めるといわれている、ディスプレイの消費電力を抑えることにもIGZOは貢献する。従来の駆動方式では、メニュー画面の表示中など動きが止まっているとき/スクロールなど動きのある場合のどちらも、1秒間に60回電流を流しているが、新駆動方式では静止表示のときに電圧を止められる。この手法をアモルファスシリコンで用いると電圧が漏れてフリッカーが発生するが、IGZOではフリッカーが起きず、電圧を完全に止められる。これにより、静止表示の際にはアモルファスシリコンと比べて5分の1から10分の1まで消費電力を抑えられるという。

※初出時に「60秒に1回電流を流している」との記述がありましたが、正しくは「1秒間に60回」です。お詫びして訂正いたします(6/1 21:21)。

 タッチパネルについては、従来は液晶パネルからノイズが発生してタッチパネルの検出精度に影響を及ぼしていたが、フリッカーが出ないIGZOでは、表示に影響が出ない範囲で液晶パネルの駆動を止められる。その間はノイズが発生しないため、SN比(信号に対するノイズ量)が従来の5倍向上するといい、「高感度でスムーズなタッチ操作が可能になる」(水嶋氏)。

 生産性の高さもIGZOの優位性だ。製造プロセスがアモルファスシリコンTFTと同等なので、スムーズに製造を移行できる。開発コストも現行のIGZOと新IGZOでは「ほとんど変わらない」(説明員)という。(液晶パネルの素材である)大型マザーガラスにも対応し、G8(第8世代)以上のパネルでも生産が可能としている。

photophoto IGZOの3つの特長(写真=左)。TFTの小型化と配線の細線化により、同等の透過率で2倍の高精細化を実現する(写真=右)
photophoto 静止表示中の消費電力が大幅に低減される(写真=左)。タッチパネル使用時のノイズ低減にも貢献する(写真=右)
photophoto 製造プロセスがアモルファスシリコンTFTと同等で、大型マザーガラスにも対応する(写真=左)。IGZOの特長まとめ(写真=右)

新IGZOでは500ppi以上の高精細化が可能に

photo 「CAAC」について説明をする、半導体エネルギー研究所 代表取締役社長の山崎舜平氏。「CAACは2009年に私が電子顕微鏡を見ていて偶然発見した新しい結晶構造。これを何とか産業化しようと思い、これまでと変わらない手法で生産技術に昇華できた」と話した

 今回シャープが発表した新IGZOは、アモルファス状態(非結晶体)である現行のIGZOを結晶化したもの。新しいIGZOは「CAAC(C-Axis Aligned Crystal)」と呼ばる。このCAACは平面では六角形構造、断面からは層状構造が見られ、単結晶ともアモルファスとも異なる結晶構造となっている。この構造により、「IGZOの物性を向上させて安定化させられる」(水嶋氏)という。TFTを小型化することで500ppi以上の高精細化や、アモルファスシリコンよりも製造プロセスを簡略化できるメリットもある。有機ELやタッチセンサー、電子ペーパー、フラッシュメモリ、CPUへの応用も可能で、シャープと半導体エネルギー研究所は、こうしたノンディスプレイ分野への展開も視野に入れて研究開発を進めていく。ただ、現時点で有機ELについては水嶋氏は「モバイルディスプレイの一分野として重要だとは理解しているが、高精細化と低消費電力が市場で求められているので、これをきちっと達成することが重要。技術的に有機ELの開発はできるが、投資効果が望めるかはまだ課題がある」と慎重な姿勢を示した。

photophoto 結晶化した新IGZOではさらに高精細な液晶を開発できる(写真=左)。高性能な液晶技術により、スマートフォンやタブレットなどの進化も支える(写真=右)
photophoto CAACとは(写真=左)。結晶構造と材料(写真=右)
photophoto 液晶や有機ELに加え、ノンディスプレイ分野への応用も可能(写真=左)。IGZOの結晶構造(写真=右)
photophotophoto 平面では六角形構造(写真=左)、断面では層構造が見られる(写真=中)。IGZO液晶のC軸が膜表面に対して垂直となるので「C-Axis Aligned Crystal」と名付けられた(写真=右)

 「クライアントとの話し合いで決まっていくことではあるが、現行のIGZO液晶の製造は2012年度中には新IGZOに移行していく」と水嶋氏は話す。新IGZOを搭載した製品が市場に登場する時期も気になるが、会場の説明員は「2012年度中には登場するのでは」と話していた。

 水嶋氏はIGZOに用いられた新しい技術は「モバイルディスプレイの根本を変革する技術だ」と意気込む。スマートフォンを使う上で避けては通れない消費電力の問題を改善しながら、ディスプレイのさらなる高解像度化を実現させる――IGZO液晶の導入が、モバイル分野の歴史に大きな足跡を残すことになりそうだ。

photophoto 新IGZOを採用した13.5インチ、QFHD(3840×2160ピクセル)の有機ELディスプレイ(写真=左)。こちらは新IGZOを採用した6.1インチ、ワイドQXGA(2560×1600ピクセル)の液晶ディスプレイ
photophoto アモルファスシリコン液晶とIGZO液晶を搭載した液晶ディスプレイの比較

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