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» 2011年06月06日 14時00分 UPDATE

小寺信良「ケータイの力学」:災害時における「ケータイ」の可能性を考える(2)

災害時の救難や支援、その後の復旧・復興活動に欠かせないIT。しかし、被災地にネット環境があるだけでは問題の解決にならない。地方自治体のネットスキル向上が欠かせないが、取り組みの優先度が低いのも現実だ。

[小寺信良,ITmedia]

 八戸まで新幹線で移動し、岩手県北の洋野町種市(ひろのちょう たねいち)に車で入った。ここはウニの養殖で知られるところだが、津波で稚ウニの養殖施設が大打撃を受けた。しかし、高さ12メートルの防潮堤が津波の進入を防ぎ、町は守られた。奇跡的に死者はゼロであった町である。

photophoto 壊滅した稚ウニ養殖施設(左)。町を守った12メートルの防潮堤。この向こうにはいつもと変わらぬ日常がある(右)

 居住地域への被害は出なかったが、生活インフラが崩壊した。3月11日の大地震を境に、電気、ガス、水道すべてのライフラインが停止。しかし携帯電話は場所によって数時間通じた。端末は電池で駆動し、携帯基地局の予備電源も数時間は持つからである。

 逆に言えば、予備電源が数時間しか持たないというのは、その間に電源ラインが復旧するという見込みで設計されているということであろう。平時のトラブルであればその程度で対応可能だが、発電施設の停止といった根本的なトラブルには対処できない。

 NTTドコモが4月28日に公開した、東日本大震災被害および復旧状況という資料(PDF)がある。これの3ページにある地図には、3月12日時点で岩手県北部海岸沿いに少しだけ使用可能エリアがあるが、このあたりが洋野町の南部にあたる。

 自治体から住民への緊急連絡は、地域の防災無線によって行なわれた。防災無線は町役場が停電しても、自家発電装置で利用できる。しかし電源容量に限りがあるため、必要最小限のものしか動かせず、役場内でもテレビですら自由に点けることはできなかったという。

 野村総研が3月29日に発表したネットユーザーに対する調査結果によれば、今回の震災で「信頼度が上昇した」というメディアはNHKで、次いで大手ネットポータル、3位がソーシャルメディアとなっている。一方政府・自治体の情報は5位で、民放の情報とどっこいどっこいの数値である。メディアからの情報収集もままならず、電話もFAXも不通では、自治体ができることは現場対応しかないという状態が続いた。

ネットに上げるという重要性

photo 野田村役場前の消防署から海岸を望む

 さらに南下を続け、岩手県北部で最大の被害を受けた野田村に入った。ここにも高さ8メートルの防潮堤があったが、津波はそれを乗り越え集落をさらった。鉄筋の村役場は残ったが、そこから海岸までのエリアは、瓦礫こそ撤去されているものの、ほぼ更地である。

 市町村レベルでもITを活用して情報の発信を行なっているところは多い。しかしそれらの役割を果たすPCはデスクトップ型であり、さらに有線でLAN接続されていることから、二重の意味で使えなかった。そもそも電源が来ない点、そしてルーターやハブなどが水を被って、使えなくなった点である。有線による通信の脆弱性という意味では固定電話も同様で、今も村役場は代表番号しか使えない状態が続いている。

 ネットが生きていれば、もっとマシな災害対策・災害支援ができるはず――という意見はあるし、筆者もそう思いたい。しかし、5月13日に行なわれた情報ネットワーク法学会の「特別チャリティ講演会」の中で、岩手県立大学の村山優子教授は「ネットワーク復旧支援はニーズがないところに持って行っても話がかみ合わない」と語った。

 岩手県立大学では卒業生らによるボランティアのIT復興支援プロジェクトがあり、実際に成果も上げているが、「どうせ来るならガソリンを」「食料を」という声を前に、有機的な活動は難しい。さらにいえばネットがそこにあるだけではダメで、極端な話、それを使う人ごと置いていかなければならない。そういう意味では、もっと地方自治体職員のネットスキルを上げていく必要があるわけだが、平時ではその必要性もよく見えないとして、放っておかれている状況にある。

photo 岩手県立大学らのIT復興支援

 野田村の状況は、メディアとしては3月14日にデーリー東北が写真付きで報じているが、隣接する久慈市のネットタウン誌がこれより1日早く、写真入りで報じている。取材は11日から行なっているが、停電のためにネットにアップできなかったという。

 最初に再開したネットインフラは携帯電話だった。13日には、住民の個人ブログに携帯による写真が掲載され、Twitterによって拡散された。19日には野田村観光協会のTwitterが再開している。

 かつて情報は、誰かに、あるいはどこかに向けて発信された。しかしTwitterの出現によって、ネット上にあれば誰かが適切なところへ繋いでくれるという現象が起きている。この拡散力は、災害時の命に関わる情報伝達に役立てられるはずだ。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。


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