子育て女性の新しい働き方を提案したい――「Growth Hack for Womenプロジェクト」

» 2015年08月05日 15時00分 公開
[房野麻子ITmedia]

 Growth Hacker(グロースハッカー)のネットワークを活用してWebサービスの改善を行う「Kaizen Platform」を提供するKaizen Platformと、人材採用に関する総合サービスを提供するリクルートジョブズは、デジタルハリウッド福岡校、ママワーク研究所、TSUTAYAと共同で「Growth Hack for Womenプロジェクト」を2015年5月に発足した。

 グロースハッカーは、Webサイトの効果や収益性を高めることで、企業やサービスの成長を促す「グロースハック」を仕掛ける、比較的“新しい”職業で、時間や場所に縛られることなく働けることが特徴だ。Growth Hack for Womenプロジェクトでは、働く上で制約の多い子育て中の主婦を対象に、グロースハッカーの育成支援講座を提供し、就業支援も行う。このプロジェクトを通して、2017年度末までにKaizen Platformに登録する女性グロースハッカーを100人以上増やすことを目指す。

 Kaizen Platformとリクルートジョブズが中心となってGrowth Hack for Womenプロジェクトが発足した背景、両社の目的、具体的な支援内容と今後の展開について、Kaizen Platform Customer Success Manager 藏保萌子氏とリクルートジョブズ メディアプロデュース統括室 メディア戦略部 部長 高槻洋介氏に話をうかがった。

photo 今回話をうかがった藏保氏(左)と高槻氏(右)

子育て中の女性にとって魅力的な働き方「グロースハッカー」

 2014年7月にKaizen Platformが開始した「福岡グロースハックネットワークプロジェクト」では、福岡市内のIT企業11社とともに、人材育成や雇用、創業の支援ネットワークが構築された。約半年間で400人を超えるグロースハッカーが誕生し、日本グロースハッカー大賞受賞者10人のうち福岡市から3人が選出されるという実績を残した。また、メンバーの起業も実現している。

 今回のGrowth Hack for Womenプロジェクトでは、子育て中の主婦を含む女性に対象を絞り込んでいる。そこには、フルタイムだけではなく、限られた時間でも社会とつながる多様な働き方を提案したい、というリクルートジョブズ側の思いがある。女性の労働力率は、結婚・出産のタイミングで低下し、その後、育児が落ちついた時期に再び上昇する、いわゆる「M字カーブ」を描くことが知られている。「このカーブが下がる期間を埋めるようなトライ(試み)をしたいと、ずっと検討してきました。その中で、グロースハッカーという職種が、時間に制約のある女性、特に子育て中の女性の社会進出に相性がいいと考えました」(高槻氏)

 高槻氏によると、女性の仕事復帰において、限られた時間しか働けないという制約と、休職してブランクがあることに対する不安が、大きな“壁”として立ちはだかるという。この壁が、スキル面での不安、職場の人間関係の不安につながり、最終的に復職をためらう理由となってしまう。

photo 「グロースハッカーはさまざまな制約をクリアできる働き方」と語る高槻氏

 それに対して、時間や場所の制約がないグロースハッカーは、子育て中の女性にとって魅力ある働き方であると、藏保氏は太鼓判を押す。

 Kaizen Platformに登録したグロースハッカーは、企業から改善の要求があったWebサービスに対して、オンラインツールを使ってデザイン案を作っていく仕組みだ。インターネットにつながるPCさえあれば、いつでもどこでも作業できる。また、報酬は“改善された”という結果に対して支払われるので、時間に左右されることもない。実際、短時間で作ったデザインがトップの成績(改善効果)を出すこともあるという。

 しかも、今は女性グロースハッカーのニーズが高まっているという。「サイトを利用しているのは女性、でも作っているのは男性」(藏保氏)ということが多い現状を踏まえ、女性視点を盛り込むために「ぜひ女性のグロースハッカーで(デザインしてほしい)という要望もある」(同氏)からだ。

 ちなみに、リクルートジョブズは、以前からKaizen Platformの“顧客”として、サイト改善を依頼しており、その効果を大いに実感できているという。このことも、今回のプロジェクト発足のきっかけのひとつになっている。

photo 「女性グロースハッカーに対するニーズや期待は高い」と語る藏保氏

養成講座で心理的な制約を取り払う

 グロースハッカーは、職業の性質上、Webデザインやマーケティングの経験があると有利とされる。ただし、これらの仕事は変化のスピードも速いため、経験者でも、ブランクがあると心理的な障壁は高くなる。

