インタビュー
» 2013年08月09日 21時42分 UPDATE

レコード会社の代わりに楽曲を宣伝します――ユードー南雲氏に聞く「SPOT MUSIC」の狙い (1/2)

ユードーが提供している「SPOT MUSIC」は、ミュージシャンが宣伝した楽曲をリスナーが聴いて“応援”をすることで、ポイントがもらえるという新しいタイプの音楽サービス。新しい音楽ビジネスの創出を狙う南雲氏に、開発の背景を聞いた。

[田中聡,ITmedia]

 「ピアノマン」「エアロ・ギター」「斉藤さん」「テガキモンスター」といった、話題性の高いアプリを多数リリースしてきたユードーが、新しいビジネスモデルを創出すべく開発したのが「SPOT MUSIC」という音楽アプリだ。SPOT MUSICは、ミュージシャンが有料で宣伝した楽曲をユーザーが聴いてコメントを書き込んだりすることで、Amazonギフト券などと交換できるポイントをもらえるサービス。ユードーと、東海地方のラジオ局「ZIP-FM」が、音楽ビジネス部門とIT関連部門を手がける新会社として設立した「ZIP NEXT」との協業で実現した。

 これまでの音楽サービスは、リスナーがお金を支払って楽曲を聴くスタイルが当たり前だったが、SPOT MUSICは、ミュージシャンがお金を払ってリスナーに聴いてもらう点が新しい。実際にアプリの開発に携わった、ユードー代表取締役・プロデューサーの南雲玲生氏に、このサービスの狙いを聞いた。

photophotophoto 楽曲はストリーミング再生される(写真=左)。ミュージシャンは、Webサイトのリンクを貼ったり紹介文を用意したりできる(写真=中)。その曲が置かれている場所も確認できる(写真=右)
photophotophoto リスナーが投稿したコメント(写真=左)。再生数やポイントの高さごとにランキングも閲覧できる(写真=中、右)
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音楽を投稿できても拡散する手段がない

photo ユードー代表取締役・プロデューサーの南雲玲生氏

 SPOT MUSICは、そもそもどういうきっかけで生まれたのか。原点は、南雲氏が少年時代から没頭してきた音楽体験にある。

 「もともと僕は音楽を作る人で、小学生のころから打ち込みをやっていました。でも昔はインターネットがなかったので、発表する場所は友達、ライブハウス、学園祭が中心。今はインターネットがあるので、SNSやYouTubeなどに曲を投稿できるけれど、曲を投稿してから拡散する手段がないことに気付いたんです。楽曲を作る人や、音楽をプロデュースする人はたくさんいるけれど、ビジネスモデルを作る人はあまりいなかった。海外ではSpotifyなども注目されていますが、僕は新しいものを作りたいと思っていました」

 特定の場所に楽曲を置けるのもSPOT MUSICの特徴だが、南雲氏が「GPSが選曲する」と表現するこのアイデアも、以前から温めていた。「4年前に、景色や風景に対してサントラを付けたいと思っていました。ヘッドフォンを付けて街中を歩いている人がたくさんいますけど、見方を変えると、街の風景にサウンドを付けているようなもの。例えば鶴見駅は美空ひばり、青山一丁目だったらテイ・トウワ、湘南だったらサザン(オールスターズ)がいいとか、ありますよね?」と南雲氏。

 周辺の人に曲を配信して、曲を聴いたりコメントを残したりしてくれるとお金(ポイント)をプレゼントする、といった仕組みも同時に考えていたが、これらのアイデアをビジネスモデルに結び付けるところまでには至らなかった。

 そんな南雲氏に転機が訪れたのが、2012年末だ。「去年の大晦日の前日に、ZIP-FMの大関さんがユードーに来てくださって、そこで意気投合して。大関さんが社内調整をしてくださって、一気に開発が進みました」と振り返る。ZIP-FMを協業先に選んだのは、「東海地区の若者・アーティストに絶大な人気があり、SPOT MUSICがメインで扱うインディーズバンドにも強く、顔も広いから」。数日でアプリを作ることもあるユードーにとっては珍しく、開発には5カ月ほどを要したという。「こんなに長く作ったのは初めてかもしれません」と南雲氏は苦笑いする。

