強じん/低価格なインフラのためにも競争を――NTTグループ規制見直しに対するKDDIの考え

» 2014年04月07日 12時41分 公開
[田中聡,ITmedia]

 KDDI、ソフトバンクグループ3社、イー・アクセスら65事業者・団体が4月2日、NTTグループ禁止行為規制の見直しに反対する要望書を、総務大臣に提出した(→65事業者・団体が総務省に要望書を提出――NTTグループ禁止行為規制の見直しに反対)。これは、NTTグループの携帯電話と固定通信の「セット割」解禁の動きがあるという報道を受けたもので、2日の緊急会見では、KDDI、ソフトバンク、イー・アクセス側が強い危機感を示した。

photophoto 65事業者・団体が総務大臣に要望書を提出した

 2日の会見では、「規制の見直しは、NTTグループの独占回帰につながること」が説明されたが、要望書の提出に至った背景には、どのような事情や思惑があるのだろうか。翌3日のインタビューにて、KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏と広報部 部長の櫻井桂一氏に、あらためて“KDDIのスタンス”を聞いた。

今後のモバイルネットワークは固定通信インフラが重要になる

 要望書の提出に至った背景には、総務省が2月3日に情報通信審議会に対して諮問した「2020年代に向けた情報通信政策の在り方−世界最高レベルの情報通信基盤の更なる普及・発展に向けて−」というテーマがあり、今後、2020年代に向けた情報通信のあり方を議論していく(4月8日から各事業者へのヒアリングが開始する)。

 櫻井氏は、その際に重要になるのが「“強じん”かつ低価格な固定/移動通信インフラ」と「ICT利活用を“活性化する”競争の促進」だと説明する。前者の「強じん」とは、複数の事業者がネットワークを持つことで、災害などで断線しても通信が損なわれないという意味が含まれる。そして通信インフラを構築するうえで、今後は固定通信インフラがいっそう重要になるという。

 その理由は2つある。1つは、携帯ネットワークに新しく割り振られるであろう周波数帯は、今後は3.5GHz帯などの高いものになるため。高い周波数帯の電波は遠くまで飛ばないので、基地局は小さいもので十分になり、Wi-Fiルーターほどの大きさに近づくという。もう1つは、1つの基地局で広い面積をカバーして多くのユーザーを収容すると、増大するトラフィックをさばくのが厳しくなり、基地局を増やして、1局のカバーエリアを小さくする必要があるため。

 基地局をたくさん作るためには、基幹ネットワークである固定網との接続が増える。つまり携帯電話のインフラにかかるコストが、「基地局」から「固定網」に寄ってくるというわけだ。「これまでは、固定とモバイルで別々のマーケットがありましたが、これからは、固定が重要になるという構造変化を踏まえたうえで議論する必要があります」と櫻井氏は話す。

photo KDDI 代表取締役社長 田中孝司氏

 「東京オリンピックが始まる2020年に向けて、『元気のある日本を作っていきたい』という思いは(NTTもほかの事業者も)共通だろうと思います。でも、『通信の世界』とそれを使った『利活用の世界』がごっちゃになっているんです。通信の世界で、日本のFTTHはダントツの世界一。料金も安く、カバレッジも広い。モバイルの1位は韓国で、日本は2位だと思っていますけれど、LTEの世界は米国が初なんですよ。ではなぜ3位に落ちたかというと、国土が広くてエリアを広くカバーできないから。でも本当を言うと、固定のネットワークが貧弱で、(コストが)高いからなんですよ。

 2020年までに5Gがスタートするときに、モバイルの技術はとんでもないスピードで上がっていきます。お客さんに使ってもらうには、ネットワークに投資しないといけない。その投資のほとんどが固定網になると思っています。日本(のモバイル)をナンバー1にしようとしたら、固定網をしっかりしないといけない。

 でも、『ドコモとNTTがなぜセット割できないの?』という目先の議論がある。セット割ができるようになったらどうなるか? (インフラの)コストのほとんどはNTTが負って、固定網を提供するのはNTTさんだけ(になってしまう)。(NTTは)インフラを卸したいんです。KDDIが(固定網の)設備を持っているのは関東地区と中部地区だけ。NTTをもっと巨大にするようなことをしたら、日本の固定網は終わって、次のモバイル世代もNTTが巨大化して、それってNTTがハッピーになるの?」と田中氏は警鐘を鳴らす。

 「複数の事業者が二重三重でネットワークを作れば、災害で壊れても生き残りやすくなる」「設備競争が起きることで、速くて安いネットワークを作れる」というのがKDDIの考えだ。櫻井氏は「セット割解禁の報道は、根幹の議論をしようというときに起きた矮小な議論」と一蹴する。「独占と競争、どちらがうまくいくのか? 通信の世界だけでなく、ほかの産業を含めて、独占が成功した例が世の中にあるのか? というのが我々の主張です」(同氏)

auスマートバリューでモバイルと固定のシェアはどれだけ伸びた?

