労働時間に関する話のたたき台――『貧困化するホワイトカラー』:城繁幸の「辞める前にこれを読め」
「法律さえ制定すれば、問題はすべて解決!」――は本当なのだろうか。労働時間に関する話のたたき台となる『貧困化するホワイトカラー』を読んでみよう。
著者紹介:城繁幸(じょう・しげゆき)
人事コンサルタントを務めるかたわら、人事制度、採用などの各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。著作に『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか−アウトサイダーの時代』『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』ほか。
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雇用問題について「規制強化ですべて解決」派の1冊。別にお勧めではないのだが、労働時間に関する話のたたき台になるので紹介する。
終身雇用では雇用調整ができない
タイトルにあるように、全編ホワイトカラーの受難振りが延々と続く。低賃金、重労働、中でも労働時間に関するものが多く、過労死や名ばかり管理職問題も続き、そしてそういった問題に取り組むさまざまな支援活動も紹介している。で、派遣法は再規制し、労基法違反はきっちり取り締まっていこうね――で終わる。
ぱらーっと流し読みした後で著者が経済学部の教授と知ってびっくり。なんというか、すごく新聞的というか法学部的である。要するに、なぜ上記のような問題が起きるのか、そしてどうやって解決していくのかという視点が完全に欠落しているのだ。「法律さえ制定すれば、問題はすべて解決!」と言っているわけだ、この経済学者は。
フォローしておくと、著者の言うように日本のホワイトカラーの労働時間が先進国で一番長いのも、特にフルタイム勤務者のそれが過去15年間下がるどころかむしろ増えているのもその通り。だが、その理由は陰謀論などではなく、単に終身雇用では雇用調整ができないから、企業が基本的に残業で対応しようとする点にある。多少の需要が増えても採用増より残業でカバーすることを選び、不況になれば新卒採用を打ち切ってさらに正社員の残業を増やす。景気の良し悪しに関わらずサラリーマンは残業漬けになるわけだ。
ワークライフバランスと雇用状況を改善するなら……
今後、新興国との競争が強まる中、コストカット圧力は増すだろうから正社員の残業はさらに伸びるに違いない。しかも1980年代以前みたいに、そのうち管理職になって一線を抜けるなんてことはないから定年までそんな調子で行くのである。
日本においても、解雇規制を緩和すれば企業が新規採用を増やすという調査結果がある(ちょっと古いが1999年の慶応大学産業研究所調査に、整理解雇が容易になれば従業員を増やすと回答した企業が減らすと回答した企業の3倍近いという趣旨の調査結果が出ている)。イデオロギー抜きで、真剣にワークライフバランスと雇用状況の改善を図るなら、雇用の流動化に舵を切るべきなのは明らかだろう。
最近、職場の派遣さんが切られて仕事が増えたと嘆く人がいるが、それも理由は同じ。フルタイム勤務で過労気味の人間があふれる一方で、仕事にあぶれた失業者が列をなす。これこそ、日本の労働市場の持つ非効率性の真髄だろう。正規と非正規、どちらも苦しませている壁が、昭和的価値観であるのは言うまでもない。
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この連載は……
この連載は城繁幸氏の公式ブログ「Joe's Labo」から抜粋・再編集したものです。
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