 初心者やブランクのある経験者の心理的制約を取り除くために用意したのが、デジタルハリウッド福岡校で開講する「ママ向け Webグロースハッカー養成講座」だ。リクルートジョブズは、講師や受講料を支援する。講座は9月から6カ月間のカリキュラムで実施されるが、受講料50万円のうち、リクルートジョブズとデジタルハリウッド福岡校が「ママ特別奨学制度」として30万円を支援し、実際の支払額は20万円(いずれも税別)となる。

 「スキルがあってすぐに活躍できる方は、Kaizen Platformですぐにグロースハッカーとして登録していただけます。前にやっていたけれどブランクがあって不安だとか、ゼロからスキルを身に付けて働き方を選んでいこうという方は、この講座を受けて、自信とスキルをつけてから登録できます」(高槻氏)

photo 「ママ向け Webグロースハッカー養成講座」では、受講料50万円のうち、リクルートジョブズとデジタルハリウッド福岡校が30万円を支援する

グロースハッカーは将来性のある職種

 講座を修了し、無事にグロースハッカーとなったとしても、肝心の仕事がないと意味がない。しかし、その点は心配ないようだ。企業からのオーダーは非常に多く、やりたいものを選べるくらいのボリュームで仕事は用意しているという。Kaizen Platformのグロースハッカーには年収1000万円レベルの人もいるという。「副業という形ではなく、本業に近い形でチャンレンジできる」(藏保氏)職業なのだ。

 サイトの改善要望は、パソコン向けサイト、スマホ向けサイトどちらもあり、企業によって重視するポイントが異なり、扱うものによって要望が異なる。スマホの場合は画面サイズ、機種の違いによる変更が頻繁にあり、画面サイズによってユーザーの行動も変わる。効果のあるデザインはどういうものか企業は常に探っており、スピーディな改善が求められるのだ。

 サイトデザインの良し悪しは、Kaizen Platformのツール上でチェックされる。例えば、元のデザインと、グロースハッカーが提案するデザイン案2つ、計3つのデザインがあった場合、独自のアルゴリズムで、3つのデザインを不特定多数のユーザーに出し分ける。そして、どのデザインを表示したときに、想定したゴールにもっとも多く到達できたデザインはどれか、ということをツールで自動的に統計し、優位性のあるものが“良いデザイン”と判定されようになっている。

photo サイト改善の例

 「女性には、毎日のメイクや洋服を選ぶような感覚でやってほしいです。シャドーや口紅の色はどちらがいいか、どちらの服がステキに見えるかと毎日考えていると思いますが、それと考え方は同じです。Webサイトも、この企業が売りたいものがコレだったら、こういう考え方で、こういうデザインがいいのではないか、こういう配置にした方がいいのではないか、という視点でやってほしい。結果は『あなたの改善効果は○%でした』と数値で出ます。非常にやりがいのあることではないかと思います」(藏保氏)

 やりがいがあり、収入を得られる仕事はいいな、とは思う。しかし、心のどこかで「私には無理だ」と思ってしまうことも少なくない。「(グロースハッカーの仕事は)『私には無理』って皆さんよくおっしゃいます。そこで、高い改善率を出してグロースハッカーとして活躍されている方を紹介しても、『いえいえ、私なんて』とおっしゃるんです。これも心理的制約です。そうじゃないんですよ、あなたの目線は、私たちにとっても企業さんにとっても、すごく価値のあるものなんですということを認識してもらいたいという思いが、このプロジェクトの中にあります」(藏保氏)

 さらに、これからグロースハッカーになろうという人たちに対して藏保氏は、「時間や場所の制約が取れたときに、グロースハッカーとしての実績をもとに、さらにステップアップしてもらいたい」とエールを送った。

 リクルートジョブズの狙いは、女性の新しい働き方の選択肢としてのグロースハッカーが認知され、ポジティブに仕事に就いてもらうことだ。今回のプロジェクトでは、講座を受けるところから仕事を得るところまで追跡し、同社の「とらばーゆ」の中で紹介される予定だ。そのコンテンツを見た人がグロースハッカーのことを知り、スキルを身につけることの重要性や、好きなことを選ぶことの大事さを認識してもらいたいという。

 「ITに縁遠い人がWebの技術を身に付け、時間と制約を受けずに働くということが、今まであまりないテーマだと思います。今回の講座は12人でスタートしますが、これがきっかけとなって、何万人、何十万人の働き方のスタイルが変わっていく多様化につなげたい。そんなムーブメントを創りたいと思っています」(高槻氏)

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