ソフトバンク夏モデルと“最強のネットワーク”の中味/au LTEエリア化の今後石野純也のMobile Eye(4月30日〜5月10日)(2/3 ページ)

» 2013年05月11日 14時55分 公開
[石野純也,ITmedia]

端末以上に強調された“最強のネットワーク”だが……

photo 会見にはゴールデンボンバーのメンバーや、お笑い芸人のスギちゃん改め「繋我利スギ」が登場。ソフトバンクのネットワークをアピールした

 こうした新端末以上に、発表会で孫氏が強調していたのは、ソフトバンクのネットワークだ。会見の冒頭、孫氏はフィーチャーフォンにキーボードを搭載した「インターネットマシン」や、「ケータイWi-Fi」、iPhoneの発表などを振り返り、「時代はモバイルインターネットにまっしぐらの進化を迎えていった」と語った。

 過去にデータトラフィックが40倍になると予想していた孫氏だが、実際は60倍になったことも明かしている。スマートフォンで急増するデータ通信量に対する解決策として、ソフトバンクが打ち出しているのが「小セル化」「Wi-Fi」「ダブルLTE」だ。小セル化は、「1つの基地局でまかなうユーザーを少なくする」こと。PHSの設計思想を受け継いだAXGPはこの点を徹底しており、孫氏は「ソフトバンクが世界で一番小セル化を積極的に都心で行っている」と胸を張る。また、AXGPのネットワークには、SFN(シングル・フリークエンシー・ネットワーク)という、複数の基地局を1つにまとめて制御する技術が導入されている。ソフトバンクではこれを「クラウド基地局」と呼び、「世界で唯一、TD-LTE方式を使って実現した」(同)という。

photophoto トラフィックの量は、孫氏が予想していた40倍を上回る60倍となった。ここに対処するため、ソフトバンクは「小セル化」「Wi-Fi」「ダブルLTE」を推し進める
photo 小セル化の思想で開発されたAXGPには、SFNという仕組みも導入されている

 ソフトバンクが積極的に拡充してきたWi-Fiスポットは、46万を突破。一方で、微弱なWi-Fiの電波をつかんだまま通信ができない状態が続くこともあり、使い勝手には難があった。こうした問題を解決するため、KDDIと同様、ソフトバンクも通信が不安定な状態になると素早くWi-Fiを切断する技術を導入。SIMカードでユーザーを認証する仕組みも入れ、接続を高速化する。一方で2.4GHz帯が混雑しすぎていることに対する根本的な解決策は示されなかったが、ソフトバンクはこれらの技術でWi-Fiの利便性を高めていく方針だ。

photophoto Wi-FiにはSIMカードによる認証の仕組みを入れ、接続を高速化。電波が不安定なときに、素早くWi-Fiを切断する仕組みも導入する

 ダブルLTEは、買収したイー・モバイルのLTEに、ソフトバンクのiPhone 5が接続できる仕組みのこと。以前、本連載でも触れたように、まだイー・モバイルのさばけるトラフィックに大きな余裕がなく、今のところ影響は微々たるものと言えそうだが、キャパシティに余裕が出てくれば、ソフトバンクの武器になるだろう。

photo イー・モバイルの1.7GHz帯(1.8GHz帯)を、ソフトバンクのiPhone 5で受信できるようになった。ただし、これは今回発表されたAXGP対応Android端末には関係のない話題だ
photo 月額490円で健康管理を行う「ソフトバンク ヘルスケア」も開始。写真のように、未来の自分を予測する機能も搭載する。写真は不摂生が続いた、20年後の筆者。こうした自分を見て、運動に対するモチベーションを上げるというわけだ

 発表会の前半は、こうしたネットワークに対する取り組みに時間が割かれた。このネットワークを生かす端末が、先に挙げたスマートフォンなどだというわけだ。孫氏は、「単に端末というのではなく、世界最先端のスマホが最先端のネットワークにつながる」と自信をのぞかせた。このほか、ソフトバンクはリストバンド型の活動量計「Fitbit Flex」と連動した、健康管理のクラウドサービスを発表している。「この3つ(端末、ネットワーク、サービス)を融合して、世界最先端のお客様に新しいライフスタイルを提供する」というのが、ソフトバンクの狙いとなる。

 一方で、ネットワークに対しては、果たして孫氏が本当に自信を持っているのか、疑問を感じた場面もあった。質疑応答で端末のSIMロック解除について問われた孫氏は、「SIMロック解除対応の機種は何機種か提供したが、実際にあまり売れなかった」と回答し、全面的な対応に否定的な見方を示している。ただ、SIMロック解除を原則全機種で行っているドコモの場合、回線さえ解約しなければ割引は継続される。孫氏にその事実を伝え見解を求めたところ、「そうであれば、ドコモから補てん金を出してもらい、ソフトバンクに移ってもらえばいい」と話をはぐらかされてしまった。自社のネットワークが本当に最強だと信じているなら、SIMロックを解除してもユーザーが流出する心配をする必要はない。各社の料金プランに大きな差がない今なら、なおさらだ。だからこそ、過去にはドコモがあっさりとSIMロック解除に踏み切った経緯がある。

 SIMロックを解除した他社端末の受け入れについても、「我々の提供するネットワークと、我々の提供する端末に対してサービスを提供するのが、責任を全うする方法。そういう要望が非常にたくさんくれば、それはそれで検討したい」(同)と積極性に欠ける発言をしていた。事実は異なり、ソフトバンクは他社端末の受け入れをしているため、iPhoneなど一部の端末以外に対しては持ち込みでもSIMカードは発行される。ネットワークをセールスポイントに挙げるのであれば、ここに対しても何らかの強化策を打ち出してほしかった。

 また、ソフトバンクは発表会の前日に、西日本で1時間58分に渡る通信障害を起こしている。ネットワークに関する発表で、この件に一切触れなかったのはユーザーに対して不誠実だと感じた。質疑応答で孫氏は「昨日の今日なので、詳しくは報告を受けていない状況」と述べるにとどまったが、囲み取材では「原因の特定は詳しくやっている最中だが、一部のメールサーバに異常があった。一部の地域でつながりにくい状況があった」とより詳しい事情を語っている。

 ここまで分かっているのであれば、なぜネットワークに関する説明会の場でこの話題に触れなかったのか。確かに障害は2時間未満で収まったため、総務大臣への報告義務が発生する「重大な事故」には該当しない。ただ、そこにある差はわずか2分だ。障害の定義次第では、2時間になる可能性もあるだろう。普段から他社のネットワーク障害に対して厳しい発言をすることが多い孫氏だが、であれば自らの襟元も正し、ユーザーに丁寧な説明をしてほしかった。前日に起きた障害に一切言及せず「ネットワークが最強」と言われても、説得力に欠くのではないだろうか。ユーザーへのWebサイトでの告知が、障害回復後に行われた対応の遅さにも不満が残る。

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