第2回 鍵を握るのはスマートフォン、「1強2弱」に変化も――中国の3Gサービス山根康宏の中国携帯最新事情

» 2011年06月16日 10時05分 公開
[山根康宏,ITmedia]

 3Gの本格的な導入から2年が経ち、中国の通信業界は大きな変革の時期を迎えている。3社が3方式で競う3Gサービスはまだ加入者数が少ないものの、これから急激に普及が進んでいくと予想されている。その鍵を握るのはスマートフォンの存在だ。

3G契約数は6000万、事業者再編で競争が激化

photo 各社は独自のブランド名を付けることで3Gサービスへの移行を促進している

 中国で3Gサービスが本格的に開始されたのは2009年からである。日本ではNTTドコモが2001年にFOMAサービスを開始しており、中国はそれから8年も遅れての3G導入となった。だがこれは国内に6社あった通信事業者の再編後に3G免許を発行するという中国政府の国策の結果であり、3Gの開始は2008年の再編終了まで待たねばならなかった。また中国が主体となって開発を進めたTD-SCDMA方式の技術的な完成度が高まるまで、3Gの免許交付を止めていたともいわれている。中国の3G政策は国内技術の発展という政治的な面も強く反映されているのである。

 3社に再編された各通信事業者はそれぞれが固定電話、ブロードバンド、携帯電話のサービスを複合的に提供している。携帯電話はまだまだ2Gの利用者が多く、3Gへの移行をうながすために各社は3Gサービスに独自のブランド名を付けている。各社の3G方式と名称、China Mobile(中国移動)のTD-SCDMAが「G3」、China Unicom(中国聯通)のW-CDMAが「沃(Wo)」、China Telecom(中国電信)のCDMA2000 EV-DOが「天翼(Surfing)」となる。なおChina MobileとChina Unicomの2Gは同じGSM方式であり、両社の3G端末は3G/2Gのデュアルモードに対応している。そのため、3G端末を購入しても2Gで利用する消費者も多い。例えばiPhoneを海外から輸入してChina Mobileで使う場合、W-CDMAでは利用できないためGSMでの利用となるわけだ。

 では開始から2年が過ぎた中国の3G利用者の数はどれくらいなのだろうか。各社の決算報告の数字をまとめると、中国の携帯電話の総契約数は2010年度末(2011年3月末)で世界最大の8億7562万人に達している。このうち3Gの契約数は約6200万で、3Gの普及率としては7%に留まっている。この数字は3G普及率がほぼ100%に達した日本など他の先進国と比べると見劣りしているが、日本でもFOMAの普及率が10%を超えたのはサービス開始から約3年後のこと。つまり普及のペースは日本も中国もほぼ同じであるといえるかもしれない。また、ここ1〜2年で増えた新規契約数のうち、約2億人は主に地方都市や農村部の利用者であり、これらの地域はまだ3Gインフラが整備されていない上に安価なサービスに人気がある。中国の3G普及はまだしばらくは大都市や中核都市を中心として広がっていくと考えられる。

photo 毎月の新規契約数の推移(2010年1月以降)

 さて、3つの通信事業者は各社同じ土俵で戦っていると思いきや、その実態は世界の通信事業者の中でも株式時価総額がトップのChina Mobileと、その後塵を拝するChina Unicom、China Telecomという「1強2弱」の構図となっている。2010年度末の携帯電話サービスの契約者数は、China Mobileが世界1位の6億84万であるのに対し、China Unicomが1億7453万、China Telecomが1億25万で、2社を足してもChina Mobileの半分にも達しない。そもそも中国政府が通信事業者の再編を行なった目的の1つは、このChina Mobileに一極集中する利用者と利益の是正であった。実際、事業者再編後は競争が均等化されたことによりChina Mobileの新規契約数は少しずつ数を減らしている。だが高いブランド力や品質、そして既存の利用者数の多さから、他2社がChina Mobileに契約数で追いつくことは難しいだろう。

勢いに乗るChina Telecom、TD-SCDMAが不調のChina Mobile

 ところが3Gサービス開始後は、この2年間で3社の勢力図に大きな変化が生じている。3G契約数でもChina Mobileの2700万がトップだが、China Unicomが1850万、China Telecomも1640万と2社合計の数ではChina Mobileを逆転している。特に各社の3G化率を見るとChina Mobileは圧倒的に2Gの利用者数が多く、契約者全体に対する3G率は4.5%、新規契約者も3分の2以上がいまだに2Gである。これに対してChina Unicom、China Telecomの2社は新規の約半分が3Gとなっており、3Gへの移行は順調に進んでいる。

photophoto 各社の携帯電話契約数(図=左)。各社の総契約数と3G契約数の割合(図=右)

 もちろんChina Mobileは6億という圧倒的な契約者数を有しており、2G契約数の増加も収益増には大きく寄与している。だが3G利用者はARPUが高く、高付加価値サービスをスマートフォン上で提供することにより、従来よりも高い収益が期待できる。また他社が魅力的な3G端末や3Gサービスの提供を始めているので、China Mobileもうかうかしていると高ARPU客を他社に奪われてしまうだろう。新規加入者数ではなく「3G利用者数」を増やすことが各社の最重要戦略になっているのである。

