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» 2016年06月07日 17時06分 UPDATE

MVNOの深イイ話:MNOとMVNOの関係

MVNOは、基地局やコアネットワークを持たない特殊な携帯電話会社です。これらの設備は、既存の通信キャリア(MNO)から借りています。今回はそんなMNOと、MVNOの関係について解説します。

[佐々木太志,ITmedia]

 MVNOは、連載第4回で説明した通り、基地局やコアネットワークといった携帯電話サービスの提供に必要不可欠な設備を持たない「ちょっと特殊な携帯電話会社」です。これらの設備は、既存のMNO(NTTドコモやKDDIなどの携帯電話会社)から借りて提供をしています。こういった設備の借用は、既存の携帯電話会社(MNO)とMVNOの間で結ばれた契約書を元に提供されています。今回は、こういったMNOとMVNOの関係性について、ご説明しようと思います。

MNOとMVNOの関係は2種類

 総務省が定めたMVNOに関わる電気通信事業法及び電波法の 適用関係に関するガイドラインという文書には、「MVNOとMNOの間の関係」という章があり、ここには次の2つの関係が示されています。

  1. 卸電気通信役務
  2. 事業者間接続

 これらは、MNOとMVNOの契約形態を示します。つまり、場合によってMNOとMVNOは卸電気通信役務契約、事業者間接続契約のいずれかを結ぶ、ということです。どちらを選ぶかは、MNOとMVNOの間で協議をして決めることができます。それぞれ長所や短所があるため、MVNOはその点を踏まえ、MNOと協議を行うことになります。

MVNOの深イイ話 MNOからMVNOへのネットワーク提供形態は2つある(画像はドコモのWebサイトから引用)

卸電気通信役務は最もスタンダードなMNOとMVNOの契約

 2種類の契約方法の1つ、卸電気通信役務に関しては、われわれ電気通信事業者のバイブルといえる電気通信事業法の第29条に「他の電気通信事業者の電気通信事業の用に供する電気通信役務」という説明書きが登場します。つまり、ある事業者の事業のために提供される他の電気通信事業者の役務(サービス)という枠組みに、便宜上卸電気通信役務という名前を付けている、ということです。

 MVNOが卸電気通信役務の枠組みを利用する場合、MNOはMVNOにSIMカードやコアネットワークなどを含めた通信サービスを提供します。このMNOから提供される通信サービスにMVNO独自の付加価値を加え、利用者に提供することでMVNOの事業が成立する、というわけです。

 卸電気通信役務契約に関しては、それ以外に電気通信事業法にはあまり細かい規定がなく、MNOとMVNOで割と自由に契約を締結することができます。とはいえ、あまりに自由すぎると協議が進めづらいので、MVNOが徒手空拳でMNOと協議をしなくてもいいよう、ガイドラインでは卸電気通信役務の「標準プラン」を開示するようMNO各社に求めています。この卸標準プランの約款や説明資料は、インターネットで誰でも閲覧が可能です。

 MVNOにとっての卸電気通信役務のメリットはそれだけでなく、音声通話サービスやSMSの提供が受けられることも挙げられます。これらのサービスはMVNO側が設備を持たないことから、後で説明する事業者間接続では対応できず、MVNOがこれらのサービスを提供する場合は卸電気通信役務で実現されることになります。それだけではなく、MNOとMVNOが合意すれば、ですが、MVNOがMNOのサービスを利用して自らのサービスを形作っていくことが可能な枠組みが、この卸電気通信役務ということになります。

 卸電気通信役務契約は、実態からいっても最もスタンダードなMNOとMVNOの契約方法であるといえます。少し古い統計となりますが、2014年度の総務省調査(※PDF)では、卸電気通信役務でMNOと契約しているMVNOは19社で、事業者間接続のみでMNOと契約している2社を大きく上回っています(その他に、5社が卸電気通信役務契約と事業者間接続の両方で契約)。今後も、さまざまなMVNOサービスが、この卸電気通信役務契約により実現していくものと思います。

