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» 2011年07月28日 18時05分 UPDATE

山根康宏の中国携帯最新事情:第3回 メーカー乱立、スマートフォンに活路を求める山寨機 (1/2)

ここ数年、中国で最も勢いのある携帯電話はiPhoneでもAndroidでもない。無視できない存在にまで数を増やし、大手メーカーまでもが脅威と感じているのが「山寨機」と呼ばれる未認可端末だ。だが、ここに来てその成長に陰りが見え始めているという。何かと話題の山寨機の現状を探った。

[山根康宏,ITmedia]

年間2億3000万台、無視できない存在の山寨機

 最近日本でも山寨機の名前を聞く機会が増えている。山寨機とは「山のとりで」、すなわち古代中国で政府に反抗し、山にこもった山賊の俗称からつけられた呼び方だ。中国では携帯電話を製造し販売する際にネットワークへの接続認可を受け、また製品には付加価値税を収める必要がある。ところが山寨機はそれらを無視してメーカーが勝手に生産販売している製品なのである。中には端末識別番号(IMEI)を取得せずに他の端末と同一のものを複製して付けているものもある。

 さしずめ日本で言えば、TELECの証明を受けずにメーカーが端末を販売しているようなものだ。この山寨機は大手から中小までメーカーの数は数百以上あると言われているが、中には個人レベルで製造に手を出す例もあるなど、何社が手がけているかの全容は把握しきれない。

 日本では山寨機=コピー携帯と認識されがちだが、山寨機の本質はそこではない。前述したように山寨機とは本来取得すべきプロセスを省いた未認可の端末にすぎない。それどころか「しょせんはパクリ」とばかにできないだけの影響力を山寨機はすでに持っている。もちろん消費者の目を向けさせるため、安易に大手メーカーの製品をコピーした製品が多いのも事実である。有名ブランドや日本のキャラクターを採用するなど、本来ありえない携帯電話を製造しているメーカーもあるほどで、パッケージまで本物のように見せた本格的な製品もよく見かける。ちなみにコピー携帯は市場のトレンドをよく表しており、3〜4年前までならばNokia一色だったものが、ここ1〜2年ではiPhoneやSamsungを真似たものが多く、最近ではHTCに似せたものも増えている。

photophoto 中国の大都市なら必ずある「山寨機問屋ビル」。整然と店舗が内部に並ぶビルもあれば(写真=左)、工場直送のダンボールが山積みされその場でパッケージを組み立てているような雑然としたところもある(写真=右)

 山寨機の生産台数は調査会社iSupliによると2010年で2億2800万台、2011年は2億5500万台が見込まれるという。2010年の全世界の携帯電話販売台数は約16億台(Gartner調査)だったことを考えると、山寨機は何とその約15%を占めるまでに至っている。山寨機だけでもiPhoneの販売台数を大きく上回っているのだ。なぜここまで山寨機の数が伸びているのだろうか? 背景には中国政府が2007年に携帯電話生産のライセンス制を廃止したことにより、誰もが参入可能になったことが大きく影響しているが、それと前後して「MTK革命」が起きたことが大きい。

「MTK革命」で異業種の参入も増加

 MTKとは台湾のチップセットメーカー、MediaTekの略称である。同社が開発したチップセットは携帯電話の基本機能をすべてコントロールでき、あとは周辺パーツを組み合わせれば携帯電話を組み上げることが可能になる。MTKはさらに、携帯電話のソフトウェアも開発し無償で配布し、「MTKプラットフォーム」としてパッケージ販売を開始した。これにより、メーカーは携帯電話の基幹部分を開発する必要がなくなり、PCのようにパーツを組み合わせるだけで携帯電話を生産することが可能になった。携帯電話の開発概念を根本から変えてしまったMTKプラットフォームの登場は、まさしく革命そのものだったのである。

 MTKプラットフォームは多くのメーカーが採用しただけではなく、異業種からの携帯電話市場への参入も大きくうながす結果となった。例えば中国の音楽プレーヤーメーカーとして有名なOPPOは、音楽携帯を引っさげて製品を投入。参入開始からわずか1年で若者に人気の携帯電話メーカーに躍り出たのだ。そして中国国内だけではなく、海外や日系の大手メーカーでも、ミッドレンジ以下の製品にMTKプラットフォームを採用する例が増えている。

 そして中国にはデザインハウスと呼ばれる携帯電話の基本プラットフォームを設計する企業が多く、それらが相次いでMTKプラットフォームを採用。携帯電話を作りたい企業は、希望する機能や端末デザインをデザインハウスへ依頼すれば、あとはすべての設計を行ってくれるというわけだ。自社で携帯電話を一から設計していれば、新機種の開発は1年では済まないだろうが、山寨機なら早ければ1カ月程度で製品化できてしまうほどなのである。

