月収1万円でハイエンド携帯電話を選ぶキルギスのIT事情山谷剛史の「アジアン・アイティー」(2/2 ページ)

» 2009年11月12日 16時00分 公開
[山谷剛史,ITmedia]
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携帯電話で何でもこなす“キルギス”スタイル

 ツム百貨店でもビシュケクのショッピングセンターでもバザールでも、多くの若者がこぞって購入するのは携帯電話だ。首都ビシュケクのツム百貨店では、1階フロアのすべてが携帯電話を扱う店舗で占められているほか、ビシュケクの中心部にある「オシュバザール」の一角にある建物でも、フロアのすべてて携帯電話を扱っている。ガラス張りの小さな携帯電話ショップがひしめいているフロアは、気に入ったモデルを探す若者でごった返していた。

 キルギスで販売されている携帯電話は、iPhoneからあやしげな中国製ノンブランドの山寨機まで多種多様だが、圧倒的に多いのがノキア製モデルだ。次いでだいぶ数を減らしてサムスン製モデルが続く。価格帯では、2000キルギスソム前後(日本円にして4500円前後)の製品が最も多い。

携帯電話ショップではMicro SDカードも扱っている。というか、それ以外のメモリカードはほとんど見かけない(写真=左)。キルギスでも山寨機が勢力を拡大しつつある(写真=右)

 地元の住民に聞くと、キルギスでは高校生が持つのは当たり前なほど携帯電話が普及しているという。しかし、キルギス国民の平均月収は日本円で1万円を切るレベルにある。家族みんなで副業をこなし、その稼ぎをみんな集めてようやく生活できるというのがキルギスの経済状況だ。それなのに、携帯電話だけは、カメラ機能や音楽データ(主に端末に保存したMP3ファイルになる)の再生機能を持つ、それなりに高額のハイエンドモデルを購入する。これは、中国人のように、必要以上に高いモデルを買って“みえ”をはりたいわけでなく、限られた収入事情から、デジタルカメラも音楽プレーヤーも1台の携帯電話でどうにかしたいわけだ。高級な携帯電話を1台所有して、その機能をフルに使いこなすのが“粋なキルギス人”なのだ。

 このことが影響しているのか、専用のMP3プレーヤーを持ち歩いているのは超少数派だ。そして、自宅では、ポータブルラジオのスピーカーで音楽を流すのが、一般的なキルギス人のライフスタイルという。バザールでもポータブルラジオが数多く売られていた。

キルギスで人気は「音楽立ち聞きサービス」?

 ところで、キルギスのバザールやツム百貨店で、PCを使った不思議なサービスをよく見かける。バーのカウンターのような高いテープルの上にメディアプレーヤーらしきソフトが起動しているPCを何台も並べ、利用者がPCから伸びたヘッドフォンで音楽を立ったまま聴いている。見た目は立ち食いそば屋……、いやいや、ネットカフェのようだが、とにかく、初めて見た筆者は、PCで音楽を聴かせるだけのサービスと思っていた。

 しかし、これは、携帯電話向けの音楽ダウンロードサービスで、1曲ごとに代金を支払うことでPCに保存されている音楽ファイルを自分の携帯電話にダウンロードできる。店舗によっては、PCに保存しているビデオクリップや映画もダウンロードさせてくれる。

携帯電話売り場には、PCから携帯電話に音楽データをダウンロードできるコーナーが用意されている

 ツム百貨店の上階は、家電売り場とPCショップ、それに、“海賊版”ビデオに“海賊版”ゲーム売り場など、IT系に特化したフロアになっている。PCショップは、ノートPCとショップブランドのデスクトップPCを販売する小さな店が数店とDELLの代理店がある。デジタルカメラを売る店もあるにはあるが、先ほど説明したように、キルギスでは、携帯電話で写真撮影を間に合わすので、売られているモデルは少ない。PCショップは、ツム百貨店以外にもビシュケクやカラコルなど大きな街であれば街に数店舗ある。中国のような“電脳街”ビルや日本のようなショップが集中する電脳街エリアは存在しない。どの都市でもPCショップを訪れる人はまばらだ。やはり、キルギスでは携帯電話に需要が集中しているようだ。

ビシュケクのPCショップ。客がほとんどいない(写真=左)。ビシュケクの大型家電販売店。閑散としている(写真=右)

ツム百貨店のPC売り場(写真=左)と、家電売り場(写真=右)

ツム百貨店で堂々と営業する海賊版ショップ(写真=左)。銀行が推進する「ローンを組んで家電を買おう」キャンペーン。平均月収が1万円を切るキルギスでそんなことして大丈夫かい(写真=右)。

 キルギスのPC市場規模が小さいため、PCショップでは、PC以外に家電や携帯電話も扱っている。ネットカフェも兼ねているPCショップも多い。市場規模が小さいことを反映してか、キルギスにはPC専門誌もない。そのため、PCショップは店のWebサイトを立ち上げて製品をアピールするだけでなく、街路樹に紙広告を張り付けるなど、自分で宣伝しなければならない。ビシュケクの街路樹は人気のある広告媒体なのか、高台からは緑豊かな大都市に見えた街並みも、道路を歩くと張られた紙広告だけが目立ってしまう。ちなみに、「PC売ります!」はごくごくわずかで、そのほとんどは、求人広告であったりする。

キルギス第3の都市「カラコム」で営業しているPCショップ。プリンタ用インクの“注入サービス”も行っている(写真=左)。10万都市のカラコムでPCだけではやっていけないので、携帯電話も扱っている(写真=右)

キルギスにも修理屋がいた。「SONYを修理します」の意味するところは、「Playstation 2で海賊版を使えるように改造します」とのこと(写真=左)。“おおらか”なキルギスでは身分証なしでSIMカードを買える(写真=右)

PC雑誌が存在しないキルギスで新製品情報を得るには「街路樹広告」に頼らなければならない(写真=左)。今にも破けて飛んでいきそうな簡易印刷がキルギスで唯一のPC関連広告紙媒体だ(写真=右)

ロシア人はビジネスで舶来PCを使い、キルギス人は携帯電話ですべてをまかなう

 「うーん、誰がPCを買っているのかな?」と思わず考え込んでしまうキルギスのコンシューマー向けのPC事情だが、ビジネス向けのPCや関連製品も販売されている。ビジネス市場ではヒューレット・パッカードやAcerなどのノートPCや、(ロシア文化圏らしく)カスペルスキーといったウイルス対策ソフト、そして、デジタルカメラやプリンタ、インクやプリンタ用紙といったサプライ製品も流通している。ビジネス向けPCを扱っているショップでも、ユーザーが頼めばデスクトップPCも組み立ててくれるし、LANケーブルもその場で“自作”して販売する。

 そういえば、ツム百貨店のコンシューマー向けPCショップでは、ユーザーもショップスタップもキルギス人が多数であったのに対して、ビジネス向けPCショップでは、ユーザーもショップスタップもロシア人ばかりだったなあ。

ビジネス向けPCを扱うショップに集うのはほとんどがロシア人だ(写真=左)。旧ソ連圏のセキュリティソフトは、やっぱりカスペルスキー(写真=右)

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