「実質0円廃止」の影響? 「お客さま体験価値」提供ビジネスを加速するKDDI

» 2016年05月13日 13時40分 公開
[井上翔ITmedia]
KDDIの田中孝司社長 KDDIの田中孝司社長

 KDDIは5月12日、2016年3月期(2015年度)の連結決算説明会を開催した。説明会では、2017年3月期(2016年度)からの3カ年の新しい中期経営目標の概要も公表された。

 総務省の携帯料金タスクフォース(関連記事)や、それを受けた総務大臣からの要請などを受けて、2016年度以降はMNP(携帯電話番号ポータビリティ)による契約者の流動が少なくなり、「実質0円」販売を事実上封じられたことから端末の販売台数も落ち込むことが予想される。そのような「苦難」を、KDDIはどう乗り越えていこうとしているのだろうか。

「お客さま体験価値を提供するビジネス」をより志向

 KDDIは、「マルチユース」「マルチネットワーク」「マルチデバイス」を軸とする「3M戦略」を掲げ、通信事業において確固たる成長を遂げることを目指してきた。しかし、国内通信事業では端末を中心として他社との同質化が進んでいる上、先述の通り、MNP流動や端末販売の鈍化も見込まれている。

 KDDIの公開しているオペレーションデータにもとづいて契約の純増数を比較すると、2014年度第4四半期(2015年1〜3月)が約89万2000件だったのに対し、2015年度の同四半期(2016年1〜3月)は約39万2000件と半分以下に落ち込んでいる。MNPの実数は公開されていないものの、少なくとも全体の純増には指導の“効果”が少なからず出てしまっていると思われる。

 一方、端末の販売台数については2014年度第4四半期が約287万台だったのに対し、2015年度の同四半期は、約44万台減の243万台となった。田中社長によると、1月は「実質0円」への駆け込み需要で好調だったが、その反動で2・3月の販売が減少したという。ただし、両年度の第2・3四半期と比較すると落ち込み幅はむしろ小さく、「実質0円廃止」があった割には健闘している。

 しかし、MNPを含む新規契約の急激な鈍化を見ると、端末販売は機種変更需要が中心となり、以前ほど多くの台数を販売することは厳しい。

 そこで、KDDIの新しい中期経営目標では、auユーザーとのとのさまざまな接点を活用した「お客さま体験価値を提供するビジネス」への変革を進める判断をした。大きく「国内通信事業の持続的成長」「au経済圏の拡大」「グローバル事業の積極展開」の3つの事業戦略を重点に据えて取り組んでいく。

 これらの戦略は、従来からも進めてきたものではあるが、通信事業での契約純増に依存した収益拡大が難しい環境になったことを受けて、加速せざるを得なくなったと見てよいだろう。

事業運営方針 2016〜2018年度は「お客さま体験価値を提供するビジネスへの変革」を目指す
事業戦略の概要 2016〜2018年度の事業戦略の概要。従来からの取り組みの延長線上ではあるが、事業環境の変化を踏まえて動きの加速・拡大を図る

国内通信事業の持続的成長:IoTやスマートデバイスが鍵

 通信事業での収益拡大が難しいとはいっても、KDDIのサービスは通信があってこそ成り立つものが中心だ。そこで、国内の通信事業では3M戦略をさらに推し進める。従来から取り組んでいるタブレットやルーターの普及に加えて、スマートデバイスやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)分野にも注力する。マルチデバイス化をより一層進めて、それらを「au ID」でつなげて便利に使ってもらうことでARPA(1アカウントあたりの平均収益)を増やすことを狙う。

3M戦略はさらに強化 3M戦略は、ウェアラブルデバイスやIoT分野を加えることで、特に「マルチデバイス」「マルチユース」面を強化する

au経済圏の最大化:「ライフデザイン企業」への変革を目指す

 2016年4月からKDDIは「auでんき」「auの生命ほけん」「auの損害ほけん」「auのローン」を提供している。

 これらの新サービスは、「au WALLET」や「au WALLET Market」と同様に、通信事業以外での収益(ARPA)の拡大を目的としたものだ。新しい中期経営目標では、「通信企業」から「ライフデザイン企業」への変革を目指すことを打ちだし、非通信事業を通してARPAの押し上げを目指す。

 その取り組みの1つとして、オンラインの「auスマートパス」と、リアルの「auショップ」を強化することでユーザーとのタッチポイントを増やし、どちらでも同じライフサービスを受けられる「オムニチャネル化」を推進する。

 また、厳格な本人確認を通して契約したauの強固な顧客基盤をベースに、誰でも使いやすい決済プラットフォームを強化し、データマネジメントプラットフォーム(DMP)やビッグデータデータの利活用を推進する。KDDIは、顧客のさまざまなデータをユーザーの同意のもと保有している。このデータをプロモーションやリコメンデーションに利用し、オンライン、あるいはリアルでの送客につなげて、au経済圏の活性化につなげようというのだ。

 KDDIでは、2018年度までに保険やローンを除くau経済圏内で2兆円分の価値流通を目指している。「まずは、(流通総額を)増やさないと」(田中社長)ということで、「au WALLET クレジットカード」のサービス強化にも取り組む方針だ。

au ライフデザインはオムニチャネル化を目指す 「au ライフデザイン」のもと、au WALLETやau IDを活用したサービスのオムニチャネル化を進める
決済プラットフォームとデータマネジメントプラットフォームを強化 KDDIが持つ顧客基盤を生かし、決済やデータの利活用を強化

グローバル事業の積極展開:成長市場へのさらなる進出も

 昨今のKDDIは、ミャンマーでの共同事業形式での通信事業への参入、「TELEHOUSE」ブランドでの高品質グローバルデータセンターの世界展開、モンゴルの大手通信事業者の連結子会社化など、グローバル事業の展開にも積極的だ。

 新しい中期経営目標では「先進国じゃないところを中心に、通信の周辺事業も含めて」企業買収(M&A)も視野に入れつつグローバル進出をさらに進める方針だ。今回の中期経営目標では、事業戦略全体にかかる企業買収を5000億円規模で実行する方針を示している。このうち、グローバル戦略にかかる比率は公表されなかったが、「(事業の)初期段階に入って成長させていく」(田中社長)という方針のもと、先進国ではないところを中心に、通信の周辺事業も含めて検討していくという。

アジアの成長市場での取り組み KDDIはミャンマーとモンゴルで積極的に事業展開をしている。今後は、通信の周辺分野も含めて積極的に事業展開をする方針

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