連載
» 2011年03月18日 16時50分 UPDATE

夫婦で始める“エクストリームコミュニケーション”:なぜすぐに避難しなかったのか――「東北関東大震災」を夫婦で話し合った

これまでは架空の話しかしてきませんでしたが、今回は起きてしまった大災害について、夫婦で真剣に話し合い。地震発生時、私はすぐに避難しなかったのですが、そのことで妻はマジギレしたのでした。

[シックス・アパート 中山順司,Business Media 誠]

 東北関東大震災にて被災された皆様、ご不便な生活を強いられている皆様、ご家族やご友人が被災された皆様へ、心よりお見舞いを申し上げます。1日も早く事態が収束し、復興へ向かうことを願っています。

 この連載では「わが子へ臓器を提供するか」や「わが子に余命宣告ができるか」といった究極の状況を仮定し、夫婦でストレートに話し合うことを通じて、夫婦でさえ見せることのない価値観や考え方を共有することを目的としています。

 連載開始に先立って、金銭感覚、教育、育児、健康、習慣、食生活、財産等、多岐にわたったテーマを洗い出し、当初は「自然災害」も挙げていました。しかし「レアケースだから、話し合うだけムダだろう」と判断し、不採用としていました。

 しかし、まさかの大地震発生。

 私は地震発生時、JR渋谷駅前にいて、大きな揺れを感じました。にも関わらず、地震を過小評価し、避難もせず、その場に数時間もとどまっていました。周囲の人も逃げなかったし、自分も大丈夫だろうとタカをくくってしまったのです。一歩間違えれば災害に巻き込まれていた可能性もあったわけで、軽率で愚かな行為だったと思います。事のてん末を後日妻に話した時、ものすごい剣幕で怒られました。

 そんな話を誠 Biz.IDの編集長としていたとき、「連載で触れてみてはどうか」とご提案をいただきました。正直、起きてしまった震災をテーマに話すのは、配慮に欠けた行為ではないかという想いもあります。しかし、私が妻から受けた叱責とその後の反省を書き記すことで、私が犯したミスを読者が繰り返さないという形で貢献できるのではないかと考えなおし、書くことを決めました。

揺れても仕事をしていた、ニュースも見なかった

 地震が起きた金曜(3月11日)の午後、どこで何をしていたの?

 渋谷の駅前にいた。次のアポまで時間があったから、駅前のカフェに入って、コーヒーをテーブルに置いて――PCの電源を入れた直後に揺れたんだ。

 私は家(埼玉県川口市)にいたんだけど、今までに経験したことのない強い揺れだった。立っていられなくて、柱にしがみついてしのいだよ。

 揺れの後、どうした?

 ストーブを消して、台所の火の元をチェックして、玄関のカギを開けて出口を確保した。で、テレビをつけたところで2回目の大きな揺れが来た。本は崩れるし、壁の時計は落ちるし、テレビが音をたてて揺れて、もう少しで倒れるところだった。本気で命の危険を感じて、外に飛び出したよ。あなたも?

 ……何もしなかった。そのまま喫茶店でコーヒー飲みながら仕事してた。

 あの揺れで!? 何考えてんの!

 結構揺れたけど、喫茶店の入っていたビルは頑丈そうだったし、周りの人も逃げなくて、まあ大丈夫かと…。PCを立ち上げている途中に移動するのも面倒だったから。避難するのはコーヒーを飲んでからでも遅くないと思ってしまったんだ。

 バカ! 何がコーヒーよ! 命とどっちが大切なの!

 今思うと、本当に軽率だった。ただ、地震直後って震源地も震度も分からないでしょ? 客観的な情報がないと、個々の感覚で判断するしかないんだよ。揺れの瞬間は、「ちょっと大きめかな」としか感じなかった。ビルも横方向に大きくて、2階と低めのフロアにいたせいもあるかもしれない。

 でも、周りの人たちはどうだったの? 避難したんじゃないの?

 それが、そうでもなかった。半分くらいはそのまま残っていた。それに影響されて、「だったら避難しなくていいか……」くらいに軽く思ってた。隣にいた人と「揺れましたねー」って軽口叩いていたくらいだから。道路には人が大勢あふれていたけど、「大げさじゃない?」くらいにしか感じなかった……。

 あきれた。一歩間違っていたら、死んでいたかもしれないんだよ? 自然災害に対する危機感が薄すぎるよ。自分だけは無事だとでも思っているの?

