孫社長の発言が弱気だった理由は?――決算会見から見えたソフトバンクの課題石野純也のMobile Eye(2月2日〜13日)(1/2 ページ)

» 2015年02月13日 23時43分 公開
[石野純也,ITmedia]

 2月10日に、ソフトバンクは2015年3月期 第3四半期の決算説明会を開催した。同社の決算会見は、「過去最高」や「1位」といった威勢のいい言葉飛び交うのが当たり前の姿になっているが、今回は一転。代表取締役社長兼CEOの孫正義氏が自ら「今日の僕のキーワードは謙虚」と語るほど、控えめな発言が目立った。

 一方で、業績そのものは好調だった。第1四半期から第3四半期までの売上高は、前期比41%の6.4兆円。営業利益は16%減の7880億円だったが、前年同期にはガンホーやウィルコムを子会社化した際の一時益が計上されているため、こちらも“実質増益”だ。にも関わらず、孫氏の発言が弱気だったのにはいくつかの理由がある。

業績の足を引っ張る米国事業、日本への影響も

 好調なグループの業績に水を差したのが、米国事業だ。Sprintの不調が目立ち、株価は低迷。信用格付けも引き下げられた。こうした理由で、Sprintは約21.3億ドル(約2568億円)の大幅な減損損失を計上している。米国会計基準を採用するSprintと、国際会計基準を採用するソフトバンクでは基準に違いがあり、ソフトバンクの連結業績には反映されなかったが、孫氏は「会計基準がなんであれ、本質的には今回減損すべきである。減損したつもりで経営をすべきであると、厳粛に受け止めている」と語り、神妙な面持ちを崩さなかった。

photo ソフトバンクの代表取締役兼CEO、孫正義氏。当日は風邪を引いてしまったこともあり、やや元気がなかった
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photo グループ連結での業績は好調だが、Sprintが足を引っ張っている。会計基準の違いでグループの業績には組み入れなかったが、日本円で2568億円もの減損を計上した
photo 米T-Mobileを買収しようともくろんでいたが、失敗に終わっている

 Sprintについては、「(T-Mobile)と合併させるというのが、一番大きな柱にあった。その思惑が違ってきているのが実態」だ。米国第3位のSprintだが、1位のVerizonや2位のAT&Tには大きな差をつけられている。そこで4位のT-Mobileを合併して、規模を拡大したうえで「大きな利益を上げている」上位2社に立ち向かうというのが孫氏のもくろみだった。T-Mobileはネットワークも世界標準のW-CDMAで、国内事業とのシナジー効果も見込みやすい。ところが、米国の規制当局によって、買収は認可されなかった。4社を残しておいた方が、競争環境にとってはプラスになるという判断だろう。結果として、Sprintは単独で事業再建をしなければならなくなった。

 こうした戦略の変更に伴い、SprintはCEOを交代。同じソフトバンク傘下のブライトスターを立ち上げたマルセロ・クラウレ氏を起用し、経営体制を刷新した。特に米国では“貧弱”と称されることの多いネットワークの改善が急務の課題で、日本からはソフトバンクCTOの宮川潤氏らが送り込まれている。孫氏が「一歩一歩固めているところ」と語るように、その成果も少しずつではあるが表れ始めている。決算会見では、通話が突然切断されてしまう率を表す「ドロップコールレート」を紹介。まだ上位2社には及ばないものの、2014年に入って、急激に改善している様子を紹介した。

photophoto CEO交代以降、純増数が上向ているのは明るい兆し

 米国事業の苦戦は、日本のユーザーにも影響を与える。1つは、シリコンバレー拠点の縮小だ。同拠点は、「そこでいろいろな端末やアクセサリーを積極的に調達、開発していこうと思っていた」場所で、日本への波及効果も期待されていた。

