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» 2013年02月18日 16時00分 UPDATE

小寺信良「ケータイの力学」:“ネットいじめ”の真実(2)

ネットいじめとリアルいじめにはどんな関連性があるのか。中高生の被害経験をまとめた調査結果をもとに、その本質に迫る。

[小寺信良,ITmedia]

 前回から引き続き、安心ネットづくり促進協議会の調査検証作業部会でネットいじめについて調査した報告書をベースに、ネットいじめの本質について考えていく。

 まず、ネットいじめとリアル(学校)でのいじめの被害経験について、クロス集計を行なった結果に注目する。縦軸がリアルいじめ、横軸がネットいじめとなっている。

photo ネットとリアルのいじめ被害経験

 中学生においては、ネットいじめがなくリアルいじめだけを経験した子供が920人、リアルとネット両方のいじめを経験した子供が92人となっている。一方リアルのいじめがなく、ネットいじめだけを経験した子供は、14人とあきらかに少ない。

 高校生の場合は、中学生に比べてどちらのいじめも経験がない子供が多い。こちらも両方を経験した子供102人に対して、リアルいじめがなくネットいじめだけを経験した子供が56名と、少なくなっている。

 比率で見てみると、リアルないじめをネットにまで持ち込むケースは中学生では少なく、高校生ではやや多い。これは高校生のほうが携帯電話の所持率が高く、ネットの接触率が高いことも関係がある。

 またネットいじめだけが単独で存在するケースは少なく、結局のところ、ネットいじめはリアルいじめの延長線上にある傾向が見て取れる。

 子供と携帯の関係について、2月16日にJ-Waveの番組に電話出演したが、このとき放送されたインタビューでは、「LINE」に参加しない事で、LINE上で悪口を言われるのではないかと懸念する保護者の意見があった。だが、本人がいないところで悪口を言うというのは、本人にはそれを知る術がなく(中にはお節介に教えてくれるケースもあるだろうが)直接被害がないため、いじめとはカウントされない。

 またLINEに参加している状態でいじめに遭うというケースも紹介されたが、根本はリアルでも何らかのいじめが発生している可能性を疑うべきであろう。今LINEが爆発的な勢いで利用が増えていることもあり、LINEというプラットフォームに問題があるように見られがちだが、数年経てばまた別のプラットフォームが流行し、問題がそこに移るだけである。

 ネットいじめは、いじめの絶対的な証拠としての文字情報が残るので、保護者も気づきやすい。だが学校でのいじめは基本的に親が見張るわけにも行かず、また先生の目の届かないところで行なわれるため、本人しかそれに気づかないし、物的証拠もないため、第三者が証拠を押さえられないところが難しい。

 また子共からしても、自分がいじめられていることを保護者に相談しづらいという点も注意が必要だ。特に年齢が上がるほど、高校生にもなっていじめられているとは、なかなか言い出しづらいだろう。高校生のほうがいじめが減っているというデータは、成長していじめから卒業したというケースと、いじめにあっても相談しづらくなっているというケースが混じっている可能性がある。

情報モラルによる抑制効果

 続いて、加害経験者とICTスキル、情報モラルの関係について検討する。ICTスキルとは、情報端末であるハードウェアの取り扱いだけでなく、情報処理の知識、通信のしくみといった複合的な知識を意味する。情報モラルは、情報リテラシーと置き換えても差し支えないと思うが、情報を活用する能力や発信能力、信憑性を確かめる能力などを指す。

 調査報告書では具体的な数値は提示されていないが、1年をかけて半年ごと、3回の調査を行ない、半年後、1年後での相関関係を確認している。

 ICTスキルとの関係で言えば、中学生では女子の1年後の影響を除き、それ以外のケースでICTスキルが高いほど、ネットを使用した仲間内攻撃行動の加害経験が増加していた。

 高校生ではICTスキルの関係は限定的で、男子では半年後のみネットを使用した仲間内攻撃行動の加害経験が増加、女子では1年後のみネットを使用した仲間内攻撃行動の加害経験が増加の傾向が見られた。

 これから判断すれば、中学生においては、ICTスキルが上がるにつれてネットいじめを行なう率が高まると言える。

 一方、情報モラルとの関係性としては、中学生では男子の1年後の影響においてのみ、情報モラルが高いほど、ネットを使用した仲間内攻撃行動の加害経験が減少する傾向が見られた。高校生では、女子のみ半年後と1年後の影響において、加害経験が減少する傾向が見られた。

 これから考えると、やや限定的ではあるが、情報モラル教育はネットいじめを行なうことに対して、何らかの抑止効果があると言えるだろう。テクニカルな事を知るだけでは、ネットいじめに対しては逆効果で、それと平行して適切な情報モラル教育が行なわれるべきである。

 実は中学校において情報モラル教育が実施され始めたのは、2012年(平成24年)4月より新しい学習指導要領が実施されてからの事であり、この調査の段階ではまだ実施されていない。さらに言えば、情報モラル教育が含まれる技術科の教科書は、中学の3年間で共通なので、中学3年間のどの時点で実施されるかは、学校側の判断に任されている。

 従って、中学生の情報モラル教育の成果は、遅ければ来年から再来年ぐらいまでは、結果として現われてこない可能性がある。毎年ネットいじめに関する調査は行なわれるだろうが、それを見てモラル教育には効果がないと性急に判断しないよう、留意する必要がある。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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