田中氏が「本日一番のWOW」と語っていたように、端末の発表以上に力が入っていたのが、3月にコンセプトを先行して披露していた「au WALLET」だ。以前の連載(→「au WALLET」の新しさ/ソフトバンク決算会見で見えたもの/アプリや新規事業に賭けるDeNA )でも解説したように、このサービスはauユーザー向けにプリペイド型の電子マネーを発行するもの。MasterCardと提携したことで、同ブランドのクレジットカードが読み取れるリーダー/ライターであれば、au WALLETも読み取れる仕様になっている。そのため、開始当初から世界中の3810万加盟店で利用できる。
KDDIが子会社化したWebMoneyの技術も入れ、スマートフォンで残高を確認したり、auのキャリア決済を使ってチャージしたりといったことも可能だ。田中氏が「バリューチェーンを拡大したい」と述べているのは、こうした仕組みがあることに加えて、リアルな店舗での決済にもポイントが付くため。
通信料の支払いや、オンラインでのショッピングに加えて、生活に密着した毎日の買い物もauのポイントプログラムに組み込んでいるのがこのサービスの特徴だ。仕組み的にはクレジットカードに近いため、決済とポイント加算も同時に行える。電子マネーとポイントカードのいいとこ取りをしたサービスともいえるだろう。
田中氏が「ユーザーへの還元だと思っている」と話すように、キャンペーンも充実させた。チャージについては、初回チャージに10%のボーナスを付けたほか、KDDIグループのじぶん銀行からのチャージでも5%が増額される。auショップには「au WALLET ウェルカムガチャ」を設置。抽選で最大3000ポイントが当たるようになっている。また、申し込み時にあらかじめ1000円分がチャージされているなど、現金の大盤振る舞いで普及を促進する。
ポイントについても、セブンイレブンやマツモトキヨシ、ビッグエコーなどで還元率を上げており、お得感を演出する。auのポイントプログラムとも連動するため、通信料1000円ごとに10ポイントがつく。
ただし、おサイフケータイやNFCといった、スマートフォンに搭載される非接触IC技術は活用されていない。あえてプラスチックカードを発行したのは、「カードの方が分かりやすい」(田中氏)ためだ。
おサイフケータイの活用率は高くても対応端末の2〜3割という調査結果もある。この数字を高いと見るか、低いと見るかは判断が難しいが、電子マネーやポイントカードを個別にインストールしなければならないなど、リテラシーの低いユーザーにとってのハードルは決して低くない。機種変更時の手続きが煩雑で、積極的に活用しているユーザーにとってもハードルはある。また、iPhoneが非対応なのも、おサイフケータイの弱点といえるだろう。
プラスチックカードなら使い方はクレジットカードと同じ。誰でも簡単に利用でき、端末に依存しないで済む。表向きはこのカードに決済をまとめたいという理由で付けられた「グッバイ、おサイフ」というau WALLETのキャッチコピーだが、背景にはおサイフケータイに縛られたくないという思いもありそうだ。
2月に開催されたMobile World Congressでは、KDDI会長の小野寺正氏が「(ケータイに搭載する)FeliCaチップは我々の負担、最終的にはエンドユーザーの負担で載せたが、我々には何のメリットもない。私はあのビジネスはおかしいと思っている」としながら、au WALLETについても「ああいう形でやらざるをえない」と語っている。
一方で、世界的に規格の共通化が進むNFCの決済については「あると思う」(小野寺氏)と肯定的だった。au WALLETのカードにはNFCも搭載されており、現時点では上記のガチャを回すトリガーにしかならないが、今後、活用例が増える可能性もある。まず自社で進められるプラスチックカードを発行し、それが普及したのちにNFCの決済に移行していく――KDDIは、こうした長期的なシナリオを考えているのかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.