ITは震災復興支援に役立ったのか?震災復興支援サービス大賞

「震災復興支援サービス大賞」が決まった。ITによる震災の復興支援、いったい何が問題で何が成功だったのだろうか。

» 2012年03月09日 19時00分 公開
[まつもとあつし,Business Media 誠]
AMNの徳力基彦社長。「震災復興支援に関わる取り組みを表彰することには違和感もあるかもしれないが、より多くの方々に知ってもらい今後に活かしていくため」

 東日本大震災は、ITがどのように復興支援に役立つのか試された場でもあった。

 Web上の口コミマーケティングを手がけるアジャイルメディア・ネットワーク(AMN)は、経済産業省からの委託事業「復旧・復興支援サイト/アプリ等調査事業」で調査を行ったサイトやサービスの中から、ユーザーの投票を基に「震災復興支援サービス大賞」を選定し、表彰を行った。


支援活動はこの1年でどう変化したか?

ボランティアインフォの北村代表

 東北地方でのボランティア参加者はのべ93万人を超える。この1年で支援活動がどのように変化したのか。支援を求める情報のデータベース化とAPI公開を推進したボランティアインフォ(現在NPO法人申請中)の北村孝之代表は、支援フェーズがこの1年で大きく4つの段階に変化してきたと振り返る。

 4つの段階とはすなわち「緊急」「復旧」「生活」「自立」だ。こうした変化の中、ITがそこで果たす役割も変わっていく。特に、生活支援(被災者の心身のケア、地域コミュニティの再生支援)、自立支援(被災者による事業活動における組織運営や広報などの支援)は現在も進行中であり、引き続き大きなニーズがあることには注意が必要だと北村氏は話す。そこでは個人や企業、団体のスキル/得意分野を活かしたボランティア=プロボノの活躍が求められている。

 ボランティアインフォでも、震災後仙台駅に案内所(ボランティアステーションin仙台・宮城)を設置し、ボランティアに訪れた人と、支援を求める避難所をマッチングさせるといった活動も行った。さらに今回、プロボノを支援するようなマッチングサイト「skillstock」を新たに立ち上げた。

skillstock。「パソコンの使い方サポート」「買い物や読み聞かせの手伝い」といった支援内容をFacebookアプリを通じて登録し、それを求める人とのマッチングを行う仕組みだ

 また、来る3月11日には東北大学にボランティア43団体が集い、次の復興アクションにつなげるためのイベントを開催する。「Twitterのハッシュタグ『#mirai311』で東北の未来につながるアクションを投稿してほしい」(北村氏)

ITができたこと、できなかったこと

國領二郎氏(慶應義塾大学総合政策学部長)。「被災した自治体に話を聞きに行っているが、情報集約ができなかったという声をよく聞く。寸断された情報やニーズの集約が課題」
村上憲郎氏(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主幹研究員/教授)。「日立製作所に勤務していたとき、福島原発の振動試験を行った。Googleではスマートグリッドを推進。キャリアの頭とお尻が電力問題だった」

 AMN徳力氏や北村氏に加え、國領二郎氏(慶應義塾大学総合政策学部長)、村上憲郎氏(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主幹研究員/教授)、小寺信良氏(一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事)、佐藤和文氏(河北新報社メディア局長)らによるパネルディスカッションも行われた。

 今回の震災を通じて「ITができなかったこと」はなにか。河北新報の佐藤氏は「情報の行司役が必要だった」と当時を振り返る。村上氏によると「現地に居る人や行った人は情緒的に語り、被災地の外に居る人は論理的な議論に熱心だった」という。

 國領氏は「情報の集約・集積が必要」と指摘とした上で「デマはもちろん情報の品質は重要だが、古い情報などコンテキストからはずれた情報が流通し続けるのも問題」と話す。「情報発信がうまいところと、そうでないところで大きな差があった」というのは北村氏だ。「情報発信が上手だとそこに支援が集中し、さばくだけで疲弊するという例もあった」

 NTT出身でもある徳力氏は「通信網が寸断される中、かろうじて機能している個所もあったが、果たして活かされていたかどうか?」と問題提起。「インターネットの普及によって、誰でも情報発信が可能になったが、それらをうまくマッチングさせる機能がないとダメだということを痛感した」

 MIAUの小寺氏は「被災地では通信よりも携帯電話の通話に依存していたが、VOIP装置の設置には免許が必要。緊急時にはボランティアがそれを行えるような柔軟な対応が必要では?」と指摘した。

情報ボランティア、クラウド、緩いつながり

小寺信良氏(一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事)。「交通情報と避難所情報がマッシュアップされることで、孤立した避難所を割り出すことができる。情報を出せていないところをいかに救うかが重要」
佐藤和文氏(河北新報社メディア局長)。「ニュースをどう届けるかが課題。大がかりな配信システムよりもソーシャルメディアが役立った。緊急時に避難所に新聞を届ける備えが必要」

 このように課題が表面化したITの活用だが、可能性も秘めている。

 「マスメディア型とは異なる、ソーシャルメディア型の情報発信の可能性を感じた」というのは佐藤氏だ。「記者一人一人が自転車で現地に入り、状況に関わりながら情報発信を行う。もちろんそこではそれを支える組織の力が大前提となるが、協業によって協力して場面も増えた。“ハイパーローカル”という言葉が象徴するような、新しいジャーナリズムの形が見えてきたと思う。情報ボランティアもその一例だろう」

 クラウドの重要性を指摘したのは村上氏。「団塊世代を募って、サーバを運んで現地入りした。(Google在籍時に)もっと推進していればという後悔も正直あるが、クラウドの重要性は否応なく示された。従前の備えが重要」と振り返る。

 國領氏は「海外メディアの危険情報に留学生がパニックに陥ったが、わたし自身も英語で情報発信を続けることで、彼らが落ち着いていく様子を確認できた。ネットを活用して面的に情報共有することが大切」と指摘。北村氏は「緩いつながりが重要。ボランティアインフォを支えるメンバーはFacebookでつながり続けており、情報共有やスキルマッチングが継続的に行えることにメリットを感じている」という。

最優秀賞はパーソンファインダー

「震災復興支援サービス大賞」授賞者(提供:アジャイルメディア・ネットワーク
受賞サービス
最優秀賞 Google Person Finder(消息情報)
優秀賞 助けあいジャパン
英国大使館
ボランティアプラットフォーム
Yahoo!復興支援
がんばろう、にっぽん-PLAY&SMILE FOR JAPAN
MIAU賞 思い出サルベージアルバム・オンライン
GLOCOM賞 自動車・通行実績情報マップ(Google)

 この内、最優秀賞とGLOCOM賞を受賞したGoogleの災害対応サービスは、この授賞式の前日に行われた発表会の模様をお伝えしている。また、MIAU賞を受賞した思い出サルベージアルバム・オンラインは現地の作業をリポートした。

 今回の授賞式では、GoogleやYahoo!のような大規模な支援活動のほかに、英語による正確な情報の発信に努めた英国大使館、助けあいジャパンやボランティアプラットフォームといったマッチングサービス、「がんばろう、にっぽん-PLAY&SMILE FOR JAPAN」のような、写真による励ましをテーマにしたサイトなど、さまざまな角度での取り組みを評価した。

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