 このようにMTK革命以降、山寨機メーカーは雨後のたけのこのように数を増やし、生産台数も年々大きく伸びている。なお、これらの山寨機メーカーは「携帯電話を製造して利益を得る」という、企業として当然の行為をしているに過ぎず、新技術を開発して付加価値をもたらすといった姿勢は彼らの頭の中にはない。「携帯電話メーカーなのに技術開発を行わないようでは力がない」と揶揄する声も聞かれるが、むしろ機能で差別化できない分、端末のデザイン面では大手メーカーですら真似のできない新しい概念の製品を作り上げている。例えばキャラクターの顔そのままの携帯、サッカーボール型や楕円の画面を採用した携帯など、アイデアをそのまま製品にしてしまう彼らの想像力には素直に脱帽せざるを得ないだろう。

photophoto 中国・深センでは山寨機メーカーの広告を多く見かける(写真=左)。売っているのはミニカーではない。自動車の形をした携帯電話である(写真=右)

急落した山寨機の価格競争力、深刻な品質悪化

 山寨機は中国国内ではもはやどこでも当たり前に売られている。もちろん携帯電話事業者の店舗や大手家電量販店では取り扱いはないが、路地を入った商店や携帯電話を単体で販売する小さい店舗などでは、山寨機以外は扱っていないというところもあるくらいだ。地下鉄の駅構内でゲリラ的に屋台を出して売られている例もある。また、地方では列車内を歩きながら着ているコートを広げ、その内側ポケットにずらりと山寨機を入れた“車内携帯電話行商人”まで出てくる始末だという。

 これだけ当たり前の存在となった山寨機だが、その影響を最も受けているのが中国国産メーカーである。LenovoやBird、TCLといった一昔前はシェアのトップをがっちりと握っていた国内の端末メーカーは勢いに陰りが見えている。ちなみに中国の国内メーカーで現在シェアトップの常連に食い込んでいるのはK-Touch(天語)で、同社はMTKプラットフォームを最大限に活用して最新のトレンドを取り入れた端末を矢継ぎ早に市場に投入している。

 しかしそのK-Touchにとっても、同じプラットフォームを採用している山寨機は最大のライバルだ。認可費用や税金、そしてアフターケアすら不要な山寨機は同じ機能の国産大手メーカー端末よりも2〜3割も値段が安く、国産メーカーの価格競争力はもはやなくなってしまった。また農村部などではそもそも国産メーカーのブランド力が弱いこともあり、より低価格で同程度の機能を持った山寨機の方が好まれる傾向にもある。都市部でも低所得者にとっては山寨機こそがコストパフォーマンスに優れた魅力ある製品なのである。

 だが、山寨機の成長もここに来て急ブレーキがかかりつつある。何よりもメーカーの乱立により類似した製品が増えてしまい、製品の差別化は「価格だけ」という状況になってしまった。コピー端末にしてもiPhoneのコピーだけで50種類も100種類もあるといわれており、今ではそのどれもが粗悪な製品ばかりだ。メーカーは増える在庫の山をなくそうと価格引き下げに躍起になっているものの、それもすでに限界に近づいている。ミッドレンジクラスの山寨機の価格は毎年10%〜20%程度下落しており、今では500人民元(約6100円)以上の製品を見かけることはほとんどない。また、200人民元(約2500円)以下で買える低価格機については中小メーカーの乱立が激しいが、安価なパーツや本体素材を採用したことで、1カ月もしないうちに壊れてしまう製品もあるという。このため、1度は山寨機を買ったものの、買い替え時には大手メーカー品を選ぶ中国の消費者も急増している。

photophoto 誰もが生産できる山寨機だけに、端末の個性はなくなりつつある(写真=左)。3枚のSIMカードで同時待受けできる端末も、いずれ当たり前の存在になっていくだろう(写真=右)

 加えて、中国の通信事業者各社が3Gサービスを本格開始し、国産メーカーと組んで割安な3G端末の販売を始めたことから、山寨機最大の特徴であった価格面での魅力も薄れ始めている。通信事業者から端末を買う場合はポストペイド契約はもちろん、プリペイド契約でもあらかじめ端末価格相当分を残高に追加しておけば、その分が毎月の無料利用分に充当され、実質無料で端末を入手できるケースも多い。フィーチャーフォンだけではなく、1000人民元台(約1万2300円)の安価なスマートフォンも、プランによっては無料で入手できる場合もあるほどなのだ。

 これらの影響により、山寨機の生産台数は2011年がピークになると予想されている。iSuppliは2012年の山寨機の販売台数は2億1300万台と、2010年を切るレベルまで下がると予想している。また、これまでフィーチャーフォンばかりだった山寨機も売れなくなり始めたことから、今後は超低価格端末とスマートフォンを手がけるメーカーが増えてくると予想されている。

 超低価格端末はインドやアフリカなど、毎月の通信費用が100円にも満たない消費者をターゲットにした製品で、基本機能に絞って価格は10ドル台を目指した製品である。だがコストをここまで引き下げるためには大量生産が必要なことから、中小メーカーが手を出すのは難しい。また、スマートフォンもプラットフォームの単価が高いことから、ある程度の資金力がなければ生産は難しい。つまり中小の山寨機メーカーが生き残りを図るには非常に厳しい時代がやってきたといえる。

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