2012年のタブレットを冷静に振り返る本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)

» 2012年12月30日 10時30分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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Windows 8タブレットにも期待大

 1年の振り返りではなく、将来予測の話になってしまったが、こうした背景あってこその、2012年のタブレット市場だった……と言えるのではないだろうか。

 前述したように、iPadファミリーがハードウェアだけでなく、アプリやコンテンツ、周辺機器などのエコシステム構築で前を進んでいるものの、“イノベーション”と呼べるような変化はここしばらく起こしていない。大きなイノベーションで新しい波に乗った後、その波を外さずにバランスよく、足固めをしている段階だ。

 対するGoogleは、まだ完成度が高いとは言えないものの、タブレットに対する理解を2011年に進め、それを受けた2012年にアイデアを徐々にサービス、端末の両面に実装し、ユーザーからの反応を見る段階に入っていたように思う。

 Googleは、本来は開発者向けの標準機である「Nexus」シリーズを、タブレットに関しては積極的にコンシューマーにも訴求した。各OEM先メーカーのビジネスと競合する面もあるが、スマートフォンの拡大版ではなく、タブレットなりのよさを引き出すための準備と言えるかもしれない。

 Googleがタブレット向けの基本ソフトとして、スマートフォンとは別の魅力をAndroidに組み込み、関連サービスの洗練度を上げることができたならば、どのメーカーといわず、あらゆるAndroidタブレットメーカーの販売台数が伸びるはずだ。

富士通の10.1型Windows 8タブレット「ARROWS Tab Wi-Fi QH55/J」。Atom Z2760を搭載することで、iPadより軽量でありながら防水のボディを実現している。搭載OSは32ビット版のWindows 8だ

 一方、Windowsタブレットに関しては、IntelのAtom Z2760(開発コード名:Clover Trail)を搭載したWindows 8タブレットが、採用した各メーカーとも優秀な製品に仕上がっているにもかかわらず、あまり盛り上がっていないことが気がかりだ。とはいえ、PCとしてもタブレットとしても使える、これらの製品評価は徐々に上がっていくと思う。

 Windows 8タブレットの問題は、一にも二にもWindowsストアアプリの充実度にある。全画面ユーザーインタフェースでタッチパネルに最適化されたアプリは、Windowsストアを通じて配布される。MicrosoftはWindowsストアでアプリを販売する際の手数料を低く(20%)設定したり、アプリ内課金についての規制を設けないなど、参入しやすい環境を整えてアプリ開発者に訴求しているが、独自のアプリ流通システムとして確立されるまでには、まだしばらくの時間が必要だと考えられる。

 Windows PCにおける10億台のインストールベースが、年間3億5000万台の買い換えサイクルに支えられ、タブレット対応への新陳代謝が進む日も遠くないと思うが、その効果が明確になるのは2014年になるのではないだろうか。とはいえ、あくまで個人的にはWindows 8タブレットへの期待が大きい。Intelプロセッサ+Windowsの組み合わせで、iPadを超えるほどの軽快さと同等のバッテリー性能を誰が予想しただろう。

日本人に合ったタブレットはどのサイズか

 ところで、タブレット市場が盛り上がっている……という前提で話を進めてきたが、実は日本のタブレット市場はまだ年間450万台規模とMM総研のリポートでは報告されている。全出荷台数に対する日本市場のシェアは4%にも満たない。その理由について、有力な説はまだ思いついていない(他からも聞こえては来ない)が、個人的には“日本人の生活スタイルに合ったタブレット”が、まだ存在していないからかもしれない、と思い始めている。

日本人には現在主流の10型より、ここ1年で選択肢が増えた7型のほうがフィットしているのではないだろうか(写真はNexus 7)

 タブレットの画面サイズは、利用スタイルをストレートに反映する。10型クラスと7型クラスでは、利用する場面や求めているアプリが微妙に異なる。日本人にとっては、小さくカバンへの収まりもよい、軽量な7型のほうがフィットしているのではないだろうか。

 さらに突き詰めると、実は日本人向けのタブレットは、5〜6型クラスのタブレット……すなわち、少し大きめのスマートフォンではないか? という仮説も、さほど乱暴な設定とは思えない。世界市場が年間1億7000〜2億台と見込まれている中で、日本でのタブレット販売が2012年の2倍以上に伸びると仮定しても1000万台の規模だ。

 7型クラスのミニタブレット市場がどう成長するかが、“日本にぴったりのタブレット”を探る試金石になるだろう。現状はまだ結果が出ているとは言いにくいが、「iPad mini」や「Nexus 7」の人気を考えれば、ここで一気に日本市場も花開き、市場調査会社の予想を超えた成長を遂げるかもしれない。

流通とタブレットを結びつけるKindle

10月には日本にも「Kindle」が上陸した。写真は7型タブレットの上位モデル「Kindle Fire HD」

 そうした2013年の話をテーマにしたコラムは、年明け早々に掲載することにしたいが、最後に編集部のリクエストもあって、Amazonの「Kindle Fire」や「Kindle Fire HD」についても触れておきたい。

 Kidle Fireシリーズは、Kindleという名称から電子書籍を中心としたコンテンツプレーヤー端末として、低価格なことも合わせて人気を呼んでいる。AndroidをベースにしながらGoogle Playに依存せず、独自に各種アプリを搭載。電子書籍だけでなく、音楽、映像、ゲームなどのコンテンツを楽しむことができ、もちろん基本的なインターネット端末の機能を持つのだから、お手軽端末として人気が出るのも無理はない。

 ただし、Kindleシリーズは電子書籍端末も含め、基本的に流通企業であるAmazonが、顧客に自分たちの販売する商品を届けるシステムの一部として作られており、基本的なコンセプトは汎用情報端末ではないことは、よくよく考えておいたほうがいいと思う。

 CDやDVD、Blu-ray Disc、書籍などを販売してきたAmazonが、コンテンツのデジタル化に伴い、コンテンツ流通最大手企業として何をやるべきかを考えたうえでの端末ということだ。システムのアップデートに関しても、例えば一般的なAndroidタブレットならば、Googleのクラウドアプリ群にフィットするようアップデートがなされ、iOSのアップデートとともにiTunes Storeも変化していく。これに対して、アマゾンのサービスと寄り添っているのがKindleシリーズということだ。

 このように流通とタブレットを結びつけ、安価なタブレット端末として販売する手法は、今後増えていくのかもしれない。

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