携帯電話の「学割」はいつ始まった?その歴史と意義とはITライフch

» 2017年03月24日 06時00分 公開
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携帯電話の「学割」はいつ始まった?その歴史と意義とは

 受験シーズン真っただ中ですが、入試が終わり入学式が近づく時期は、携帯電話業界が1年で最も盛り上がる春商戦のシーズンでもあります。そして春商戦の目玉となるのは、主要ターゲットとなる学生と、その親世代を対象とした割引サービス、いわゆる「学割」だといえます。

 学割自体は既にさまざまな業界で導入されていますが、携帯電話業界に学割が導入されたのは2000年11月のこと。現在のauが「学割」という割引サービスを提供したのがその始まりとされています。

携帯電話業界に学割が導入されたのは2000年11月のこと

 当時は音声通話の利用がメインであったことから、この学割も基本料が50%オフ、通話相手がauや固定通信の場合は通話料が50%オフになるなど、音声通話を重視した割引となっていました。そしてもうひとつ、この学割が現在の学割施策と大きく異なっているのは、期間限定のキャンペーンではなかったということ。学生であれば継続的に割引が受けられる施策でした。

 auが学割サービスを提供するに至ったは、当時、auが若者層の支持をうまく獲得できていなかったことに起因しています。というのも、auブランドで通信サービスを提供していた、DDIセルラーやIDOなどKDDIの前身となる企業は、通信方式を日本独自のPDC方式から、北米などで多く採用されていたcdmaOne方式に主要インフラを切り替えたばかりだったのです。

 cdmaOne方式に切り替えたことで、音声通話の品質が高まるなどのメリットが得られた一方、端末の充実度が低く、ディスプレイのカラー化で他社におくれをとるなどし、特に若い世代からの支持を失っていました。そのためauは、端末の充実度がある程度高まるまでは若い世代をいかに獲得するかに苦心しており、彼らを獲得するための秘策のひとつとして、学割を展開するに至ったといえます。

 ゆえにauが展開していた学割が、既に若者から支持を得ていた他の事業者に広がることはなく、その後はあまり注目を集めることもなくなりました。その学割施策が再び注目され、現在のような期間限定キャンペーンとして広がったのは、ソフトバンクの「ホワイト学割」がきっかけでしょう。

 ホワイト学割は2008年より実施されてきたソフトバンクの学割施策で、当初は当時の主力料金プランである「ホワイトプラン」などに加入することで、ホワイトプランの基本料が3年間0円になるという内容でした。ソフトバンクは2006年にボーダフォンの日本法人を買収して携帯電話事業に参入しましたが、ボーダフォン時代に多くの顧客、特に若い世代からの支持を失ってしまっていたことから、若い世代の利用者を取り戻すねらいが大きかったといえます。

 さらに2009年には、家族も対象にした「ホワイト学割 with 家族」を開始。新規契約に限定し、学生だけでなく家族も対象とした割引を提供、家族の携帯電話利用ニーズを丸ごと取り込む内容へと、学割は変化していったのです。

2009年には、家族も対象にした「ホワイト学割 with 家族」を開始

 一連のソフトバンクによる学割施策の人気の高まりから、他社も学割キャンペーンに追随するようになりました。auは2010年に「ガンガン学割」を提供開始し、同年にはNTTドコモも「タイプシンプル学割」を開始。スマートフォンの普及が急速に進んでいる背景もあって各社の学割競争は急加速し、キャリアが展開するキャンペーンだけでなく、店舗独自の獲得施策なども展開されるようになっていきました。

 しかし、キャリアによる顧客の奪い合い競争が過熱し、番号ポータビリティー(MNP)で乗り換えるユーザーを過度に優遇するように。その結果、乗り換えユーザーに対して数万、数十万といった単位でのキャッシュバックを提供する店舗が現れるなど、異常事態が発生したのです。それゆえ、2014年を境に、乗り換えユーザーを優遇した割引施策による競争は急速に鎮静化するとともに、学割キャンペーンの内容も大きく変化することになりました。

 例えば2016年の学割施策を見ると、各社ともに料金の割引ではなく、学生に対して毎月データ通信容量をプレゼントする内容となっています。キャリアはその理由として、学生を中心とした若いユーザーが、動画の視聴などでデータ通信容量を多く消費する傾向があることを挙げています。

2016年の学割施策を見ると、各社2016年の学割施策を見ると、各社に

 さらに今年の学割施策の傾向を見ると、18歳以下と19歳以上とで割引施策が異なるキャリアが多く見られるようになりました。その理由として考えられるのは、MNPによる奪い合い競争が難しくなったことから、純粋な新規顧客となる高校生以下のユーザーの獲得に力を入れたいと考えるようになったためだといえるでしょう。

 そしてもう1つ、今年の学割施策に関して言えば、auやソフトバンクが、18歳以下のユーザーに対し、データ通信容量に応じて料金が変化する「段階制のデータ定額サービス」を提供したことも注目ポイントです。というのも昨年、データ通信容量を増量する学割施策を提供した約半年後の9月に、ソフトバンクの「ギガモンスター」に代表される、20GBもの大容量データ通信を安価に利用できるサービスが提供されているのです。

 それゆえキャリアが学割を次の新サービスに向けた布石として、テストマーケティングに活用するようになってきたと見る向きもあり、もしかすると段階制のデータ定額サービスが今年登場するのではないか?と期待を寄せる声も聞かれているのです。むろん、先のことは分かりませんが、今後の各社の発表は注目されるところです。

今年は、auやソフトバンクが、18歳以下のユーザーに「段階制のデータ定額サービス」を提供

 こうしてみると、時代と共に学割の位置付けやあり方が、大きく変わってきていることが理解できるでしょう。今後も市場の変化を受け、学割の形が大きく変化していくこととなりそうです。

この記事の執筆者

佐野正弘

佐野正弘

エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在は業界動向から、スマートフォン、アプリ、カルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。


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