 返す言葉がないよ……。これまで僕は内陸かつ平地にしか住んだ経験がなくて、平らな内陸なら水害や土砂崩れはなくて安全だって勝手なイメージを持っていた。そのことが影響しているような気はする。

 自然災害に内陸も海辺も関係ない! 根拠もなく、自分だけは大丈夫と思っていたでしょ? 私の実家は沖縄で海に囲まれているし、地震の多い地域だから、地震には人一倍敏感ではあるんだけど、それにしてもあなたは甘すぎる。

 ごめん……。金曜は夕方に表参道でアポがあって、渋谷から徒歩で出かけて、打ち合わせが終わって外に出るまで、ニュースは見ていなかったんだ。ケータイはつながらなかったけど、「地震直後の渋谷なら、一時的にそういうこともあるさ」と、都合よく解釈していたんだ。打ち合わせ中にも何度か余震があったけど、気にせず続けた。もちろん、ただ事ではない雰囲気は渋谷から表参道への道中で感じたけれど。

「余」震と考えるからいけない、「追震」「続震」と考える

 いつ状況を把握したの?

 アポの終わった18時過ぎ。道路が人と車であふれかえって、車はぜんぜん進まないし、歩道は人でごったがえしていて、見たことのない光景だった。そこでようやくワンセグでニュースを見て、初めて惨状を知った。電車が動いていないことは明らかだったから、とりあえず徒歩で赤坂の事務所に戻った。知っての通り、あの日は帰宅できず、事務所で夜を明かした。

 電話がつながったのは、23時くらいだったね……。それまで、ものすごく心細かったよ。一睡もできなかった。

 自分の馬鹿さ加減を棚に上げて言うのだけど、地震の時に的確に情報収集して、迷いなく状況判断して、すばやく避難行動のできる人って、いったいどれくらいいただろう? 「きっと自分は大丈夫」「自分の居場所が震源地である可能性は低い」「他の人が逃げたら自分も一緒に」――もっと言うと「避難するのが面倒だ」という意識って、結構な割合であるような気がするのだけど。

 私は逆だよ。常に最悪の状況を考えてしまう。あなたの認識はダメだよ。地震に対するその甘さがいつか命取りになるよ。大きな余震が何度もあったけど、それでも避難しなかったの?

 しなかった。「余震は最初の揺れよりも弱まっていくはず」という思い込みがあって、さっき大丈夫だったから、次も大丈夫に違いないって自分に言い聞かせていた。なんて愚かな考えだと今では思う。でも、表参道から赤坂まで歩いていた道中でも、笑っている人や、冗談言いあっている人もたくさんいてさ、そういう姿を見て僕自身も必死に安心しようとしていたのかもしれない。

 人間の心理って、怖いよね。

 余震の「余」って文字は、「余り」を連想させるからかもしれないけど、徐々に揺れが弱まっていくイメージがない? 例えば「追震」とか「続震」という言葉だったら、もっと警戒心が高まっていたかもしれない。

 それは同意できる。私も余震はさほど警戒していなかった。そう思いたい心理が働かなかったと言ったらウソになる。でも、あの日はいつ避難勧告が出てもいいように、防災カバンを出して、中身確認して、ガスは使わずご飯を作って腹ごしらえして、厚手の防寒着を玄関にかけておいた。幸いにして使うことはなかったけれど。

 心配かけて、ごめんなさい……。

情報収集はテレビ? ネット?

 ところで、情報収集はどうしてた?

 テレビがメイン。ラジオもつけっぱなしにした。PCは使ってない。だって、あんな有事の際にのんきに立ち上がるのを待っていられないよ。

 立ち上げって、そんなのせいぜい数分のことでしょ。

 インターネットに不慣れというのもある。あと、インターネットって自分から情報を探さなくちゃいけないでしょう? 間違った情報だってあるだろうし、正しい取捨選択が困難なの。裏が取れないのが引っかかってしまうんだ。その点、テレビならある程度の信頼性が担保されているし、待っているだけで最新のものが流れてくる。

 僕もテレビには助けられた。携帯がつながらなかったとき、ワンセグは貴重な情報源になる。電池消費量が多いのが玉にきずだけど。

 インターネットでは何を見ていたの?

