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» 2012年05月24日 00時00分 UPDATE

バラして見ずにはいられない:「新しいiPad」 国内版の“中身”を分解して知る (1/3)

Appleが発売した第3世代のiPadは、今後の同社の製品ラインアップを占う上でも重要なデバイスだ。すでにさまざまなメディアで「新しいiPad」の中身が明らかにされているが、6月のWWDCの開催を前に、改めて国内モデルのiPadを分解し、その中身を確認してみたい。

[柏尾南壮(フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ),ITmedia]

 2012年3月16日にAppleが発売した3世代目のタブレット端末「The new iPad」こと「新しいiPad」。最初の週末を終えた3月19日、同社はプレスリリースでその販売台数が300万台を超えたと発表。国内金融機関は2012年の世界のタブレット市場が8000万台〜1億台と予想しており、このうちのかなりの数がApple製品で占められると思われる。

“革新的”ではなかった?

 海外で新しいiPadを取り上げた記事の中で、頻繁に登場した言葉がある。それは「not revolutionary(革新的ではない)」。米Appleでは、ディスプレイの解像度が飛躍的に向上したため、製品のキャッチコピーにresolution(解像度)とrevolutionaryを組み合わせた「resolutionary」という造語を用いているが、それを意識しての言葉だろう。

 今回の製品に「iPad 3」という名称が付されなかった点からも、この製品が「iPad 2」のアップグレード版と考える人は多い。形状や仕様などを見ると確かにそうかもしれない。しかし新しいiPadを「製品としてこなれてきた」「精錬されてきた」と考える人も多い。劇的な変化はないものの、新しいiPadには現存する最高のテクノロジーが詰まっている。並外れて操作性が高いタッチパネル、水の流れの如く画面をスムーズに切り替える感度抜群のセンサー類など、初代から健在の装備と相まって、現在手の届く最高レベルのタブレットといえる。

新しいiPadの注目点

Photo 新しいiPad

 タブレットの主要部品の1つは言うまでもなくディスプレイだ。PCと異なりタブレットは、文字やグラフだけでなく、高画質な写真や映像、ゲームを楽しむことも多い。それだけにディスプレイの出来栄えは製品イメージを大きく左右する要素だ。新しいiPadのRetinaディスプレイはフルHD画質(1920×1080ピクセル)を超える2048×1536ピクセルで、iPad 2の1024×768ピクセルに比べると、ドットの数は4倍になっている。スマートフォンではHD(1280×960ピクセル)解像度のディスプレイを搭載する製品もあるが、9.7インチの大型画面への採用例は初めてと思われる。どの方向から見ても画面が鮮明に見えるIPS方式を採用しており、Samsung Mobile DisplayとL.G. Displayの2社がパネルを供給していると言われている。ちなみに今回分解した端末ではSamsung Mobile Displayのパネルが採用されていた。

 フルHDを超える解像度を実現したことで、Retinaディスプレイ上ではドットを形成する枠が増え、機械的に複雑な構造になった。つまり網戸の目が細かい。これではバックライトの光が遮られてしまうので、十分な光量を確保するため、新しいiPadは液晶パネルの長辺の両側にバックライト用LEDをそれぞれ42個、合計84個を装備している。iPad 2では片面実装の36個だったので、LEDは今回大幅に数が増加した部品の1つだ。ディスプレイの両側にLEDを配置したタブレットはほとんど例がない。国内シンクタンクによるとこのLEDは豊田合成が供給しているとみられる。

 パワーアップしたRetinaディスプレイをスムーズに駆動できるよう、グラフィック機能に改善が加えられたのがA5Xプロセッサである。製造プロセス(配線幅)はA5と同じ45ナノメートルで、設計はAppleだが、Samsung Electronicsが製造している。グラフィック処理をフルに動作させる時はプロセッサが相当熱くなるらしく、iPad 2ではA5プロセッサの上にDRAMがPOP (package on package)実装されていたのに対し、新しいiPadのA5XはDRAMとは別の場所に単体で基板に実装され、放熱用の銅製と思われる金属板が上に取り付けられ、更にその上に「エラストマー」と呼ばれる白くて厚手の柔らかい放熱材を装着している。

 放熱用金属板を取り外し、A5Xプロセッサを基板から取り外して裏側を見ると、剣山のようにピンが並んでいる。数えたところ縦横35個ずつ、合計1225個あり、その多くが別の場所に実装されているDRAMとの接続に使われていると考えられる。

PhotoPhoto A5Xには放熱用の金属板が取り付けられている
PhotoPhoto A5X裏側のピン数は35個x35個で合計1225個。多くがDRAMとの接続用と思われる

 DRAMはiPad2と比較すると容量が512Mバイトから1Gバイトへと倍増された。エルピーダメモリとSamsung Electronicsが供給している。国内電子部品メーカーによると、容量が2倍になった大きな理由はRetinaディスプレイに対応するためである。理論的にはDRAMの消費電力は最大でiPad 2の2倍になるが、A5Xプロセッサから離れて配置されているため、プロセッサとDRAMを接続する電線も長く、新しいiPadに搭載されているDRAMの電力消費は厳密にはiPad 2の2倍以上となる。新しいiPadの発売後、ボディが温かくなるとの報道があったが、この理由の1つはDRAMの消費電力増大に起因すると言われている。

 消費電力の増大はそのままバッテリー稼働時間に影響する。新しいiPadでは84個のバックライトLEDを搭載したHD画質の液晶、A5Xプロセッサ、大容量DRAMの採用により消費電力が増大したにも関わらず、バッテリーの稼働時間は、スペック上はiPad 2と同じ10時間を確保した。リチウムイオンポリマーバッテリーを3個搭載している点は変わらないが、バッテリー容量はiPad 2の25ワットアワーから43ワットアワーに大幅に強化された。バッテリーの寸法は、それぞれのバッテリーが縦に指一本分程度長くなっているだけであり、何らかの方法で従来とあまり変わらない容積で高い発電効率を達成したと思われる。

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