令和元年で印象に残ったITニュース“7選” AIからネットいじめ問題まで【2019年振り返り】ITはみ出しコラム

» 2019年12月29日 06時00分 公開
[佐藤由紀子ITmedia]

 今年最後の「ITはみ出しコラム」は、2019年の海外ITニュース全般の振り返りとして、印象に残った7つの出来事をまとめてみました。

Libraは実現する?

 今年発表された新サービスの中で最も物議を醸したのは、Facebookのデジタル通貨「Libra」だと思います。

 世界では貧しいなどの理由で銀行口座を作れず、基本的な金融サービスを利用できない人が少なくありません。そんな銀行口座を持たない人でも手軽にお金をやりとりできる、というのがLibraの主なメリット。確かに、外国に出稼ぎに行ったお父さんが高い手数料を払わずに国の子どもたちに送金できるのならいい話です。

Libra Libraが掲げるミッション

 でも、これまで繰り返し「プライバシーを何だと思ってるんでしょう」という問題起こしてきたFacebookに通貨を任せられますか、と米連邦議会などが待ったをかけました

 これに対してFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOは10月、「準備は進めるけど、規制当局からOKをもらうまでは開始しない」と約束しました。なので、発表は今年でしたが、いつ実現するかはまだ不明です。

Mark Elliot Zuckerberg 米下院住宅金融委員会の公聴会で質問に答えるFacebookのマーク・ザッカーバーグCEO。「規制当局が承認するまでLibraは立ち上げない」と約束しました

赤字上場が流行?

 いわゆる「ユニコーン」と呼ばれる米IT企業が立て続けに上場した年でもありました(ユニコーンというのは、創業10年以内で評価額が10億ドル以上なのに上場していないテクノロジー系新興企業のこと)。PinterestLyft、(米国の会社じゃないけど)SpotifySlackUberなどの企業です。

 上記の企業は全て赤字のままの上場でした。「今は赤字だけど絶対成長できるはず、だから今お金が欲しい」という企業が上場しています。

Uber 45ドルで公開したUberの初日終値は7.6%安でした

 ソフトバンクが出資するWeWork(その後Weに改名)も赤字のまま上場するはずでしたが、あまりにもガタガタなことがSEC提出文書などで明らかになり、CEOは辞任上場は撤回となりました

 ソフトバンク・ビジョン・ファンド始まって以来の大きな痛手でしたが、ソフトバンクは引き続き未知数の新興企業への投資を続けています。12月にはインドのアイケア(メガネとかコンタクトレンズとか)ショップLenskartに約3億ドル投資しました。

 ユニコーンが登場しにくい世の中になってきていますが、来年はどんな新興企業が活躍するでしょうか。

動画もゲームもストリーミングが主流に?

 2019年は、動画とゲームのそれぞれのストリーミングサービスの発表ラッシュも印象的でした。

 動画では、Netflix、Hulu、Amazonプライム・ビデオが占めていた市場に、AppleDisneyが参入。いずれもスタートは2019年後半なので、この先どうなるかまだ分かりません。来年には大御所WarnerMediaの「HBO Max」やNBCUniversalの「Peacock」もスタートします。

Apple TV+ 日本でも利用できる「Apple TV+」の評判は上々です

 ゲームは、まずGoogleが11月に「Stadia」を立ち上げました。ゲームの場合は動画と違ってわずかなレイテンシでも命取りなので、どこでも参入できるというものではありません。Web高速化を常に目指して技術を磨いているGoogleでさえ、蓋を開けてみたら遅延があると指摘されています。でもGoogleのことですから、公開してからどんどん良くなると期待します。

Stadia Googleの「Stadia」はイマイチな評判でした

 スタートは来年ですが、Microsoftも「xCloud」を発表しました。MicrosoftもAzureでネットワークの先端を走る企業の1つなので期待したいところ。Microsoftはゲームストリーミングの元祖といえる「PlayStation Now」を擁するソニーと提携し、ゲームストリーミング向けにAzureベースでクラウドソリューションの共同開発も始めました。

 来年発売予定の「プレイステーション 5」とXbox次世代機「Series X」はゲームストリーミングにも対応するんでしょうか。

大企業での従業員運動が活発に

 昨年11月にGoogleの従業員有志が立ち上げたGoogle Walkout運動が一定の成果を上げたことに勇気づけられたのか、MicrosoftAmazonの従業員も今年、企業姿勢を問う活動を行いました。

 でも、GoogleでWalkoutを主催した中心的メンバーの何人かは社内で嫌がらせや迫害を受けたとして結局退社しました。その後Googleは労働組合への対処法を指南するIRI Consultantsと契約し、従業員による組合活動を阻止するような動き(Googleは否定しています)をみせているといわれています。

Walkout 「Googleの次のムーンショットは組合破壊」というGoogle Walkoutチームのブログ

 これに対し、複数の元従業員がGoogleを提訴しました。この問題は来年以降に持ち越しです。

AIを巡るあれこれ

 GoogleやFacebookは、何だかんだ言っても従業員の待遇は他社と比較すればかなり良い方です。ただ、契約社員はまた別の話。特に、プラットフォーム上のコンテンツを監視する「モデレーター」と呼ばれる職種が過酷であることが、まず2月の報道で明らかになりました。