 一方で、KDDIはモバイルと固定のセット割である「auスマートバリュー」を2012年3月から導入している(→固定に加入でスマホの月額利用料を1480円割引――「auスマートバリュー」)。NTTグループから見たら不公平な話なのかもしれないが、auスマートバリュー導入でドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル(以下、ソフトバンク)のシェアはどれだけ変わったのか。2012年1月末でドコモ 48.8%/KDDI 28.2%/ソフトバンク 23.0%だったのに対し、2014年1月末はドコモ 45.4%/KDDI 29%/ソフトバンク 25.5%(電気通信事業者協会の公表値)で、auスマートバリューの導入2年後で、KDDIのシェアは0.8%しか増加していない。2013年12月末時点のauスマートバリュー契約数は611万で、携帯電話の契約数全体の中ではわずか4%に過ぎない。

photo auのスマートフォンと固定通信をセットで利用すると、最大2年間にわたって毎月1410円(税別)を割り引く「auスマートバリュー」。画像はauのWebサイトから

 では、通信キャリアのシェアを動かしているものは何か? 読者の皆さんは想像に難くないだろうが、やはり「iPhone」の存在が大きい。先ほどの通信キャリアのシェアを見ると、ソフトバンクが2.5%増加しており、KDDIよりもソフトバンクの方がドコモとの距離を縮めている。ソフトバンクの強みがiPhoneであることは、今さら言うまでもないだろう。KDDIが2011年10月にiPhone 4Sを投入したときと、ドコモが2013年9月にiPhone 5s/5cを投入したときに、解約率が一気に下がったという結果も出ている。

 FTTHのシェアは、総務省の公表値によると、2013年9月末でNTT東西が71.7%で、KDDIは12.0%。auスマートバリュー導入前である2011年12月末のシェアがKDDI 9.2%、NTT東西 74.4%だったので、導入2年でKDDIのシェアは2.8%しか増えていない。「今の勢いを維持しても、NTTに追いつくには20年かかるんです」と櫻井氏。また、FTTHのシェア増加とauスマートバリューの提供は、必ずしもリンクしているわけではないという。(FTTHのシェア増で)最も大きかったのは、KDDIの固定サービス(auひかり、auひかりちゅら、コミュファ光)のエリアが拡大したからで、「エリア拡大が終わると、お客さんの獲得は下がっている」(櫻井氏)そうだ。

 さらに、NTT東西はフレッツ光に新規加入すると10万円のキャッシュバックや、量販店で冷蔵庫や洗濯機などの家電を購入してフレッツ光に新規加入すると5万5000円をキャッシュバックするというキャンペーンを展開しており、これもKDDIにとってはダメージが大きいようだ。「auスマートバリュー(1410円×24カ月=3万3840円※税別)でもこんな金額(10万円や5万5000円)は行きません。NTTは、面(エリア)と体力(キャンペーン)という、auスマートバリューを上回る武器を持っていんです。これではとても対抗できません」と櫻井氏は話す。

 「“強じん”かつ低価格な固定/移動通信インフラ」と「ICT利活用を“活性化する”競争の促進」という目指すゴールは「実はNTTグループも我々も同じなんです」と櫻井氏。そのための方策が「競争」か「独占」かというのが違いで、NTTグループが独占することで競争が行われなくなる。競争がなくなると、速くて安いネットワーク作りがないがしろにされ、結果的にユーザーにとって不利益な事態になる――。こうした考えから、NTTグループの規制見直しは不要というのがKDDIのスタンスだ。

 NTTグループのセット割解禁について、田中氏は最後に、以下のようにコメントした。

 「僕たちだけができないんだもん。おっしゃるとおり。それはなぜかというと、巨大だからということ」

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