「あびがどうございまず」:518日間のはい上がり(2/2 ページ)
いよいよ間近に迫った出版記念パーティー。立ち直らなきゃと決めた日、2002年8月23日から数えて518日目だった。
俺にとって区切りとなる2004年1月23日がとうとうやってきた。すでに100回に近い自主開催セミナーを経験してきている。人前で話すのはすっかり慣れた。あの悪夢の第1回セミナーのときとはまったく別人だ。
「♪思えば遠くへきたもんだあ」。海援隊の歌のメロディーをごく自然に口ずさんでいた。自分の歌声に照れる。とはいっても120人の前で話すのは初めてだった。緊張しないと言えばウソだ。
受付は竹下にお願いした。1人では大変だからと友人を何人か連れてきてくれた。竹下はもちろんのこと彼らも俺の本を買ってくれたという。サインをくれというのでさせてもらった。といっても楷書で自分の名前を書いただけだったけど。このおかげで少しだけ緊張がほぐれた。
最初の挨拶と俺の紹介は、井戸さんにお願いした。井戸さんは自分は口べただからといったん断ろうとしたが、たってのお願いということでOKしてもらった。
その井戸さんがいま話している。正直ぜんぜん口べたじゃない。それどころか予定時間を少しオーバーしている。会場も沸いている。俺はまた緊張してきた。
すると突然拍手が鳴り響いた。俺は何が起こったのかと思い、しばらく立ちすくんでいた。「あれ? 出てきませんねえ。さては拍手が足りないので出てくるのがいやなんでしょう。もう一度盛大な拍手を! 金田貴男さんでーーーーーす!!」会場が爆笑に包まれて、その後さっきよりもすごい万雷の拍手が鳴り渡った。
プロレス好きの井戸さんが、リングアナみたいな要領で俺を呼んでいる。さっきの拍手は、井戸さんの話が終わって、俺を呼び出している合図だったのか。俺は、慌てて舞台の袖から出て行こうとしたが、脚がもつれてしまい、ころげながら舞台に出てくる羽目になった。それを見て、会場がまた爆笑と拍手に包まれた。
俺は演壇にあがった。きっと顔は真っ赤だったろう。スポットライトが俺に当たっているせいで、こちらからは参加者の顔がよく見えなかった。
立ち直らなきゃと決めた日――2002年8月23日――から数えて518日目だった。俺は、まず自分がどうしてどん底まで落ちたかという話をし、それからこの518日間のことを一生懸命話した。
- 禁煙ができたという唯一の実績にすがりつこうと思ったこと。
- メルマガを発行したときに勇気がいったこと。
- 人生逆転を賭けて教材を作ったがまったく売れなかったこと。
- 人と会わなきゃダメとセミナーを始めたが、第1回目が大不評で三日寝込んだこと。
- バイトをしながらセミナーを続けようやくかみさんに認められたこと。
- 出版の話がきたときのこと。
- 一生懸命本を書き、講演会にも人を集めたこと。
どのエピソードでも俺は涙が止まらなくなり、声が詰まった。その都度会場から「がんばれっ!」とかけ声をもらった。「あびがどうございまず」と俺は鼻の詰まった声で答え、ハンカチで鼻をかんで、なんとか話を続けるというありさまだった。
ようやく話し終わった。それなのに会場は静まりかえっている。大失敗だったんだなあと俺は自嘲した。ろくにしゃべれなかったもんな……。ところが数秒の間(ま)のあと、突然拍手が鳴り渡ったのだ。あとで聞くと、俺があまりにぐちゃぐちゃになっていたので、終わったのかどうかみんなよく分からなかったみたいだ。
嵐のような拍手の中――俺には本当に嵐のように感じられた。圧倒されて後ずさりしたから――何人もの人が花束を持って壇上にやってくる。スポットライトが消えて会場が明るくなった。
俺は、花束を持ってくる人の中にかみさんの姿を見つけて、こらえきれなくなった。壇上に四つん這いになって動けなくなってしまった。泣きながら数分間、ただただ謝罪と感謝の言葉だけを繰り返すしかできなかった。「すまなかったよぉ……。ありがとなぁ……。心配かけたよなぁ……。ありがとう……。ありがとう……。ありがとう……」
その後。1年間のセミナー修業のおかげで、セミナー終了後のアンケートに感謝の言葉が並ぶようになった。自信がついたので、ブログを通じて知り合った俺なんかよりずっと成功している人をセミナーに招待した。講座をより良くするためのダメ出しが欲しかったからなのだが、その人に「セミナー、上手だね。やり方教えてよ」と言われて、セミナーの企画からアフターフォローまでを教える「参加者がうなるセミナー構築講座」というのを冗談半分ではじめたら、これが受けてしまった。
この講座を通じて講師の仲間ができ、その紹介で企業向けにセミナーを販売している人ともつながりができた。悪習慣改善のコンテンツをもとに企業向けの講座を開発したところ、社員に自己啓発を求める人材開発部門のニーズに合ったらしく、コンスタントに仕事をもらえるようになった。
こうして2009年、出版記念講演の5年後、俺はとうとう1500万円あった借金を完済することができたんだ。
禁煙というたった1つだけの実績を手がかりに、ここまで立ち直ることができた。まるでわらしべ長者みたいな細く長い道のりだったけどね。
もし絶望しかけている人がいたら読んで欲しいと俺の話を書いた。何でもいいんだ。金がなくても実績は作れる。その実績にしがみつけば、なんとかなる。金もコネもすべてなくし、身近な人の信頼さえなく、専門的なスキルもなかった俺がなんとかなったんだ。絶対大丈夫だよ。(了)
著者が提唱する「333営業法」とは?
著者・森川滋之が、あの「吉田和人」のモデルである吉見範一氏と新規開拓営業の決定版と言える営業法を開発しました。3時間で打ち手が分かるYM式クロスSWOT分析と、3週間で手応えがある自分軸マーケティングと、3カ月で成果の出る集客ノウハウをまとめた連続メール講座(無料)をまずお読みください。確信を持って行動し始めたい方のためのセミナーはこちらです。
著者紹介 森川滋之(もりかわ・しげゆき)
ITブレークスルー代表取締役。1987年から2004年まで、大手システムインテグレーターにてSE、SEマネージャーを経験。20以上のプロジェクトのプロジェクトリーダー、マネージャーを歴任。最後の1年半は営業企画部でマーケティングや社内SFAの導入を経験。2004年転職し、PMツールの専門会社で営業を経験。2005年独立し、複数のユーザー企業でのITコンサルタントを歴任する。
奇跡の無名人シリーズ「震えるひざを押さえつけ」「大口兄弟の伝説」の主人公のモデルである吉見範一氏と知り合ってからは、「多くの会社に虐げられている営業マンを救いたい」という彼のミッションに共鳴し、彼のセミナーのプロデュースも手がけるようになる。
現在は、セミナーと執筆を主な仕事とし、すべてのビジネスパーソンが肩肘張らずに生きていける精神的に幸福な世の中の実現に貢献することを目指している。
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