不当な利益?感動のイルカ(2/2 ページ)

» 2010年01月21日 11時28分 公開
[森川滋之,Business Media 誠]
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 さて浩は、何を中野に怒られると心配しているのだろうか? それは、突然の税務署員の来訪だった。経理責任者と社長に会いたいと言ってやってきたのだった。

 「不正な利益処理をしている疑いがあるので、伝票などを見せていただきたい」。税務署員は、名刺交換もそこそこにこう言った。「あの……。いわゆるマルサというやつでしょうか?」「ははは。ドラマの見すぎですよ。マルサが失礼ながら御社の規模の会社に来ることは、まずありえません。税務調査というやつです」

 「なるほど。伝票類は全部税理士さんのところに預けてあるんですよ。どういう疑惑か教えてもらえませんか?」「うーん。まあ、不正な利益処理に協力する税理士はおらんはずだが、中には不心得者もいるようなので、念のため詳細は伝票が見られるタイミングになってから、ということにしておきましょう。とにかく、利益を不当に減らして、法人税をごまかした可能性があると税務署では思っています」

 「うちは、ごまかしなんかする会社ではないし、そのようなことは顧問税理士がまず許しません。なんでそんな疑いがかかっているのか、さっぱり分からないんですが」「社長名義で契約しているから、そんなはずはないんだが……。おっと失礼。それでは、出直してきますので、×月×日までに、伝票を手元に戻してくださいね」

 税務署員が帰ってから、一生懸命考えて、1つだけ思い当たるふしがあった。「契約」という言葉がヒントになったのである。

 保険に入ったのだ。ところが、担当者の応対に腹が立ったので、解約してしまったのだ。そのタイミングがいけなかった。加入したのが、年度末。解約したのが数カ月後。保険金は費用になるので、確かに利益操作と思われても仕方ない。解約の違約金が少ないタイプの保険だったので、余計に疑惑が深まったのだろう。

 一時期、保険を使った利益操作が横行したので、今では法的に規制されているが、2000年当時はよくあったことなのである。保険に入ったことは、決算書を作った中野ももちろん知っていることだが、解約したのはまだ知らせていなかった。そんなことが利益操作になるとは思いもよらなかったからだ。解約したのが先週のことなので、まだ中野と会ってもいない。

 早すぎる、と浩は思った。保険の外交員が腹いせに税務署にリークしたのかもしれない。怒られるかもしれないと思ったが、相談しないわけにはいかない。中野に電話して事情を話したら、すぐ行くとの返事だった。

 「猪狩さん。本当に利益操作のつもりはなかったんでしょうね」。ドアを開けるなり、中野はそう言った。相変わらずムダのないまっすぐな男である。「もちろんです。まあ、こちらにかけてください」。浩はソファーを勧めた。

 「中野先生が一番良く知っているでしょう? ぼくがそんな知恵の回る男じゃないってことは」「それはそうだ」。中野はようやく笑顔になった。「猪狩さんが不正をしていないというのなら信じます。徹底的に闘いましょう」

 闘いというよりは、中野の粘り強い姿勢に税務署員が辟易(へきえき)したという感じだった。経営者としてもう少し経理の常識をわきまえてほしいとの小言はもらったが、結局事なきを得ることができた。浩には、経営者としてもう少し勉強が必要だという反省も残ったが、それ以上にあらためて人との出会いのすばらしさを感じた事件となった。

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著者紹介 森川滋之(もりかわ・しげゆき)

 ITブレークスルー代表取締役。1987年から2004年まで、大手システムインテグレーターにてSE、SEマネージャーを経験。20以上のプロジェクトのプロジェクトリーダー、マネージャーを歴任。最後の1年半は営業企画部でマーケティングや社内SFAの導入を経験。2004年転職し、PMツールの専門会社で営業を経験。2005年独立し、複数のユーザー企業でのITコンサルタントを歴任する。

 奇跡の無名人シリーズ「震えるひざを押さえつけ」「大口兄弟の伝説」の主人公のモデルである吉見範一氏と知り合ってからは、「多くの会社に虐げられている営業マンを救いたい」という彼のミッションに共鳴し、彼のセミナーのプロデュースも手がけるようになる。

 現在は、セミナーと執筆を主な仕事とし、すべてのビジネスパーソンが肩肘張らずに生きていける精神的に幸福な世の中の実現に貢献することを目指している。


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