NTTドコモが実証実験でつかんだ「サイクルシェアリング」の可能性Smart Mobility Asia(2/2 ページ)

» 2011年12月29日 23時30分 公開
[柴田克己,ITmedia]
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実証実験から得られた示唆

 坪谷氏によれば、同社が行ってきた実証実験から、日本でのサイクルシェアリングの事業化には、いくつか考えなければならないことがあるという。その1つは「規制面」での問題だ。

 サイクルシェアリングの収益性を考えるにあたって、サイクルポートなどを利用した広告事業は、利益率の高いビジネスとなり得る。しかし、都市の景観条例などにより、実際にはそうした広告の設置は困難であるのが実状だ。また、道路やバス停に付随してポートを確保するのが難しいこともあり、欧州でのモデルをそのまま持ち込むのには限界があるとする。

 ただし、2011年10月には、国土交通省が「都市再生特別措置法施行令」の一部改正に関する通達を出しており、その中では「道路の占用の許可基準の特例の対象となる、都市の再生や道路の通行者等の利便増進に資する施設等は、一定の広告塔等、食事施設等、および自転車駐車器具とする」とされている。もちろん、それぞれの自治体の対応は、また別の問題になるものの、こうした法令レベルでの規制緩和が「サイクルシェアリングの駐輪場設置には、追い風になるのではないか」と期待をのぞかせる。

 考えるべき2つめのテーマは「ユーザーの利用シーン」だ。横浜で実証実験中のベイバイクでは、「平日は8時台、12時台、17時台の利用が多く、通勤、ランチ、帰宅用途で利用されている。休日は午後から夕方にかけての観光利用が多い」という知見が得られたという。ここでの問題は、「時間的に集中して、人の移動が一方向に偏る場合、自転車が1カ所にたまってしまう」という点だ。欧州では、バスと車、自転車、地下鉄の流れが相互に作用し合い、そうした問題は回避できているという。

 「コミュニティサイクルの分散配置が中途半端だと、うまく配備することができない。ユーザーは一度不便だと思ったら解約してしまう。かといって、ピーク時に合わせて、自転車を1カ所に大量に配置すると、コミュニティサイクルではなくレンタサイクルのモデルになってしまう」と坪谷氏。エリアごとの客層や利用シーンに合わせた、緻密なマーケティングが必要になるというわけだ。

 3つめのテーマは「事業継続性」、つまり「収益」の問題だ。同社でサイクルシェアリングの年間運営に要するコストを試算したところ、自転車100〜200台、ラック400での年間運営コストは約1億円に達することが分かったという。坪谷氏は「特にポートの調達、工事、土地賃料が高くつき、これを民間でやろうとすると、相当に厳しいはずだ」と語る。

 また、「安全面」も重要なファクターだ。生身の人間が運転する自転車は、ひとたび事故が起きれば、運転者、歩行者の双方に甚大な被害がおよぶ可能性がある。折からの自転車ブームのあおりで、自転車事故は、横ばいあるいは増加の傾向にある。民間での事業化にあたっては、そのリスク面も考慮すべきだと坪谷氏は言う。

ドコモがサイクルシェアリングに見いだした「可能性」

 坪谷氏は最後に、「ドコモが考えるサイクルシェアリングの可能性」として、事業化に向けて取り組んでいる、いくつかの施策について紹介した。

Photo 日本におけるサイクルシェアリングの事業化には、収益性の確保をはじめ、クリアすべき数多くの課題が残されているという

 まずは、最も大きな課題と考えられる「低コスト型のサイクルシェアシステム」についてだ。ドコモとペダル社によって共同開発された「汎用型サイクルシェアシステム」は、ターミナル装置を使って利用者が簡単に会員登録できるもの。自転車の貸出や返却はFeliCaで行え、FeliCaとクレジットカードをひもづけて課金を管理するため、会員登録にあたって別途会員証などを発行する手間が不要になる。また、自転車のラックもコンパクトなもので、ポートの設置コスト削減も考慮されている。

 合わせて、現在検証中の「次世代サイクルシェアリング」は、自転車自体にGPSと通信モジュールを搭載することで遠隔でのロック解錠を可能にし、初期投資の大部分を占めるターミナル装置やサイクルポートの設置コストを不要にする。このシステムは、10月のCEATEC JAPAN 2011にも出展されて注目を集めた。

 そのほか、「自転車専用レーンがある道路の可視化」や「予約利用や返却の簡便化」「携帯コンテンツの提供による利用者へのサービス提供」といった、モバイル機器を活用することによる、サイクルシェアリング事業化にあたってのハードル越えにも可能性が見えつつあるという。

 さらには、地元、地方自治体、NPOなどとの連携の強化、顧客満足度向上を目指した子供向け自転車教室の実施といった展開も進めている。坪谷氏は「サイクルシェアリングの事業は、何か事故があれば、人が傷つく可能性が高いもの。システムだけ導入すれば、すぐできるというものではない」と、この事業の成功に向けては「サービスとしての原点回帰」が重要である点を強調した。

 「日本のサイクルシェアリングはまだまだ発展途上だが、今後、何かのきっかけで必ず成長していくと信じている。NTTドコモの環境ビジネスとして、引き続き事業化に向けた取り組みを続けていく」(坪谷氏)

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