震災でわかったネットのポジション小寺信良「ケータイの力学」

» 2011年03月29日 17時50分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 今回の東北・関東を巻き込んだ東北関東大震災では、ネットの役割というのものが試されたと言っていい。従来地震と言えばNHKをまずつけるというのが習慣となっている人も少なくないが、多くの人はテレビよりもネットへ群がった。

 津波の被害に遭わなかった場所でも、地震でテレビが倒れ、壊れたというところも多いだろう。テレビの薄型化により、以前のブラウン管型よりも前後に倒れやすくなっているのだ。さらに電気が途絶えてしまっては、もう役に立たない。まだバッテリーで動くケータイを使って、一刻も早く情報を取りたいという動きに直結する。

 2004年に起こった新潟県中越地震の際には、携帯電話が一斉に不通となり、多くの人が公衆電話に列を作った。当時はまだ、すべての人がケータイを使ってネットから情報を取るという時代ではなかったため、多くの人は通話やメールで家族と連絡を取りたがった。

 そして2011年現在、公衆電話はほとんど街角から姿を消している。だが幸いなことに昨今のケータイは、スマートフォンでなくても無線LANに接続できるものが多くなっている。携帯電話網とWi-Fiによるインターネット接続、さらにグローバルな情報を取るにはワンセグ受信と、どれかが生きていれば情報を得ることができる。震災直後、多くの人たちはケータイを片手に家を飛び出したし、最悪から一歩手前の人たちは、ケータイ充電器に列を作った。

 災害報道においては、テレビの取材網が一番早く機能復帰する。今回の震災では、Ustreamやニコニコ生放送で、自主的にテレビ報道をネットに流す人たちが現われた。NHK広報が非公式にではあるが、Twitterでこれらの再送信を容認、その日のうちに公式に許諾した。民放もそれに続き、複数の放送がネットで確認できるようになった。またテレビからの情報をTwitterなどのソーシャルネットワークに書き起こすことで、テレビ発の情報がネットに流れ出した。

 首都圏では最初の地震の後に交通網が麻痺し、多くの人がどこにも行けない状況で路上に放り出された。そんな状況でも、電話網やWi-Fi網が生きていれば、テレビ発による情報が得られるメリットは大きかった。大震災という抗いがたい事件をきっかけに、放送と通信の融合した姿が、なし崩し的に実現した瞬間であった。

しかしテレビはやがて飽きる

 福島第一原子力発電所の冷却や放射性物質拡散もまだ予断を許さない状況であるため、テレビはいまだ興味を持って震災の情報を伝えている。しかしやがて、これらの報道は引き上げてしまう。中越地震の時は、仮設住宅ができて多くの人がそこに引っ越しを始めたぐらいのタイミングで、「飽きた」のだ。

 これ以上人の生き死にがあるわけでもなく、絵柄が地味ということもあるだろう。これはテレビ局が飽きたというよりも、国民が飽きるのだ。「もういいよわかったわかった、あとはがんばれ」というわけで、視聴率が下がってくる。テレビとはそういう宿命のものである。

 しかしテレビから情報が消えたからといって、被災者が居なくなったわけではない。見えなくなっただけだ。被災者がその後に必要となる情報は、これまでとは質が変わってくる。国レベルの全体像ではなく、例えば水道はどこまで復旧したか、道路状況はどうか、自衛隊の拠点でお風呂に入れるのは何曜日か、子供の精神的なケアをどうすべきか、そういう日々の細かい情報が必要になる。

 また家の修理で法外な費用を請求されたり、保険金を狙う詐欺も発生することだろう。これらのことにも事細かに注意を喚起し、被害の拡大を食い止めなければならない。そのような情報投下は自治体がとりまとめて行なうことになるが、それらの伝達を5年10年単位で続けるのは、テレビにはムリである。

 テレビは、ただつけてさえいれば次々と情報が降ってくる。しかし細かい情報になればなるほど、自分にとって必要な情報に巡り会う確率が低く、時間効率が悪くなるという特性を持っている。したがって細かい情報は、強制的にプッシュされるか、必要なときに自分で取りに行けるネットツールのほうが確実である。

 問題は、それらのことをやるのに、テレビをつけてチャンネルを選ぶように簡単にはいかないという点だ。お年寄りがPCや小さなケータイをいじってそれらの情報にアクセスしている姿など、まず想像できない。それよりある程度設定済みのiPadやAndroidのタブレット端末のほうが、役に立つのではないか。汎用機としてではなく、専用機として機能を限定すれば、すぐに使い方はマスターできるだろう。

 ネットの役割とは、テレビのように1つの形やあり方にこだわらない、柔軟性のある情報提供である。そしてその情報の発信源・伝達ルートにみんながなれ、その情報の精査もみんなでやれるというところに、大きな意義がある。もちろんそこに、意図的な悪意が混入しないという前提での話だ。これをどのように担保していくのか。ネット社会の責任が問われている。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。


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