連載
» 2009年03月05日 16時16分 UPDATE

矢野渉の「金属魂」Vol.1:初まりは“Z”から――ソニー「VAIO NOTE Z」

PC USERのカメラマンとして活躍している矢野渉氏が、被写体への愛を120%語り尽くす新連載「金属魂」がスタート。第1回はソニーの「VAIO PCG-Z1/P」だ。

[矢野渉(文と撮影),ITmedia]

そもそも、「金属魂」(きんぞくだましい)とは?

 僕は“金属的なもの”専門のフォトグラファーだ。ここ15年ぐらい、PC雑誌や技術者向け雑誌、Web媒体を撮影の場としてきた。被写体はPC、CPU、マザーボード、各種基板、各種チップなどの存在感のあるハード類である。それらは設計者によって何らかの意図をもってつくられたものだ。もともと金属の質感が好きなこともあり、僕はそれらを「金属」と総称することにした。

 「金属」の撮影は、やればやるほど奥が深い。薄暗いモデリングランプに照らされたスタジオで被写体と出会う。ライティングはまだ決めない。まずはひたすら被写体と対話していく。いや、その後ろにいる設計者の意図を、そのカタチから逆算していくような感じ、というほうが真実に近い。これがその製品の「金属魂」(きんぞくだましい)を感じるということなのだ。

 その製品が世に出た理由を理解できたら、後は楽なものだ。被写体の魅力が最も伝わるライティング、アングルで撮影をすればよい。最近は外観を見渡し、手触りを確かめ、スペックを斜め読みするだけで、おおよそのことはつかめるようになった。それは経験によるものである。僕はPCのみに関しても、漢字Talk 7やWindows 3.1のころから数万台を撮影しているし、マザーボードを含めた基板や部品類の撮影数はさらに多い。もう本能的に「理解」が可能な域には入っているのだ。例えばその分野の知識の無い人にはどれも同じに見える実装基板類も、僕はそれぞれの特徴を見抜くことができる。効率よく設計された基板の配線は1つの機能美なのである。外からは見えないものだが、これは究極のインダストリアル・デザインと呼べる作品なのだ。


 この連載では、毎回1つの「金属」をとりあげ、渾身の写真とともにその魂を語るものだ。PCに限らず、かなり広範囲の「金属」が登場することになると思うが、まずは“Z”から始めよう。この究極の“金属”を語ることで本連載の意図するところがより鮮明になるからだ。

ht_0902ki.jpg 2003年に発売された「VAIO PCG-Z1/P」

VAIO type Zではない、Zシリーズの話

 “Z”こと、ソニーの「VAIO NOTE Z」シリーズの発売期間は1年にも満たない。人々に強烈な印象を与えて、急いで消えていったPCだ。僕は「VAIO PCG-Z1/P」を販売終了直後の2004年にアウトレットで手に入れた。あこがれの機種だったから、かなりうれしかった覚えがある。

 Zの特徴は、何といってもそのボディデザインだ。キーボードの両側に張り出したフィンが緩いアールを描いて手前に続く。それに呼応するように、ボディは内蔵ドライブを巻き込んで徐々に薄くなっていく。このようなデザインはモックアップの段階ではよく見られるものだが、ボディの剛性などの問題でだいたいはポシャるものだ。しかしZのマグネシウムボディは、何事もなかったように高い剛性を実現している。そして、ボディ表面の仕上げもすばらしい。全身銀色で統一された筐体は梨地の特殊加工がなされ、指紋の1つも付かない。そして、「VAIO」マーク部分だけは水平線方向のヘアライン加工で区別されている。これなども、所有欲(金属欲)を満足させてくれる細かなデザインだ。

 おそらく、Zの設計者は「高級車」をつくりたかったのではないかと思う。CPUや機能などのスペックが最高レベルなのは当然として、その上でデザインの美しさを加味したのだ。さらにそれだけではない。液晶のヒンジ部分の動きが独特なのだ。このヒンジは14.1型の重い液晶パネルを、こともなげに保持する。どの角度で固定しても微動だにしない。ゆっくりと閉じてくると、パームレストまであと5センチのあたりで自らの力でバタリと閉まる。そしてフックなどなくとも閉じた状態をキープしてくれる。液晶の浮きも、1ミリたりともない。これは高級車のドアに通じる感触だ。Zは五感にさえ訴えてくるPCだったのである。

 不幸なことに、その作り込みの重厚さが寿命を縮めることになってしまったようだ。Zの側面の流麗なラインは、いかに工作精度を高めても製造ラインでの歩留まりが悪いものだったらしい。利益を取れない商品に待っているものはリストラだったのだ。

 しかし、Zの販売終了の話が出た時期に、ソニー社内でZ存続のための嘆願書が回ったという話を聞き、僕は救われた気分になった。復活の可能性がないわけではない。いつかまた、こんな素晴らしいコンセプトのノートPCが発売されたなら、僕は敬意をこめてもう一度写真を撮るだろう。そしてその日が来ることを、僕はPCG-Z1/Pを眺めながら、いつまでも待っているのだ。

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