コラム
» 2011年09月14日 12時10分 公開

復興の現場:Game Jamは福島にITという復興の種をまく (2/2)

[まつもとあつし,Business Media 誠]
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「Rez」「スペースチャンネル5」などで知られるゲームクリエイター/プロデューサーの水口哲也氏

 2010年に話題を呼んだNHKスペシャル「世界ゲーム革命」にも出演し「Rez」「スペースチャンネル5」などで知られるゲームクリエイター/プロデューサーの水口哲也氏もこのイベントに注目し、Ustream番組に出演、解説を加えている。配信の合間に氏に話を聞いた。

――Game Jamに参加する人たちの熱さに圧倒されました。どうして、このようなイベントが可能になったのでしょうか?

水口 (enchant.jsやUnityのような)ゲームエンジンが成熟してきたことによって、頭の中にあるイメージを短時間で形にできる、あたかも映像を作るような感覚でゲームが作れるようになってきました。その結果、Game Jamのような30時間で少人数でミニゲームを作れるようになったのは大きな変化です。

 そうした変化を背景にGame Jamでは、プロ・アマを問わずさまざまな人々が集い、例えば週末だけを利用して、一斉にゲームを作るという、これまでにはないイベントになっていると思います。学校の授業やインターンシップとはまた違う交流が生まれるわけです。

――今回、福島だけでなく東京、福岡、札幌で同時開催が可能になったのもそのためですね。

水口 TwitterやUstreamの普及によるところも大きいですね。場所は離れていても、一体感を持って同じテーマの中でのゲーム作りに取り組むことができることが、一種スポーツにも似た熱意、楽しみに繋がっているのは間違いないでしょう。

 その結果、いわゆる「ゲーム」の枠を超えた作品が生まれる瞬間に立ち会うことがあって「次はどんなものと出会えるのだろう」といまとても興奮しています。ぼくも時間と体力に余裕があれば参加したいくらいです。

――このようなゲーム開発のスタイル(いわゆるJam方式)は、スマートフォンシフトが進む中で、ミニゲーム開発のメインストリームになり得るのでしょうか?

水口 商用のソフトウェア作りには、やはり時間を掛けなければならないプロセスがありますので、Jam方式がそのままそこに適用できるとは思いません。ただ、このような場を体験してもらうことで、ゲーム作りの楽しさや可能性に気づく人が増えて欲しいと願っています。

福島にITの種を蒔きたい

南相馬市沿岸部では、いまだに田んぼに船が打ち上げられたままになっているところも。原発から30キロ圏内では作付けを禁止している(8月27日撮影)

 熱気と、会場に訪れた子供達の歓声に包まれた会場だったが、そこから一歩外に出れば、復興半ばにある福島の現実を目の当たりにすることになる。筆者も会場に訪れた母親とそのお子さんを案内したが「産業が破壊された福島で、子供の職業の将来像も見えなくなってしまった。このイベントを見ることで何か手がかりが見つかれば……」と切実な表情で話していたのが強く心に残っている。

 南相馬市では、震災後の津波で約600人が死亡、いまだに100人前後の方が行方不明となっている。原発からの放射能汚染を避けるため、7万1000人だった人口は4月には1万人まで激減。現在は4万人まで戻っているが、現在もおよそ3万人が避難先で、5000人近くが避難所での生活を強いられている。深刻なのは、放射能汚染に加えて円高の影響もあり、地域の雇用が失われたり流出してしまっていることだ。失業・休職中の人は全体の4割に当たる1万5000人を越えるようだ。

 「福島はいま放射能被害と戦っていますが、ゲームなど、物理的な形を伴わない製品は放射能汚染とは無縁で居られます」と話すのは南相馬市議会の但野謙介議員。Game Jamのこの地での開催に尽力した人物で、開催期間中も参加者と寝食を共にしている。東京から参加したメンバーは氏の案内で被災地を実際に視察してから、開発に取り組んでいる。

取材に応じる南相馬市議会議員の但野氏。元NHK記者、コンサルタントという経歴の持ち主で、IT産業やその周辺政策に詳しい

 津波の被害からの復旧は今すぐ行わなければならない、いわば「力仕事」だが、次の世代に向けて新しく産業を作り出していく必要性、つまり「復興」の重要性を但野氏は説く。これまで南相馬市は、農業や近隣の大企業の工場で働くことが産業の中心であったが、震災と放射能被害によって、それらの先行きが見えない中、新しい産業としてITに着目しているのだ。

 「ITはかけ算なんです」と但野氏は期待を寄せる。つまり、ゲーム制作はプログラム、CG、音楽といった複数の技能の集合体であり、そこで培われた技術はゲーム以外の他の産業にももちろん応用が可能だ。Game Jamが南相馬市で開催されること、そしてそこで地元の子供達やその両親がITによるもの作りの現場に触れることで、その契機が生まれるという訳だ。

 但野氏はじめ関係者は「被災地でゲームなんて」という批判を浴びることを当初懸念していたが、市や市民は好意的に受け止めたと手応えを感じている。地方でのIT産業の在り方はともすると、コールセンターやデータセンターの移転といったオフシェアリングの形を取ることが多いが、そこで働く地域の人々にノウハウを蓄積できるクリエイティブ産業を長い目で根付かせていきたいという思いがそこにある。地方にはこの国が置き去りにしてきた価値観が残っている。それらとクリエイティブなITを掛け合わせた産業を生み出していくことで、復興を果たしたい――。今回のGame Jamにはそんな思いも込められている。

地元の親子、友達同士が連れだってゲーム作りの現場を訪れた。参加者も開発の手を止めて、子供達にその楽しさを伝える
苦楽を共にした仲間達。この後、東京、東北へとバスで戻っていった

「ゲームの危機」を打開する1つのきっかけとしてのGame Jam

 こうして非常にハードだが、濃密で充実した二日間、30時間は、さまざまな思いとともにフィナーレを迎えた。今回のGame Jamを主催したIGDA代表の新清士氏と、ユビキタスエンターテインメント(UEI)の清水亮代表取締役兼CEOへのインタビューで記事を締めくくりたい。

――今回、IGDAとUEIがはじめてタッグを組んでの開催となりましたが、どういった経緯だったのでしょう?