 モデレーターは、AIやユーザーが「これは悪いものだ」と判断したコンテンツを目で見て確認します。巨大プラットフォームには毎日大量の「悪いもの」が投稿されるので、それに迅速に対処するにはモデレーターが急いで大量にそういうものを見続けなければなりません。過酷な業務でPTSD(心的外傷後ストレス障害)になる人も出ています。

 Facebookだけでなく、12月にはGoogleのモデレーターも厳しい現状を紹介(The Vergeの記事)しました。

 プラットフォームを安全に保ちつつ、モデレーターの健康も守るためには、当面はモデレーターの数を増やし、1人当たりの担当時間を減らすしかないでしょう。ここにはちゃんとコストをかけてほしいものです。

 こうした検出を、AIだけでできるようになる日は来るのでしょうか。

 ユーザーが話した音声データをプラットフォームの担当者が聞いていたことも、話題になりました。まず4月にAmazon.comが指摘され、GoogleAppleMicrosoftFacebookの順でそれぞれ発覚しました。AIの性能を上げるためには、まだまだ人間の助けが必要なのだと一般の人々が認識するきっかけになったと思います。各社とも、サービス上でユーザーが「人間に聞かせない」ように設定できるように対処しました。

 AIを使った顔認証の問題や、ディープフェイクが問題になった1年でもありました。

 もちろん便利になったこともたくさんあります。Googleの音声同時通訳アプリの精度に驚き、個人的にも仕事で「レコーダー」アプリや「Google翻訳」など、AI採用ツールに助けられています。

google translate Googleの音声同時通訳アプリ

ネットのいじめ問題

 インターネットがソーシャルな(社会的)舞台になると、当然社会問題の1つであるいじめもネットの問題になりました。TwitterInstagramYouTubeも、いじめ対策に手を焼いています。

 ここでもAIが活躍していて、Twitterは4月にAIによるいじめ検出の精度が上がったと発表しました(最終的には人間のレビュアーがチェックしています)。

 社会でのいじめも同様ですが、いじめ問題はいじめられる側を守るより、いじめる側がいじめなくなるようにしないと手を変え品を変えて攻撃が続きがちです。その点、Instagramが12月に追加したいじめようとすると警告する機能には少し希望が持てました。いじめる側の中には、それが相手を傷つけることだという自覚なしにやっている人もいるので、そういう人はこの警告で投稿を再考するでしょう。Instagramは、この機能である程度いじめが減ったとしています。

Instagram Instagramの新いじめ対策機能。問題がありそうなキャプションを入力すると警告が出ます

プライバシーと便利さの天びん

 AIの項で触れた「人間がユーザーの音声データを聞いていた」話は、主にプライバシーの問題として取り上げられました。スマートスピーカーは「Alexa」などのウェイクワードを空耳してその後の音を少し保存するので、うっかりすると意図しない音声データも保存されてしまいます。それをAIが解析するだけならともかく、人間が聞くなんて、というわけです。

 プライバシーの広い意味は「人に知られたくないわたくしごと」です。IT系では主に「自分の情報を自分で管理する権利」という意味で使われます。なので、この問題発覚後、各社は人間の担当者に録音を聞かせるのをやめるのではなく、人間の担当者が聞いていいかどうかユーザーが選べるようにすることで対応しました。

 先日、非IT系の飲み会に参加したところ、「私には価値のある個人情報なんてないから、企業にとられても別に気にしない」という人が複数いました。個人情報を利用して自分に役立つ広告が表示されるなら、むしろ百利あって一害なしだと。

 私も自分の個人情報にそれほど価値があるとは思いませんが、表示される情報が個人情報に基づいて最適化されることには抵抗があります。見ている世界がどんどん偏っていく気がするし、2016年の米大統領選で問題になったような情報操作に知らぬうちに影響される可能性があるからです。

homodeus 「ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来」

 AIで、見たくない情報を見なくて済むようになれば、自分に対するいじめに気付かずに穏やかな気持ちで過ごせるかもしれません。いじめる側も、その人がなぜいじめるのかをAIが解析できるようになったら、いじめたくならないようにメンタルケアをしてくれて、いじめたくなくなるかもしれません。いろいろいいことがたくさんありそうではあります。

 ユヴァル・ノア・ハラリ氏は昨年日本でも出版された「ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来」で、自分のデータをどんどん提供し、その結果便利になったことを享受する「データ至上主義」(dataism)が、ヒューマニズム(日本語版では「人間至上主義」)に取って代わろうとしていると主張しました。人間のように意識は持たないAIが、人間よりも高度な知識を備えたら、その先に何があるのか?──こうまとめてしまうと「なんだまたシンギュラリティの話か」となってしまいますが、分かりやすいので一読をお勧めします。

最後に

 昨年に続いて、今年もITの技術的な話よりもIT企業と社会との関わりについての話が多くなってしまいました。

 ところでこの連載「ITはみ出しコラム」は今回が最終回です。毎週末にその週のニュースを思い返しながら書くのは辛くもあり楽しくもあり、でした。最後までお読みいただきありがとうございました。今後もしばらくはITmediaで海外速報を毎日こつこつ書いていく予定です。ではでは。

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