ソニー初のUltrabookはなぜこうなった?――新生「VAIO T」を丸裸にする完全分解×開発秘話(1/6 ページ)

» 2012年09月26日 12時30分 公開

VAIO初のUltrabookを徹底解剖

Ultrabookとして復活を遂げた「VAIO T」。画面サイズが13.3型(左)と11.6型(右)の2ラインアップを用意する

 主要なPCメーカーが続々と自信作を投入し、群雄割拠の様相を呈してきた国内のUltrabook市場。その中でソニーが初めて発売したUltrabookは、まさかの「T」シリーズだった。

 Tシリーズといえば、「VAIO 10周年記念モデル」にもなった光学ドライブ内蔵モバイルノートPCの名機が思い浮かぶかもしれないが、今回のVAIO Tにかつての面影はない。光学ドライブを省き、コストパフォーマンスにも配慮したUltrabookとして、まったく違う製品に生まれ変わっているのだ。

 詳細なレビューは掲載済みだが、ここでは新生VAIO Tが製品化に至るまでの経緯や各部のこだわりについて、開発者の方々にインタビューを行った。特に内部構造は、開発者自身の手で実機(13.3型モデル)を分解してもらいながら、じっくり確認していく。

 話を伺ったのは、開発を取りまとめた梅津岳史氏(ソニー ネットワークプロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部 PC事業部 3部4課)、機構設計を担当した飛山了介氏(同課)、ソフトウェアを担当した竹中文明氏(VAIO&Mobile事業本部 PC事業部 3部5課)、商品企画担当の梶尾桂三氏(VAIO&Mobile事業本部 企画1部 Hardware 企画1課)の4人だ。

新生VAIO Tを開発した主要メンバー。左から梶尾桂三氏、竹中文明氏、梅津岳史氏、飛山了介氏

新生VAIO Tの開発で重視したポイントとは?

 新生VAIO Tの開発は、2011年7月末ごろにスタートした。同年6月にインテルがUltrabook構想を大々的に発表したことに伴い、VAIOとしてもその要件を満たす新しい薄型モバイルノートPCを提案すべきとの判断から、開発が始まることとなった。

 梅津氏は「インテルがUltrabookの名のもとに、薄型ノートPCへここまで注力してくるとは予想外だったが、長年モバイルノートPCに取り組んできた我々としては得意分野でもあるので、この機会により幅広いユーザーの方に満足して使っていただけるUltrabookを作りたいとの思いで開発を始めた」と当時を振り返る。

 2011年の段階ですでに第1世代Ultrabook(第2世代Coreベース)が多数販売されていたが、後発で中途半端な時期に製品を投入するより、CPUの世代が切り替わるタイミングまで待つのがベターと考え、開発は第2世代Ultarbook(第3世代Coreベース)での発売を目指して進められた。

開発は11.6型モデル(右)からスタートし、数週間後には13.3型モデル(左)も同時進行となった

 当初は日本で人気がある割に競合が少ない11.6型モデルから開発に着手し、数週間後にワールドワイドで利用者が多い13.3型モデルも展開することに決定。コストを抑えつつ、Tシリーズとして同時発売するため、外装や内部構造の多くは13.3型モデルと11.6型モデルで共通化している。

 VAIO Tの製品化において重視したポイントを聞くと、梶尾氏から「十分な拡張端子やHDDの搭載により、PCとしての使い勝手をきちんと確保すること」と、「VAIOノートのラインアップでは高いコストパフォーマンスを実現すること」との回答が返ってきた。

 同氏は「薄型軽量のUltrabookでも拡張性を妥協すると、使い勝手に悪影響が出てしまう。今回は十分な携帯性を確保しながら、Ultrabookでは省いたり変換アダプタを使ったりしている例も多い、HDMI出力やD-SubのアナログRGB出力、有線LANといった端子をすべて搭載した。同様に、ストレージをSSDに限定すると薄さで攻められる一方、記録容量とコストで不利になるので、HDDとキャッシュSSDの組み合わせと、SSDのみの構成を選択できるようにしている」と、スペック面でのこだわりを力説する。

