MVNOと本人確認の話MVNOの深イイ話

» 2016年05月18日 14時39分 公開
[佐々木太志ITmedia]

 一時は、MVNOが提供するSIMカードというと、データ通信専用のものがほとんどで、音声通話が必要な時は050番号から始まるIP電話のソリューションを利用することが当たり前だった頃がありました。もちろん、今でも節約意識の高い方、電話をあまり使わない方を中心にデータ通信専用SIMの需要は根強いのですが、最近では音声通話機能付きSIMカードを提供するMVNO、そしてMVNOの音声通話機能付きSIMを利用する契約者が急速に増えています。

 このMVNOの音声通話機能付きSIMを一度でもご利用になった方は、「本人確認」と呼ばれる手続きを求められたことをご記憶ではないかと思います。今回は、この本人確認の手続きについてご説明します。

携帯電話と犯罪の関わり

 昔から電話を使った犯罪というのは存在していました。19世紀から存在した電話はもちろん便利なものですが、つまり犯罪者にとっても便利なものだというわけです。昭和時代の刑事ドラマでは、誘拐犯がかけてきた電話に対し逆探知で犯人の居所をつかもうと警察が奮闘するシーンが登場します。

 1990年代になって携帯電話が普及すると、この便利なツールにより犯罪者がさらに活動しやすくなっていきます。携帯電話は一般の人にとっても待ち合わせの際に非常に便利なものですが、同様に、例えばある場所で待ち合わせて麻薬や銃器の密売を行う犯罪者にとっても、携帯電話は重要な連絡ツールになり得るのです。

 さらに21世紀になると、携帯電話が、時に直接的に被害をもたらす道具として悪用されるようになっていきます。2000年頃から増えていった「振り込め詐欺」「オレオレ詐欺」(以下「特殊詐欺」)では、携帯電話は欠かすことのできない「凶器」になります。犯罪者が携帯電話を巧みに利用することで、多くのお年寄りがだまされて金銭を失うといった大きな被害に遭うようになりました。

 そのような状況の中、2005年4月、急増する特殊詐欺事件に対抗する形で「携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律」(携帯電話不正利用防止法)が制定されました。

 この法律では、音声通話機能を持った携帯電話新規契約時の契約者の本人確認義務化、端末を他人へ譲渡することの禁止、警察による契約者の再確認要請などが定められています。この法律により、犯罪者にとって使いやすい契約者不詳の携帯電話の流通を阻止し、特殊詐欺事件等の事件が発生したときに、続く被害を防いだり、犯人を検挙したりすることができるようになりました。

 この法律の施行以後、皆さんが携帯電話を契約するときは身分証明書により契約者の本人性を証明することが必要となり、また、MVNOもこの法律によりお客さまの本人確認を行う必要が定めれている、ということになります。

携帯電話不正利用法とMVNO

 この法律に付随する総務省令(携帯電話不正利用防止法施行規則)では、携帯電話の契約時の本人確認方法について、事細かに規定がなされています。これは、ずる賢い犯罪者を相手にした法律だということを考えればやむを得ないところではあります。が、多くのお客さまにとっては若干煩わしいものとなっていることは否めません。

 特に、対面販売が主で、カウンター越しに身分証明書を直接提示できる携帯電話事業者(ドコモ、KDDI、ソフトバンクなど)と違い、非対面式契約が中心のMVNOにとっては、身分証明書の提示1つをとっても若干複雑となります。

 総務省令では、非対面式契約の場合は運転免許証やパスポートといった本人確認書類の写しの送付を受け、その書類に記載された住所に対し、転送不要郵便物(転送を要望されても応じない郵便物)などとして、SIMカードや端末を送付するといった方法が規定されています。そのため、他人の身分証明書を入手した悪意ある契約希望者がいても、SIMカードは入手できません。

MVNOの深イイ話 オンラインでMVNOの音声サービスに申し込む場合、身分証明書の画像をアップロードする必要がある。画像はIIJmioのWebサイトから引用

 よくお問い合わせをいただく内容として、例えば「勤務先の会社でSIMカードや端末を受け取りたい」というものがありますが、本人確認書類にない住所での受け取りは法令上NGとなります。MVNOにより具体的にどのような本人確認の方法を定めているかはいろいろだと思いますが、例えば転居した直後などで身分証明書の住所が旧住所になっている場合の取扱い、昼間在宅しているご家族が受け取れるかなど、詳細についてはご契約を検討されているMVNOのサポート情報をご確認ください。

 また最近では、店舗のカウンターで契約できるMVNOサービスも増えていますが、こういったケースでも携帯電話の不正利用防止法は当然守られています。この場合、総務省令ではいくつかの本人確認書類はお使いいただけないとして規定されています。例えば写真のない身分証明書等ですが、店舗での契約の場合は、(オンライン契約時の)住所への配送を利用した本人性確認が行えないため、身分証明書の写真と契約者の顔を店舗スタッフが目視でチェックして、当該身分証明書が間違いなく契約者本人のものであることを確認する必要があります。このため、写真付きの身分証明書が必要とされるのです。

MVNOの深イイ話 店頭で申し込む場合は顔写真入りの身分証明書を提示する必要がある。こちらは「BIC SIM」の場合

 カウンターにご来店いただき音声通話機能付きSIMのご契約を受けられる場合は、各MVNOのサポート情報をあらかじめご確認いただき、写真付きの身分証明書を持参するなど、その指示に従ってご準備ください。ご不明の点はMVNOのサポート窓口にお問い合わせいただくと良いと思います。

※IIJが提供するみおふぉんの本人確認方法に関するご質問は、筆者が中の人を務めている@iijmioまでお気軽にどうぞ

データ通信専用SIMの本人確認

 ここまでご説明した、携帯電話不正利用防止法は、正式名称が「携帯音声通信事業者による〜」から始まることからも分かる通り、通信事業者が音声通信を提供する場合に限り適用となります。これは法律の制定の経緯からすると当然ではあるのですが、この法律の適用がなされないデータ通信専用SIMであっても、犯罪に利用される可能性自体は存在します。例えばインターネットを使った脅迫や爆破予告といった業務妨害、中傷、名誉毀損(きそん)といった事件が日々メディアにより報道されています。

 現在、日本にはこういったケースについて適用される本人確認に関する法令はないのですが、MVNOの業界団体であるテレコムサービス協会MVNO委員会では、データ通信専用SIMに関する本人確認の在り方について議論しており、2015年春に「データ通信専用SIMにおける本人確認についての中間報告書」をまとめています。

MVNOの深イイ話 MVNO委員会がまとめた「データ通信専用SIMにおける本人確認についての中間報告書」。詳細はこちら(※PDF)から確認できる

 この報告書では、MVNOに対し、利用者の利便性を損ねない範囲で本人確認の実施を求めており、その方法として5つの方法を提示しています。今後、各MVNOによってこのガイドラインにのっとった対策が取られていく中、その不正利用防止効果を検証しながら、データ通信専用SIMについてどのような本人確認が行われていくことが適当なのか、さらなる検討が進められていくことになるでしょう。利便性と犯罪抑止というのは両立の難しいテーマではありますが、今後もMVNOはこの両者を最大限両立するための方法を検討していきます。

著者プロフィール

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佐々木 太志

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) ネットワーク本部 技術企画室 担当課長

2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。


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