 3社の中で最も勢いに乗っているのがChina Telecomである。同社は事業者再編前は中国南部、すなわち上海や広東省など所得の高い沿岸部で固定系事業のみを提供していた。再編後は携帯電話サービスを開始し、固定と携帯の課金体系の融合や割引など、従来の中国の事業者にはなかった料金体系を導入して携帯電話新規契約数を急激に増やしている。また同社はCDMA2000方式を採用していることから、端末のグローバル調達がGSMやW-CDMA方式よりも不利である。そのため端末の一括購入など国内メーカーとの関係を強化し、今では国産品でもエントリーモデルからハイエンドまで多数の製品がそろうようになった。

 一方、契約数最大のChina Mobileの3Gサービスは苦戦が続いている。同社が採用するTD-SCDMA方式は、2008年に商用テストサービスが開始されたものの、カバーエリアの狭さや少ない端末数、そして新規に電話番号を取得しなくてはならないことなどから消費者の興味を引くことは難しかった。特に3G開始直後に投入された国産のTD-SCDMA端末は海外大手メーカーのGSM端末にも見劣りする品質の製品で、ネットワークの不調と相まって常用するには難しい製品も多くあったほどだ。

photo China Mobileの低価格3G端末。今後はスマートフォンの拡充が必須である

 China Mobileはその後、ここ3年間でエリアを大きく拡大し、2Gからの番号不変、SIMカードもそのままで3Gへの移行を可能にした。そしてラインアップが見劣りしていた端末は国内外の大手メーカーと協業することで種類を増やし、その結果、ようやくこの半年で3G利用者の数が増え始めている。だが端末はまだまだ単機能な製品やフィーチャーフォンが中心であり、高ARUPが期待できるスマートフォンのラインアップが弱い。Androidベースの「OPhone」の開発にも力を入れているものの、スマートフォンを求める顧客はW-CDMA/GSMに対応した海外メーカーの端末を2Gサービスで利用しているケースが多い。前述したように海外から輸入されたSIMロックフリーのiPhoneも多く利用されている。

iPhoneだけでは契約者が増えないChina Unicom

 China Unicomは中国でiPhoneを販売する唯一の事業者である。そしてW-CDMA方式を採用していることから海外メーカーの最新モデルもいち早く投入できる点が大きな強みになっている。だが新規契約数の推移からは、それらの利点が生かされているとはいいにくい。

 2008年の業界再編以前は中国の携帯電話事業者は2社のみであり、China MobileがGSM方式、China UnicomはGSMとCDMA方式のサービスを提供していた。再編によりChina UnicomはCDMA事業をChina Telecomに売却し、代わりに中国北部で固定事業を提供していた中国網通と合併して新・China Unicomとして再出発を図った。だが旧・China UnicomはCDMA事業に設備投資を注力していたことから、皮肉なことにも再編後はChina TelecomのCDMAのほうがChina UnicomのGSMよりも使いやすいという状況になってしまったのだ。

photo 中国でも大人気のiPhoneだが、China Unicomの新規契約数は伸び悩んでいる

 China Unicomの携帯電話総加入者数はChina Mobileに次いで2位ではあるが、再編後は毎月の新規契約数で3位のChina Telecomに逆転されてしまっている。2010年1月から2011年3月までの新規契約数の合計はChina Unicomが約3000万であるのに対し、China Telecomは約4400万とその差は約1.5倍に広がっている。China Unicomは3G免許取得後、W-CDMAとGSMの基地局設置を急速に広げているものの、利用できる3G端末はまだまだ海外メーカー品の割合が高い。日本や海外では同社の動きといえばiPhone販売に関する報道が目立つが、iPhoneだけではライバル2社との契約数の差は埋めきれていないのが実情なのだ。

 China MobileとChina Telecomは、国内メーカーと協業して価格の安い3G端末を矢継ぎ早に投入し3G契約者を増やしている。両者が特に力を入れているのは1000人民元(約1万2500円)台のスマートフォンで、プリペイドの安価な契約ながらも端末を実質無償で提供しているケースもある。China Unicomもその動きに同調する必要に迫られており、2011年には独自開発したスマートフォンプラットフォーム「WoPhone」を発表、国内外6社から低価格な製品が登場する予定だ。

 このように中国では3Gの本格的な普及を前に、低価格スマートフォンがこれから相次いで投入される動きが加速化しようとしている。その結果、これから数年でスマートフォンの利用者数も飛躍的に伸びていくだろう。そしてそれに合わせて国内のWebサービスやSNSの利用も活発化し、また電子書籍配信やモバイルショッピングなど高付加価値なサービスの利用も普及していくと予想される。今はまだ利用者の少ない中国の3G市場だが、今後数年で利用者の数やサービス内容は先進国に追いつき、そして追い越していく可能性を秘めているのである。

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