本機はLAN経由でPCと接続するため、従来のデジタルTVチューナー搭載PCとは異なる工夫が見られる。既存のデジタルTVチューナー搭載PCでデジタル放送を高画質で録画したいと考えた場合、放送波をそのまま記録する「DRモード」(もしくはTSモードなど)を使うしかない。これはネガティブに見れば、地上アナログ放送のようにPCで容易にエンコードが行えない(暗号化が解除された映像信号を汎用バス上に流せない)という側面もあるし、ポジティブに見ればもっとも高画質な録画方法であり、内蔵チューナーなら放送波をそのままHDDに記録することに帯域不足の問題などがないからという側面もあるだろう。
一方、本機はソニー製チップのトランスコード機能によりデジタル放送のデータを圧縮する機能を持ち、4段階の画質での視聴と録画を可能にしている。放送波そのままの画質(約16〜24Mbps)で視聴・録画できるDRモードのほか、ハイビジョン放送の1920×1080ドットを1440×1080ドットにダウンコンバートしてビットレートを12Mbpsに抑えつつ、HD画質での視聴・録画を可能にするHRモードを用意したのが特徴だ。また、SD画質の録画モードとして、8MbpsのSRモードと4MbpsのLRモードも持つ。これらの画質モードは視聴と録画で個別に設定でき、視聴はHD画質、録画はSD画質といった使い分けもできる。
デジタル放送視聴・録画時の画質モード | |||
---|---|---|---|
画質モード | ビットレート | 解像度 | 1時間のデータ量 |
DRテレビ | 24Mbps CBR | 1920×1080ドット | 視聴時のモード |
DR録画 | 最大24Mbps VBR | 1920×1080〜480×480ドット | 約7.5〜約10.6Gバイト(HD画質の番組時) |
HR | 12Mbps CBR | 1440×1080ドット | 約5.3Gバイト |
SR | 8Mbps CBR | 720×480ドット | 約3.6Gバイト |
LR | 4Mbps CBR | 720×480ドット | 約1.8Gバイト |
4つの画質モードは、必要に応じた画質で録画を行うことでHDDの消費量を抑える役目に加え、PCが無線LAN接続でもデジタル放送の視聴・録画を可能にする役目も持つ。たとえば、BSデジタル放送のハイビジョン番組はビットレートが約24Mbpsで、一般的な54Mbpsの無線LANでは安定して受信することが難しい。54Mbpsの無線LANは通信環境がよくても実効スループットが20Mbps強といった値にとどまることが多く、アクセスポイントとPCの距離や障害物次第で速度はさらに減衰するからだ。しかし、本機は無線LANでの通信速度を考慮してユーザーが画質モードを変更できる仕様にして、無線LAN接続のPCでもデジタル放送の視聴・録画が行えるようにしている。たとえば、無線LANでの通信速度が安定して12Mbps以上を確保できる環境ならば、HRモードを利用することでHD画質での視聴・録画が可能になるわけだ。
実際に本機とIEEE802.11g対応アクセスポイントを組み合わせて、PCと無線LANで接続してみたところ、DRモードでは地上・BSデジタル放送とも視聴に耐えなかったが、HRモードであれば、ほぼ問題なく視聴が可能だった。アクセスポイントは壁1枚隔てているが、リンク速度としては54〜36Mbpsが確保できる無線LAN環境下だ。実際にまったく同じ映像でDRモードとHRモードの画質を並べて比較することはできないので、地上デジタル放送の同じ番組をTVの内蔵チューナーでの視聴と切り替えつつ比較したが、HRモードでも十分なハイビジョンクオリティを堪能でき、ダウンコンバートに伴う大きな画質の変化も感じなかった。無論、HRモードとSD画質の2つのモードとの違いは明らかだ。本機において、HRモードの存在意義は大きい。
一通り試用してみたが、本機のコンセプトに関しては大いに賞賛したい。機能面の課題やPC側のスペックに制限はあるものの、デジタル録画まで可能なPCの外付けデジタルTVチューナーとしては現状で唯一の存在だ。本機をアンテナのある部屋に設置し、ほかの部屋でデジタル放送をHD画質で楽しめる点には、かなりの魅力を感じる。デジタル放送では従来より太いアンテナケーブルが必要で、家庭内で各部屋に引き回すのはLANケーブルよりも面倒だからだ。無線LAN接続に配慮している点も高く評価したい。
価格については、低価格化が進むデジタル放送対応HDD/DVDレコーダーのエントリーモデルと競合するが、汎用PCで使えるという点に大きな違いがあり、このコンセプトに賛同するユーザーも少なくないはずだ。特にTP1を購入する予定ならば、本機とのセットモデルを検討するとよいだろう。
まずは第一世代の製品と言うこともあり荒削りな部分は見られるが、同種の製品に関しては他社があまり積極的ではないだけに、今後も継続的に製品を投入してほしい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.