VAIO Tの左側面(写真=左)と右側面(写真=右)。左側面にUSB 3.0(電源オフ時の充電対応)、USB 2.0、ACアダプタ接続用のDC入力、排気口を用意。右側面には、ヘッドフォン出力、SDXC対応SDメモリーカード/メモリースティックPRO デュオ用スロット、HDMI出力、アナログRGB出力、有線LANが並ぶ。厚みのない中でうまく内蔵できるよう、有線LANのコネクタはVAIO T用に新規で作ったという

あえて最薄や最軽量は狙わないという選択

 拡張端子やHDDの搭載を必須としたため、VAIO Tの本体サイズは11.6型モデルが297(幅)×214.5(奥行き)×17.8(高さ)ミリ、13.3型モデルが323(幅)×226(奥行き)×17.8(高さ)ミリと、国内大手PCメーカーのUltrabookでは厚みがある。重量についても、11.6型で約1.32〜約1.42キロ、13.3型で約1.5〜約1.6キロとなっており、同じ画面サイズのUltrabookでは比較的重い。

 実際、VAIO Tでは厚さや重さの明確なターゲットを設けず、厚さ18ミリ以下(14型未満の場合)というUltrabookの要件を満たしつつ、無理のない範囲で薄さと重さに配慮して設計が行われた。「薄型軽量はソニーのお家芸だが、そこを突き詰めるとコストが跳ね上がるので、今回は全体のバランスを考えたサイズにまとめた。先に開発を始めた11.6型モデルでは、同じ画面サイズだったVAIO Y(YA/YB)の1.46キロより軽くするという目標はあったが、具体的な数値の目標は設けなかった」と梅津氏は説明する。

 フットプリントのサイズに関しても、飛山氏によれば「13.3型モデルは液晶ディスプレイにデザインをかぶせた大きさ。11.6型モデルはバッテリー、基板、コネクタ類の最適な配置を検討した結果の大きさ」とのことで、徹底した小型化は行っていない。

天面から見た様子。フットプリントは、11.6型モデル(写真=右)のほうが13.3型モデル(写真=左)より一回り小さい
側面から見た様子。左が13.3型モデル、右が11.6型モデルだ。厚さはどちらも17.8ミリとなっている

 これまでVAIOで人気を博したモバイルノートPCといえば、コストをかけて突出した性能や携帯性、競合機種にはない付加価値を提案する製品が多かったため、VAIO Tの開発スタンスは少々意外ではある。

 しかし、今回はインテルがUltrabookを推進することで、従来よりレベルアップした性能と使い勝手を備えたモバイルノートPCが手ごろな価格で提供できる可能性が高まったことを受け、「VAIO Z」のようなハイエンド路線ではなく、「VAIO S」のようなオールインワン路線でもなく、ボリュームゾーンの価格帯でできるだけVAIOとしてのこだわりを入れ、ユーザー層の裾野を広げる方向にかじを切ってきた。

 梅津氏はエントリーモバイルノートPCの「VAIO Y」シリーズを手がけた経験があり、今回の開発を統括するのに適任だったというわけだ。

 こうして開発は進んでいったが、製品名が決まったのはかなり後のことだった。梶尾氏は命名の背景について、「VAIO Tは2009年に一旦終息したが、VAIOのモバイルといえば“T”とご評価いただいている方が多く、我々としてもその期待に応えたいと考えていた。一方で、モバイルノートPCは当時ほど特別な製品ではなく、安価で身近な存在になってきている。そこで、我々がかつてのVAIO TなどのモバイルノートPCで培ってきた技術を惜しみなく投入して、より幅広い層に提供できるモデルとして企画した」と振り返る。

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