 わたしの7月9日に行ったTwitterへの投稿に清水さんが答えてくれたのがきっかけです。

被災地を訪れた新氏は、現地でGame Jamを開催したいと考え、7月9日にTwitterで呼びかけを行った。そこから8月27日の開催に向けた準備が怒濤のように始まる

清水 UEIも9leapというイベントを各地で行っていて、その経験を活かしながら、東北に何か役に立てることがないかと考えていた矢先でしたので。あと社内でも「フライト8時間で10本ゲームを作ろう」といった試みを、海外出張などの移動中などに行っていて、その面白さ、あるいはその制約の中でゲームの既成概念を揺さぶるものが出来上がることがある、というのを肌身で感じていたというのもあります。

――確かに取材していて、既存のゲーム作りという枠組みを跳躍する場面を目の当たりにしました。

清水 いまゲーム業界では「ゲームを再発明すること」が求められているんです。商業レベルでは予算が大きくなってきていて、保守的なもの作りになってきている。続編とかヒット作の発展型とか。僕たち自身にもそういった反省があります。ゲーム本来の楽しさってなんだろう、という原点に立ち返る機会が欲しかった。

 スマートフォンやHTML5といった技術革新が起こる中で、ゲームにもいわば「カンブリア紀」が訪れつつあるんじゃないかと考えていたときに、水口さんとGame Jamの話をする機会があり、海外でもそういった動きがあるんだということを知って関心を持っていたんです。

 ちょうど福島でゲームジャムを、と考えていて一緒にやってくれる仲間が欲しかった時期とうまく清水さんの意識がうまくシンクロしてくれました。

――Game Jamを終えての手応えはいかがでしょうか?

 被災地での開催、地元の人々との交流などこれまでのGame Jamとは異なる新しい試みがある中で、参加者・関係者は本当によくがんばって頂けたと思います。

清水 「つながり」というテーマをどうゲームに活かすか、かなりみなさん苦労した後が見えますね。でも、正直、予想を超えた感動がありました。Game Jamのポイントは完成させることよりも、プロセスを重視するところにあるんです。ここ南相馬、そして各地のサテライト会場に居る100人以上がその体験を共有しているライブ感が凄かった。

清水亮氏。各会場の模様はUstreamで常に中継。Game Jam期間中、東京会場と南相馬を行き来した清水氏。東京の国立情報学研究所では、全ての会場の様子を壁面に映し出し、一体感が高まったという

――水口さんへのインタビューでは、商用ゲームとして必要なプロセスを踏むわけではないので、純粋にゲームとしての面白さを追求するものではないということでしたが、その点ではいかがでしょうか?

清水 それは同感ですね。Game Jamの本質は成果物そのものではないと思います。

 そこは時間を掛けないといけないし、アマチュア中心ではうまくいかない。無意識のうちに凄いものを作る着想を持ちうる若手と、面白いものを作るための引き出し(人生経験)を持った年長者がうまく組み合わさる必要があります。おじさんの割り切り、諦め、おやじ力が大事な場面もある。わたしもこの年になってようやくそれが分かってきました(笑)。

 UEIでは9leapプロジェクトの一環として、コンテストや「9leap Programming Camp」という開発イベントで学生が制作した作品を、私たちがプロの目線から講評することを繰り返し行っています。Game Jamを1つの登竜門として、そういった活動に参加する人の裾野が広がるとうれしいですね。

 Game Jamでは老若男女、スキルも千差万別な人たちが集います。教育効果も非常に高い。そこで、互いに刺激を受けて、先ほど清水さんが言った「ゲームの再発明」に繋がるような動きを作って行くことができればと言うのが1つの狙いです。

新清士氏

――今後のGame Jamにかける思いを最後に聞かせてください。

清水 子供達が、親の手を引っ張って目を輝かせながら会場に入ってくる姿がとても印象的でした。これまでのGame Jamには無かった現地の人々との交流は、今後のGame Jamにも刺激を与えていくと思います。

 もともとGame Jamはグローバルな催しで年1回、来年は1月に開催します。エントリーする地域を更に増やしたいというのがまずありますね。すでに大阪や名古屋から手が挙がっています。事情が許せばまた東北でもやりたいです。

 それを核としてサブ活動を拡げていく。今回も現地の方々、そしてスポンサーの尽力に支えられてここまでこぎ着けましたが、今後もいろいろな形に取り組んでいきたいと思います。ぜひ活動をサポート、また参加して頂ける方にはお声がけ頂きたいと思います。


 震災から半年が経とうとしている。いわゆる「復旧」に向けたボランティア活動は落ち着きを見せているが、被災地では復興に向けた動きはまだこれからと言った状況だ。雇用も失われたままである地域も多い。今回のGame Jamのように、復興に向けた取り組みを引き続き追っていきたい。

著者紹介:まつもとあつし

 ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』(アスキー新書)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。9月28日にスマートフォンやタブレット、Evernoteなどのクラウドサービスを使った読書法についての書籍『スマート読書入門』も発売。


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