 一番の情報源はTwitterだった。デマやガセも混じるから注意は必要だけど、報道機関がカバーできない局地的な情報をリアルタイムで知ることができたから。事務所に戻ってからはUSTREAMでテレビ中継を流しつつ、Twitterに張り付いていたよ。テレビで広い情報をカバーしつつ、Twitterで局地的情報を拾う感じ。

 なるほど、組み合わせるのね。

 キミは家にいたからテレビとラジオが使えたけれど、もしも外出していたら、情報難民になっていたのは間違いないよ。

 確かに……。

自転車用のLEDライトは便利だった

 情報源の話ではないけど、帰宅難民になって思ったのは、公共の移動手段が断たれたとき、都内にいる人はあまりに無力だということ。バスは動いていたけど、長蛇の列で焼け石に水状態だった。歩いて帰宅も考えたけれど、重い荷物を持って川口まで20キロ以上歩くのは現実的じゃないと判断した。たまたま事務所から数キロの場所にいたからよかったものの、そうじゃなかったら途方に暮れたと思う。ホテルもカラオケもネットカフェも軒並み満室だったみたいだし、たぶん徒歩で帰宅しようとしていたら、敷地を開放していた都内の大学で一夜を明かしただろうな。

 そんな状況だったんだ。その様子じゃあ、私が車で都内に迎えに行くのもちょっとムリだったよね。

 絶対ムリ。だから自転車があったらって強く思った。徒歩より数倍のスピードで走れて、疲労感も徒歩に比べれば格段に低い。いざというときの最強の移動手段は自転車だよ。行動範囲が広ければ広いほど、情報収集力も高まるわけだし。あと、ガソリンを食わないのも大きい。ガソリンスタンドの車の長い列を見てそう思った。実際、11日の晩は自転車が飛ぶように売れたらしい。

 地図はiPhoneで確認できるから、ルートで迷うこともないよね?

 うん、ただスマートフォンは電池が持たないのが弱点なんだ。使いまくると夕方には残量が危うくなる。情報ツールとしては素晴らしくても、電池がなければただの箱だから。

 一長一短なんだね。思ったんだけど、震災のときに意外と重宝するのは、携帯ラジオじゃない? 単四形か単三形の電池が2本くらいで長時間使えて、しかも場所を選ばない。構造もシンプルで壊れにくそう。しかも、特別なスキルがなくても使えて、老若男女誰でも慣れ親しんでいる機械だし。

 そうだね。移動手段として自転車、情報収集ツールとして携帯ラジオは最低限持っておきたい。

地震の時、持っていたい、「自転車」「携帯ラジオ」「“単四”懐中電灯」

 使いこなすのにスキルや知識が必要なインターネットは、便利なのは認めつつも、威力が限定的にしか発揮されないような気がするんだ。使える人は徹底的に使えても、そうじゃない人はその恩恵に与れないんだよね。私が使いこなせない派の人間だから言うのだけど。

 あと、懐中電灯と単一形電池があっという間に売り切れたでしょ? 意外に活躍したのが、単四形で使えるLED自転車ライトなんだ。しかもeneloopで充電できるタイプだから、電池の売り切れにも慌てることはなかった。自転車ライトは、いざというときの非常用懐中電灯として使える。

 持っておくべきは、自転車と携帯ラジオと単四形電池で動く懐中電灯、なのかな。


 以上が「東北関東大震災」についてです。まさかこのような形で不採用にしたテーマを話すことになろうとは、夢にも思いませんでした。被災地で苦しんでいる人々のことを思うと、複雑な気持ちです。この話し合いに、果たして意味があるのかと自問自答してしまう瞬間もありましたが、何とか話し終えることができました。

 この記事が今すぐ誰かの役に立つことはないかもしれませんが、アーカイブされ、検索され、ツイートされるなどしていくうちに、いつかどこかで必要とする人に行き当たることを祈っています。


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著者紹介:中山順司(なかやま・じゅんじ)

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 シックス・アパート株式会社 / スキナヒト製作所 所長。1971年生まれ。Covenant College(米国)卒業後、携帯電話キャリアでマーケティングと営業に携わり、2000年にネット業界に転身。旅行予約サイト(現楽天トラベル)で観光旅行コンテンツビジネスを立ち上げ、その後始めた個人ブログがキッカケで、ブログソフトウェアベンダーのシックス・アパートに(現職)。

 2010年12月、フツーの男女のフツーの出会いをプロデュースすることに特化した、世界一マジメな恋愛インキュベーション・プロジェクト「スキナヒト製作所(β)」を設立。


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