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» 2010年09月28日 09時00分 UPDATE

小寺信良「ケータイの力学」:技術科の先生に学ぶ、情報と技術のあり方

学校で情報リテラシー教育を担当しているのは、技術・家庭科の先生たち。その先生たちは、子供の情報教育にどう取り組み、どんなことを考えているのか。Imagine Cupでソフトウェアデザイン部門日本代表となった筑波大学附属駒場中・高等学校 技術科の市川道和先生を訪ねた。

[小寺信良,ITmedia]

 今、学校で情報リテラシー教育の最前線に立たされているのが、技術・家庭科の先生たちである。インターネットだからPCが扱える先生お願いします、ってな格好になっているわけだ。

 技術・家庭で教える範囲は、とてつもなく広い。手元に文科省発行の「中学校学習指導要領解説 技術・家庭編」という冊子があるが、ここから教える内容を拾ってみると、材料と加工、エネルギー変換、技術と社会の関わり方、子育て、食生活、衣服、消費生活といった、生活知の項目が並ぶ。そしてそれらと並んで情報に関する技術として、情報通信ネットワークと情報モラル、コンピュータの構成と情報処理の仕組みなどが入っている。

Photo 筑波大学附属駒場中・高等学校の技術科、市川道和先生

 中学校で行なわれている情報教育の現状を取材するために、筑波大学附属駒場中・高等学校の技術科、市川道和先生の元を訪ねた。筑駒と言えばもちろん首都圏最難関の進学校であり、今年マイクロソフトが主催する学生向けのグローバルITコンペティション「Imagine Cup」にて、ソフトウェアデザイン部門日本代表となった「パーソナルコンピュータ研究部(パ研)」がある。この顧問を務めるのが、市川先生だ。しかしそこに待っていたのは、意外な答えだった。

 「学校はもう、人を育てることに失敗して長いんですよ」

 市川先生が教員になったのが約30年前、ちょうど校内暴力が吹き荒れて、学校が壊れた時代である。それ以降、総合的な学習、ゆとり教育、情報教育など、さまざまな方策が考え出されてきた。現場の先生方はそれに翻弄されながら、それでもやっぱり人を人として育てることに失敗してきたのではないかと懸念する。

 「技術論、そして技術とは何なのか。技術科においてはそこが芯になります。人の生活を豊かにする工夫が技術ですよね。そしてそれらは、人で成り立っています。サービスも技術も、作ったり動かしたりするのは人。ですが人と人とのコミュニケーション、お互い一緒につながりましょうというところがエラーを起こしているから、人をつなぐサービスも理解できない」

Photo 筑波大学附属駒場中・高等学校。国立唯一の男子校でもある

 校内には有線LANが配備され、生徒が自由に使えるPCもある。しかし、フィルタリングなどはいっさいしていないという。市川先生曰く「無駄だから」。パ研の生徒らのPCやネットワークに対する知識レベルは、もはや市川先生でもかなわないのだという。フィルタリングソフトなどを導入すれば、まるでエサを与えるようなもの。すぐに抜け道を探してしまう。

 以前は掲示板荒らしやグループで悪さをしたものもいたが、地道に指導していくことでカバーしてきた。しかしながらそれは生徒と先生、子どもと大人というしっかりした関係があることが前提だ。それが崩壊してしまっては、もはや優秀すぎる子どもたちを制御するのは難しい。

子どもに必要な技術とは

 電子教科書に関して市川先生は、まだどういう態度で臨むべきかつかんでいない、という。

 「これまで学校現場では、ITを取り入れることに関して数々のトライアルをしてきました。LL教室から始まってパソコンルーム、電子黒板など。しかしそれらの導入に対する効果測定が、ちゃんとやられていないような気がするんですね。それなのにまた別のものを持ち込んでどうなるのか、という気持ちはあります」

 筑駒のICT利活用度は他校の3倍ぐらい、かなり使い倒しているはずだという。例えば学校で使用するPCのOSは最近でもWindows 2000やXP、Microsoft OfficeもOffice 2000だったりする。しかし最新のOSやOfficeでしかできないことが何かあるのか。生徒が作る体育祭や文化祭のプログラムを作成するのに、まったく困っていない。

 「eラーニングが成功したのは、パソコンが珍しかったからですね。それが飽きられると、今度はインタフェースに凝った。それも飽きられると、次はキャラクターに走った。結局子どもたちを走らせているのは、機材じゃないということが分かったわけです。電子教科書もまずはデバイス云々ではなく、新しい教育スタイルの話が先に聞こえてくるべきではないでしょうか」

 Imagine Cupの指導でもっとも重視したのは、プレゼンテーション能力だ。プログラミングの実際は、生徒達に任せておけばいい。しかし自分が何をやりたいのか、プログラムの結果で何が成し遂げられるのか。先生すら説得できないものには、GOは出さない。

 「Imagine Cupでも、他国の子どものプレゼンテーションはものすごく上手い。もちろん練習もしているでしょうが、社会環境がそうさせるということも大きいでしょう。さらにこうした方がいいというアドバイスも、あっという間に身につけてしまう。しかしそれもまた問題で、それは自分の言葉で語っているということになるのか、といった疑問もあります」

 プレゼンテーションの重要性、そこまで大げさに言わなくても、自分が伝えたいことを正しい言葉使いで伝えられる能力は、今の子どもたちの間で危機的状況にあるのではないか。少ない子どもをみんなが大事に育てるあまり、子どもたち自らが要求しなくても、周りがセットしてくれる。何か単語をつぶやけば周りが気を利かせて読み取ってくれる。

 それがいつの間にか、ほんの少しの情報から多くを読み取ることが要求され、読み取れないものは「空気が読めない」とされるようになってしまった。しかし情報は、完全な形で伝えるから誤解やエラーがなく伝わるのである。今ネットや子どもたちの間で求められている「空気を読む力」は、正しい情報リテラシーではないように思える。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。


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