「スピードテスト」にどれだけ意味があるのか?MVNOの深イイ話(1/3 ページ)

» 2016年06月29日 20時21分 公開
[堂前清隆ITmedia]

 皆さんが格安SIM・MVNOを選ぶときに気にされるポイントはどこでしょうか? 毎月の支払い価格はもちろん、セット販売の端末のバリエーションであったり、ポイントサービスの充実度が選択基準になるかもしれません。ですが、最も注目を集めているのは「通信速度」ではないでしょうか。

 「同じキャリアの設備を利用していても、MVNOによって速度が異なる」という実態は以前と比べると随分知られるようになってきました。ITmedia Mobileを始め、各種メディアや個人ブログでも、「どのMVNOの通信速度が速いか」を論じる記事が数多く掲載されています。こういった記事で取り上げられるのは、スマホで実行できる「スピードテストアプリ」の実行結果です。中には毎月複数のMVNOについてスピードテストアプリの「定点観測」を行っている方もいらっしゃり、その努力には頭が下がります。

 ただ、残念ながらそれらの記事の中には、MVNOの中身を知っている立場から見ると「残念だなぁ」と思うものも含まれています。そこで、今回の記事では「MVNOを評価する」という観点からスピードテストについてあらためて考え直してみたいと思います。

MVNOの深イイ話 スピードテスト(通信速度の計測)にどれだけ意味があるのかを考えていきます

スピードテストは何を測っている?

 スピードテストアプリはいくつかの種類が配布されていますが、どのアプリもおおむね結果表示は同じです。「ダウンロード速度」「アップロード速度」の表示と、「ping値」(RTT・遅延時間)が表示されるのが一般的でしょう。速度は数字が大きい方が速く、ping値は速度が小さい方が良いといわれています。これらの数字は、手元のスマートフォンと、インターネット上に設置されたスピードテスト用サーバの間で実際に通信を行い、その模様を計測することで数値を算出しています。

 通信速度が低下したり、ping値が悪くなったりする原因は、スマートフォンからスピードテストサーバの間にあるさまざまな通信設備の混雑や、電波状況の悪化です。そして、混雑と一口に言っても混雑が発生するポイントにはさまざまな箇所があります。

MVNOの深イイ話

 上記の図では、スピードテストの結果に影響を与えそうな要素を列挙しています。ただ、実際にはこの中で「電波状況」「基地局の混雑」「キャリアとMVNOの接続点(POI)の混雑」の3つの要素が測定結果に与える影響が大きく、他の要素はあまり影響を与えていないように思われます。

 そこで、今回の記事では上記3つのポイントに絞って話を進めてゆきたいと思います。

MVNOの深イイ話

スピードテストサーバが結果に影響を与えた例

 有名なスピードテストアプリ「speedtest.net」では、テスト用のサーバをさまざまな団体(個人)が提供しています。測定時にはその中から「計測地点に最も近い」と推測されたサーバが自動的に選ばれます。

 ところが、2014年の秋頃、断続的に日本国内にあったサーバが全て利用できなくなることがあったようで、そのタイミングではなぜかウラジオストク(ロシア)にあるサーバが計測に利用されたようです。日本国内のサーバと比べ、海外にあるサーバで計測した場合は通信速度が遅くなる傾向があるので、日本国内から計測したスピードテストの結果も悪くなります。

 それに気付かずにテストを行っていた方が少なからずいらっしゃったようで、Twitterを見ていると「最近以前に比べて速度が遅くなった?」とつぶやかれている方が前後より多かったように感じました。


速度を上下する要素とその影響範囲

 今回取り上げる3つの要因について、もう少し細かく見てみます。

 まず、電波状況についてです。基地局とスマートフォンの距離が遠くなると電波が弱くなります。また、距離が近い場合でも、周辺に別の電波が出ている場合にその影響を受けることがあります。こうした場合、通信速度が低下する可能性があります。

 次に基地局の混雑について。これはその基地局自体の通信能力や、基地局が使っている電波に対し、その基地局が担当するエリアでの通信需要がどの程度あるかによって変化します。基地局の設備は能力の高いものから低いものまでさまざまあり、基地局によって使用している電波も異なります。また、1つの基地局が担当するエリアの広さも基地局によって異なります。単純に周辺に人が多いか少ないかだけでなく、あくまでそのエリアについて、用意された設備に対してどの程度の通信需要があるのかによって混雑状況が変わることに注意してください。もちろん設備に対して需要が過多になると、通信速度が低下します。

 最後にキャリアとMVNOの接続点(POI)の混雑について取り上げます。ITmedia Mobileの記事でも紹介した通り、最近のMVNOは「帯域」単位でキャリアの設備を借りています。もし、キャリアから借りている帯域が利用者の需要を上回っているのであれば、それが原因で通信速度が下がることはありませんが、需要に対して十分な帯域を確保できていない場合は通信速度が低下してしまいます。

 これらの要素が影響し合った結果が、スピードテストで表示される「通信速度」です。それぞれの要素の中で、最も条件が悪いものが「ボトルネック」になり、通信速度の上限を押し下げてしまうのです。

MVNOの深イイ話

 ところで、これら3つの要素は通信速度に対する影響の与え方が異なります。

 先にも書いた通り、電波状況は基地局との距離や周辺の電波の影響を受けますので、1つの基地局が担当する同一エリアの中でも場所によって状況が異なります。また、基地局の混雑が原因になる場合は、そのエリア内のスマートフォン全てが場所に寄らず一律に影響を受けます。

 そして、これら2つの要素は、同じ設備を使っているキャリア・MVNOに対して等しく影響を与えています。例えば基地局が混雑している問いは、特定のMVNOだけが通信速度が低下するのではなく、他のMVNOやキャリア自身も通信速度が低下してしまうのです。

 一方、キャリアとMVNOの接続点(POI)の混雑による速度の低下は、MVNOによってばらばらです。これは、キャリアとMVNOをつなぐPOIがMVNOごとに分かれているためです。しかし、POIによる混雑はエリアによる違いは発生しません。なぜなら、キャリアとMVNOをつなぐ設備は全国1カ所か2カ所であり、全国の基地局で行われた通信が全てそこに流れ込むからです。

 以前の記事でも取り上げた通り、キャリアから借り入れる帯域をどの程度用意するかがMVNOビジネスにおける最も重要なポイントであり、各社によって借り入れの方針が異なります。それが顕著に現れるのがPOIの混雑による速度低下なのです。

 ですので、もしスピードテストによってMVNOの「実力」を測りたいのであれば、POIの混雑が比較できるような測り方をしなければなりません。

キャリアが違うと設備も違う

 日本のMVNOの多くはNTTドコモの設備を借りていますが、mineo(Aプラン)・UQ mobileなどいくつかのMVNOはauの設備を借りています。ドコモとauでは基地局や使用している電波が異なりますので、同じ場所でも電波状況が違います。また、基地局の混雑の状況も異なっています。このため、ドコモの設備を使うMVNOと、auの設備を使うMVNOを比較する際には、MVNOとの接続点(POI)の状況だけでなく、ドコモ・auの設備の違いもスピードテストの結果に影響しているということを意識する必要があります。


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