以上、これまでの連載を振り返ってQNAP製品の持つ特徴を改めて見てきたが、TurboNASシリーズは「自分が必要とするスペック、予算に応じて豊富な機種から最適なモデルを選べる」というのも大きな魅力の1つだ。ハードウェア上の制約はあるものの、基本的には全機種を通してほぼ同じ機能を搭載し、新ファームウェアを採用した新機種が登場すれば、ほぼ同じタイミングで旧機種に対してもファームウェアのバージョンアップが行われる(もっとも、ファームウェアの更新にはある程度の危険が伴うので、リリースノートを読んでからファームウェアの更新が必要かどうかを判断したほうがいい)。
ちなみに、TurboNASシリーズの型番は、TSが3.5インチ(2.5インチ共用含む)用、SSが2.5インチ用を示し、続く数値の最初の1桁がベイ数、残り2桁が相対的な性能を表している。つまり、4ベイのTS-410よりも2ベイのTS-259Proのほうが高いパフォーマンスを発揮するということだ。それではTurboNASシリーズの現行ラインアップを、価格帯・性能別に3つのカテゴリに分けて紹介していこう。
NASを導入する際に、何よりもまずコストを重視するなら、2ベイ以下のエントリーモデルがおすすめだ。例えば、第3回で紹介した「TS-110」は実売2万円を切る価格ながら、ほかのモデルと遜色のない機能を持つ。また、TS-110と同様に、1ベイながら大幅なパフォーマンス向上を図ったのが「TS-119」だ。CPUにMarvell 6281(1.2GHz)を採用し、512Mバイトのメモリを搭載している。そのうえ、シリーズで唯一、ファンレス設計となっているのも特筆すべき点だ。
導入コストだけでなく、ある程度の容量も確保したいなら、TS-110を2ベイ対応に拡張した「TS-210」がある。1万円の追加投資でRAID 0/1をサポートするのも魅力だ。ただし、このモデルはホットスワップには対応していないので、RAID構成を重視するなら、同じく2ベイでホットスワップに対応した「TS-219」や「TS-219P」が適している。特にTS-219Pは、上位機種のデザインのまま2ベイにしたような設計で、3.5インチ/2.5インチ両サイズ対応という特徴を持ち、設置面積も小さいのがポイントだ。そしてさらに、RAID 5を構築できる4ベイモデルにも廉価版が存在する。「TS-410」「TS-419P」はそれぞれ「TS-210」「TS-219P」の4ベイ版という位置付けになる。
Atomの登場によって激変したのはNetbookに代表されるノートPC分野だけではない。安価で高パフォーマンスなx86互換プロセッサが登場したことは、TurboNASのラインアップにも大きな変化をもたらした。
Atom D410(1.66GHz)を搭載した「TS-239 ProII」は、2ベイモデルながら公称でリード100Mバイト/秒を超える高いパフォーマンスを誇る。さらに「TS-259Pro」ではAtom D510(1.66GHz)を搭載し、デュアルコアによるさらなるパフォーマンスアップが図られている。
現時点での最上位モデルは8ベイを備え、Core 2 Duo 2.8GHzを搭載する「TS-809Pro」と「TS-809U-RP」だ。型番の上では「TS-859Pro」があるが、このモデルに限っては数値と性能が逆転しているので注意してほしい。TS-859Proのスループットピークが20ユーザであるのに対し、TS-809Proは28ユーザにまで達しており、圧倒的なパフォーマンスをたたき出している。
また、ラックマウントモデルには、TS-809U-RP以外にも「TS-410U」「TS-419U」「TS-439U-SP(RP)」「TS-459U-SP(RP)」がある。型番末尾のSPは単一電源、RPは冗長電源を意味しており、よりシビアなサービスレベルに耐えうる業務用仕様となっている。
最後にTurboNASシリーズのラインアップから自分にぴったりのモデルを選ぶ1つの指針を紹介しておこう。
まずはNASの導入にあたって、物理的な制限がないかを確認する。設置予定場所によってはフットプリント、筐体の高さなどで選択できないモデルがあるかもしれない。TS-809Proは8ベイでありながらフットプリントは270(幅)×200(奥行き)ミリと、TS-459Proなどの4ベイモデルを一回り大きくした程度だが、一方で高さは30センチ近くある。また、2.5インチHDD専用のSS-439Proは、3.5インチ2ベイのTS-329ProIIと同じサイズながら4ベイを搭載する。
次にベイ数を決めるため、利用したいRAID構成と容量を確定する。1ベイモデルはRAID構成は不可(ただしQ-RAIDは可能)、2ベイであればRAID 0/1、4ベイならRAID0/1/5/6をサポートする。また、現在最もコストパフォーマンスの高い1.5Tバイトドライブでの構成を考えると、構築可能なシングルボリュームは4ベイ構成でも3テラバイト〜6テラバイトの幅がある。個人的な意見ではあるが、6ドライブ以上で構築するのであればRAID 5では少し不安が残る。その一方で、4ドライブでのRAID 6はちょっと過剰な印象がある。もちろん、バックアップの運用次第ではRAID 0でも実用上問題ない場合もある。このあたりについては、どの程度の冗長性を持たせるかによって決めていけばいい。
そのうえで予算内に収まるモデルを検討する。むやみにベイ数を増やすと搭載するHDDのコストにも跳ね返ってくるので、無理して“大は小を兼ねる”よりも、トータルコストを考えて用途に適したモデルを選ぶほうがいいだろう。もちろん、すべてのベイを使う必要はないが、ベイに余裕がある状態で使用していると「もう1つ下のモデルでもよかったかな」という迷いが生じてしまうかもしれない。ただ、「新規購入したHDDでRAID 1、残りのベイは当面余ったディスクを入れてJBODで使用する」という、将来的な拡張も踏まえた運用方法もある。
HDDのバイト単価はますます下落している。だが、HDD自身が大容量化してもファイル1つの容量も大きくなってきている現状では、本来1つのフォルダで管理すべきファイルが複数のドライブに分けざるを得ない場合もある。それを解決するのは大容量の単一ボリュームを実現するRAID、そしてそれをネットワークで共有することができるNASだ。さらに「何も考えずにぽいぽい放り込むことができるストレージ」によって個々のPCはスリム化を図ることができる。
家庭内でのネットワーク利用が高度化されるに従って、NASのニーズも高まってきている。その選択肢として、豊富なラインアップを誇るQNAPのTurboNASは、最有力候補といえるだろう。
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