MNOが拒むことが難しい事業者間接続

 次に事業者間接続を見てみましょう。事業者間接続は電気通信事業法の第32条に規定があります。この事業者間接続は、本来、電話網のように電話会社各社のネットワークがつながっていないと困るようなケースを想定した制度です。例えばドコモの携帯電話からKDDIの携帯電話に電話をかければ当然つながりますが、これがつながらなかったら不便でしょう。これを制度的に担保しているのが電気通信事業法第32条で、他の電気通信事業者から電気通信設備の接続を請求された場合は、原則として応じなければならないことを規定しています。

 なぜこんな規定があるかといえば、日本の電気通信の歴史に理由が隠されています。日本の電気通信事業は、1985年に当時の電信電話公社が日本電信電話(NTT)に民営化され、その他の企業が参入できるようになりました(通信の自由化)。とはいえ、自由化当時の日本の電話は100%NTTが独占していたのですから、もしNTTが他の電話会社の電話網との接続を拒否すれば、誰もそんな不便な電話は利用したくないと思うでしょう。

 それでは新興の電話会社の市場参入は行えません。そのため、新興電話会社からの接続の要求をNTTが拒否できないよう、こういった原則が設けられたのです。現在ではNTTは当時ほどのガリバーではありませんが、依然として事業者間接続は拒否できないという原則(第32条)が残っています。

 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社(実際には沖縄セルラーを加えた4社)は、総務大臣の指定により、さらに細かい電気通信事業法第34条の適用も受けています。この第34条では、事業者間接続にあたって相手の事業者に請求する接続料金が原価+適正な利潤を超えてはならないこと、技術的条件や料金その他の事項を定めた接続約款を作って総務大臣に届け出ること、などが規定されています。各社の接続約款は、卸標準プラン同様、それぞれ各社のWebサイトで公開されています。

MVNOの深イイ話 接続約款は、各キャリアのWebサイトに公開されている

 歴史的経緯からも分かる通り、この事業者間接続の制度はもともとMVNOのために作られたものではありません。この事業者間接続がMNOとMVNOの間の契約として認められるようになったのは、MVNOの1社である日本通信が、NTTドコモとの間で行っていた接続協議が不調となり、2007年に電気通信事業者間の紛争処理を担う電気通信事業紛争処理委員会に持ち込まれた結果、裁定(※PDF)が下されたことがきっかけです。この裁定では、いくつかの点で日本通信(MVNO)側の要求が認められ、また同様の紛争を未然に防ぐよう、総務大臣に対しガイドラインに裁定内容を反映させるように求めたのです。この紛争処理をきっかけに、事業者間接続の制度がMVNOとMNOの間の契約方法として認められるようになりました。

 この事業者間接続の制度は、MVNOにとってはMNOが拒むことが難しいということがメリットといえるでしょう。また、接続料金が原価+適正な利潤という、極めてMVNOに有利な金額と規定されている点もMVNOの大きなメリットといえます。反面、事業者間接続には卸携帯電話役務のような柔軟性はなく、接続約款にある条件でしかMVNOのサービスを実現できないといった点でMVNOにとっては使いにくいものとなっています。

 ちなみに、IIJが提供している「IIJmio」のデータ通信は、卸標準プランの第2種契約によって実現しています。データ通信の事業者間接続と、ドコモの卸標準プランの第2種は、技術的には全く同じものです。そのため、弊社をはじめ第2種の卸標準プランを選択しているMVNOは、事業者間接続を選択しているMVNOと全く同等のデータ通信サービスを提供できます。

 音声通話サービスとSMSは、MVNO側が接続すべき設備を持っていないため、この事業者間接続の制度では実現することができず、現在のところ卸電気通信役務しか選択肢がありません。このような使いづらさから、現在では多くのMVNOが卸電気通信役務を選択するようになっています。事業者間接続の制度は、ことMVNOに関する限り、当初果たしていた役割を終えつつあるのかもしれませんね。

著者プロフィール

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佐々木 太志

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) ネットワーク本部 技術企画室 担当課長

2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。


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