NTTドコモが実証実験でつかんだ「サイクルシェアリング」の可能性Smart Mobility Asia(1/2 ページ)

» 2011年12月29日 23時30分 公開
[柴田克己,ITmedia]

 2011年11月30日から12月2日にかけて、アクロス福岡において開催された「Smart Mobile Asia」コンベンション。モバイルIT機器と都市交通の近未来をテーマとした同イベントにおいて、12月2日には、NTTドコモ フロンティアサービス部環境事業推進担当部長の坪谷寿一氏による「サイクルシェアリングの現状と将来性について〜モバイルとの融合による新たな可能性〜」と題されたカンファレンスセッションが行われた。

Photo NTTドコモ フロンティアサービス部環境事業推進担当部長の坪谷寿一氏

 モバイル通信分野のガリバーであるNTTドコモと、サイクルシェアリングという事業との関連について、坪谷氏は「NTTがここ3年ほどの間で新たに取り組んだ、社会のサステナビリティ向上に向けた事業のひとつ」であると説明する。

 NTTの移動体通信事業が独立して設立されたNTTドコモの事業には本来、移動体通信サービスを個人生活の向上に寄与させる「パーソナルサービス」と、社会の持続的成長に貢献させる「パブリックサービス」の両方の側面がある。しかしながら、この10年間のサービスイノベーションの方向性として「少し、パーソナルに偏りすぎた感がある」(坪谷氏)という。

 そこで、約3年前の2008年に、山田隆持氏の社長就任と合わせて、環境・エコロジー事業、健康・医療事業、金融・決済事業、教育支援事業、安心・安全事業といったソーシャルサポートサービス基盤の構築と事業化を推進していく方向性を決定。先進サービスの開発に取り組む「フロンティアサービス部」を設置して、さまざまな取り組みを行ってきた。

Photo サイクルシェアリング(コミュニティサイクル)には、温室効果ガス削減の効果も期待されている

 セッションのテーマとなっている「サイクルシェアリング」(コミュニティサイクル)は、欧州などで先行して事業化が進んでいる自転車の共同利用サービスである。街中に複数設置されたリサイクルポート(駐輪場)に分散配置された自転車を共同で利用し、利用料金は、1回30分以内の利用であれば定額制、それを超える場合は時間ごとの従量課金制とするモデルが一般的だ。観光や通勤通学、仕事時の移動といった用途での利用が見込まれており、都市部の渋滞緩和やマイカー利用削減による温室効果ガス削減効果が期待されている。駐輪場情報の検索、貸出や課金システムの導入といった点で、携帯電話事業との相性も良いものだ。

 実際に、国内でも自治体などとの連携により、各地でサイクルシェアリング導入に向けた多くの実証実験が行われている。また、NTTドコモ自身も2010年に北海道札幌市においてドーコンとの共同による「Porocle(ポロクル)」、そして現在は2014年3月までの期間を定め、神奈川県横浜市との共同による「ベイバイク」と呼ばれるサイクルシェアリングの実証実験を行っている。

欧州のモデルは日本にそのまま持ち込めない

Photo 早くにサイクルシェアリングが定着した欧州では、既に都市交通の一般的なオプションとなっている

 実際に2つの実証実験を通じて、現在までに得られた結論のひとつは「『現行モデル』での事業持続性は、かなり厳しい」というものだったという。ここで坪谷氏が言う「現行モデル」とは、サイクルシェアリングの事業化で先行した欧州でのモデルである。

 坪谷氏は、日本での実証実験に先がけて欧州各地で事業化されているサイクルシェアリングについて研究を行った。このセッションでは、フランス・パリでの「Velib」サービスを取り上げ、そのモデルの成立要因について分析した。

 Velibは、2007年7月に、750カ所の駐輪場と、1万台の自転車をそろえてサービスを開始。翌年には、駐輪場1450カ所、自転車2万台余までサービスを拡大。1年間での総貸与件数2500万回、1日の利用件数が最大で25万件を超えるなど成功を収め、同市の大衆交通システムのオプションとして定着したという。

 坪谷氏は「このモデルが成立した周辺環境も考慮しなければうまくいかない」という。その要素の1つが事業の収益性に関するものだ。

 当初、このVelibを委託運営していたのは、バス停やベンチなどのいわゆる「ストリートファニチャー」を媒体として扱う屋外広告の代理店であるJCDecauxだった。そのため、サイクルシェアリングは広告の付帯事業であり、収益源としては、共有自転車の利用者から徴収する利用料だけでなく、ストリートファニチャーによる広告収入なども勘案できたことが大きいとする。日本では、都市景観の保持に関する法令や条例により、こうした収益確保のモデルが作りにくいのが現状だ。

 「30分以内に返却すれば定額」という料金モデルについても、その時間内で自転車を回収できるだけの駐輪場の分散配置が前提であり、それには自治体の協力が欠かせない。そのほか、自転車専用道路の整備やユーザーのリテラシーなど、欧州のモデルをそのまま持ち込むことができない、さまざまなハードルがある。

モバイルとサイクルシェアリングの融合は可能か

 NTTドコモでは、札幌、横浜の2都市での実証実験を通じて、さまざまな知見を得た。中でも、横浜市と共同の実証実験である「ベイバイク」の実施にあたっては、仮説に基づくいくつかの工夫を行っている。

Photo NTTドコモと横浜市が共同で実施しているサイクルシェアリングの実証実験「ベイバイク」の概要

 ベイバイクは、2011年4月に21ポート(駐輪場)、150台の自転車で実証実験を開始した。実施場所は、オフィス、観光、商業エリアである、みなとみらい地区および関内地区となっており、ポートとシステムについては、札幌で実験を行ったドーコンとの共同開発によるものを利用している。

 サービス利用時間は、8時から21時半まで。一般の月額会員に加えて、利用予約のできるプレミアム会員や、30分以内であれば1回105円で利用できる新たな契約形態なども用意した。利用登録は専用のICカードだけでなく、おサイフケータイからも行える。

 ベイバイクでは、「モバイルとの融合」を意識し、携帯電話さえ持っていれば、自転車の予約から、利用(行き先ナビなどを含む)、返却、利用後のデータフィードバック(自転車走行距離などのレポート)までを一貫してコントロールできるシステムを用意した。合わせて、ベイバイク利用者が、走行ルートや消費カロリー、観光スポットなどを楽しめるAndroidアプリをウイングスタイルと共同で開発し、提供を行っている。「利用後の楽しさも提供し、ユーザーの獲得につなげたい」との意図だ。

 2011年4月にスタートしたベイバイクの会員数は、11月時点で約4000人。年内には「会員数1万人を超えたい」と意気込む。会員のプロフィールとしては、性別が男女でほぼ半々。年齢は、20歳代から40歳代が8割強を占めている。また、利用目的としては、当初、業務利用が多いのではないかと予想していたが、実際には「散策」「観光」「買物」といった用途が多いことも分かった。

Photo 「ベイバイク」の会員プロフィール

 坪谷氏は、「当たり前の話だが、机上で研究するよりも、実際の顧客の声を聞くことで学ぶことのほうが多い」と実感を語る。また今後、実証実験を続けていくにあたって、あくまでもコア事業としてのサイクルシェアリングにこだわるとし、「収益的には厳しいが、徹底的なコスト分析や改善など、まだまだできることはあると考えている」と意欲をみせた。

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