 ユードーはアプリ開発を行い、ZIP NEXTは音楽業界やアーティスト、レーベルへの呼びかけや、音楽市場の分析などを行う。SPOT MUSICでは、まずはインディーズの楽曲から配信し、8月9日時点で56曲をそろえた。ミュージシャンはユードーとZIP-FMが厳選しており、曲は「アプリ配信のギリギリまで焦りながら集めていた」という。いずれも発表済みの曲だが、今後はSPOT MUSICオリジナル楽曲の配信も検討している。ちなみに、南雲氏が作った曲も配信されているので、探してみていただきたい。

ポイントがもらえる仕組み

 リスナーが楽曲を聴くモチベーションの1つになる「ポイント」をもらえる条件は、「最初から最後まで曲を聴くこと」に加え、「コメントを書き込む」「アーティストのWebサイトにアクセスする」「楽曲の販売サイトにアクセする」など。曲を聴いただけではポイントが付かず、何かしらの形でアーティストを“応援する”アクションを起こさなければいけないのがミソだ。ポイントを付与するかどうかは、コメントが投稿されてから24時間以内にミュージシャンが判断する(何もしないと24時間後に自動的に付与される)。

 実際にポイントが付与される仕組みはどのようになっているのか。まず、ミュージシャンは、1曲あたり「1000円」「2000円」「4800円」という3種類の「チケット」を購入できる。例えば1000円のチケットを購入した場合、1000円のうち300円がAppleに支払われ、350円がユードーとZIP NEXTの利益になり、残りの350円がリスナーに支払われる。リスナー1人あたりの単価は5ポイント(5円)から設定でき、350円で1人あたり5ポイントにすると、最大70人のリスナーにポイントを付与できる。広告費が1000円から、といのうは、宣伝する側にとってはハードルが低く参入しやすいだろう。

 SPOT MUSICで配信されている曲には、もらえるポイントの数字が明記されている。ポイント数が高いほど、曲を聴いてもらいやすくなるので、自分の曲を多くの人に知ってもらいたければ、より高額のチケットを購入することが求められる(もちろん楽曲のクオリティで勝負するという考え方もあるが)。

 チケットを購入してミュージシャンが曲をアップロードする際、どの“場所”に曲を置くかを決められる。ユードーがサーバに持っている店舗、駅、学校などの施設のデータベースにアサインすることで、曲と場所をひも付けられるわけだ。ユーザーはアプリを起動すると、一番近い場所にある曲を取得して再生できる。その際、ユーザー自身が聴いた曲を別の場所(現在地付近じゃなくてもよい)に置くこともできる。例えば、名古屋駅周辺で出会った曲を、横浜に配置するといったことも可能だ。聴かせたい場所や地域に楽曲を配置することで、ライブやイベントなどの来場者にアピールする、イメージに合う曲を店舗に配置するといった活用も考えられる。

ミュージシャンは楽曲を分析されたくない?

 SPOT MUSICに楽曲を投稿したミュージシャンは、その楽曲の再生数、コメント数、お気に入り数、曲が置かれたスポットとその数、リスナーの年代と性別(登録は任意)、総再生時間、スキップした人数といった詳細なデータが分かる。こうしたデータは非常に有用だが、南雲氏によると、ミュージシャンは自分の楽曲を分析されることを嫌う人が多いという。音楽には感性が占める部分が大きいので、そこを数値化することに対して違和感があるのだろう。「プロデューサーやビジネス側の人は見たいはず」(南雲氏)だが、当のミュージシャンは「ここまでの情報は怖い」と思う人が多いようだ。

 それでも、低コストで楽曲を宣伝できる効果は計り知れない。「レコード会社はマーケティングやプロモーションをする機能を持っているのに、予算の問題で、なかなか難しくなってきています。そうなると、全国にユーザーを拡大できなくなります。SPOT MUSICで、地元のユーザーが応援して、ライブハウスや指定した店舗などに曲を置いたりすることで、ファンを拡大していけると思っています。レコード会社に代わって安い費用でPRをするので、一緒にやりましょうということです」と南雲氏は狙いを話す。ランキングトップの楽曲はZIP-FMでオンエアされるので、さらに曲を宣伝するチャンスを得られる。

photophotophoto ミュージシャンが利用できる楽曲の登録ツールと、統計・アンケートデータ
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