 また、Sprintとソフトバンクの共同調達についても、以前よりも慎重になっている。その理由を孫氏は次のように話す。

 「いろいろな端末の検討を行っているが、実態はiPhoneがダントツで大きな存在。米国においては、次がサムスンさんで、あとは非常にバラけている。それに対して、日本の市場でサムスンさんの機種を扱うべきかどうかは別の問題。日本市場には日本のユーザーに適した機種や機能があり、シャープさんやソニーさんの端末を別途判断してソフトバンクに入れているのが実態」

 iPhoneを除くと、北米と日本では売れ筋が異なるため、共同調達の意味が薄い。過去には北米で販売されているさまざまなAndroidをソフトバンクで発売するという戦略も語っていたが、市場の実態に即していなかったというわけだ。孫氏は「1つ1つのテーマごとにしっかり検証しながらやっていく」と述べており、戦略的な共同開発モデルは続けていく方針だが、以前に比べ、広げたふろしきが小さくなった感は否めない。

photophoto ソニーのXperiaや、シャープのAQUOSは、主に日本の市場に向けてのものだという

 「Sprintでは苦労しており、国内は安定期に入っている」と言うように、現状だと業績を支えているのは国内事業だ。逆の見方をすると、Sprintが業績の足を引っ張っているともいえる。売却については否定的な見方を示したが、すぐに好転するのも期待はできない。また、孫氏は「ドラスティックな転換点じゃないときに無理してニュースを作るのはどうか。今は主要な技術のドラスティックな転換点ではない時期に差し掛かり始めている」と言うが、国内は国内で依然として競争は激しい。Sprintに注力しすぎて国内がおろそかになれば、足元をすくわれかねない。決算での資料や受け答えを見ていくと、その兆候も垣間見える。

純増数も大幅減、国内事業にも本腰を入れる必要あり

 1つが、ARPUの下落傾向に歯止めがかかっていないこと。ソフトバンクモバイルの第3四半期のARPU(ユーザー1人あたりからの平均収入)は4250円で、第1四半期、第2四半期と続けて低下している。ARPUの下落傾向に関してはドコモも同じだが、KDDIは前年比でプラスに転じて第3四半期では4250円になっており、それと比べるとやや見劣りする。

photophoto ソフトバンクのARPUは、前年から下降傾向が続いている。会見中の資料でも、ARPUは示されなかった。これに対してKDDIは、四半期ごとの凸凹はあるものの、おおむね下げ止まっている

 勢いを示す指標の1つとして、純増数が落ち込んでいる点も気になるところだ。ソフトバンクモバイルの第3四半期の純増数は、35万4800。ドコモの97万9100、KDDIの78万2100と比べても、数字は小さく3位だ(TCAの事業者別契約数を参照)。ワイモバイルに関しては、ほぼ横ばいながら、第3四半期で1000契約ほど純減していることも分かる。4月にはソフトバンクモバイルとワイモバイルが合併し、業界2位になる見込みだが、このままの純増数が続けばKDDIとの差は埋まる一方だ。

photo 純増数では、ほか2社に大きく引き離されている

 業界2位になることについて、孫氏は「我々が謙虚に受け止めなければならないのは、ワイモバイルの場合はスマホの台数の累積はそんなに多くない。PHSの端末のユーザー数がたくさんいる。回線数ということでは2位になるが、スマホの累積ユーザー数や携帯電話としての台数という意味では、依然として第3位」と語っているが、こうしたデータからもワイモバイルがいまだ低調であることがうかがえる。国内では、ソフトバンクモバイル以上に力を入れて運営していく必要がありそうだ。

 もちろん、純増数はあくまで勢いを測る指標の1つでしかない。孫氏が語るように、「純増の数だけを追おうと思えば、MVNOでほとんど利益が出ないのに卸売る、M2Mで逆ザヤで出していくと、やりようはある」のも事実だ。実際、ドコモの純増数は、今だと4割以上がMVNOによるものといわれている。一方で、MVNOの相互接続は、MNOに拒否権はなく、孫氏の言うような“純増数稼ぎ”ではない。MNOに相互接続を拒否する権限はなく、制度的にも適正な利潤が出る仕組みになっているため、MNOにとってはプラスだ。MNOがすくい切れないユーザーをカバーできるのも、メリットといえるだろう。

 また、35万4800という数字は、仮にソフトバンクを新規契約した人全員にもう1台無料の回線を無理やりつけて倍にしても、2位のKDDIにすら及ばない。指標としての意味は失いつつあるとはいえ、それはあくまでわずかな差に一喜一憂する必要はないということ。四半期ベースでこれだけ純増数が他社より低いのは、競争力が落ちていると思わざるをえない。Sprintはもちろんだが、国内事業もまだ盤石とはいえないのだ。むしろ、他社の攻勢に押されつつある状況が見て取れる。

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