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» 2013年02月15日 16時48分 UPDATE

牧ノブユキの「ワークアラウンド」:地方から「郊外型大規模店舗」が消える理由 (1/2)

過大な在庫を抱えていつ閉店するか分からない「地方の大型店」は、いつ爆発するか分からない時限爆弾だ。これは、大量返品から身を守るべく暗躍するメーカーの物語である。

[牧ノブユキ,ITmedia]

チャンス到来と思いきや

 メーカーにとって、量販店の新店オープンは売上を稼ぐ絶好のチャンスだ。普段それほど回転しない商品でも、在庫がその時点で“ゼロ”の新しい売り場に並べると、アイテムごとに売上が確実に見込めるからだ。もちろん、これは店に対する売上であって、エンドユーザーに売れるかどうかはまた別の問題だ。しかし、売り上げノルマに追いかけられている営業マンにとって一時的に多額の売り上げが発生する、またとない機会になる。

 ところが、売り上げノルマに追いかけられている営業マンであっても、将来的なことを考えると乗り気になれないタイプの店舗がある。それが量販店でよくある「地方の郊外型大規模店舗」だ。広い面積を持ち、多数のアイテムを導入できるにもかかわらず、メーカーの営業マンにとってあまり積極的に関わりたくない店舗という。それはいったいなぜだろうか。

ライバルチェーンを撃退するためだけにオープンする地方大型店

 量販店の業態はさまざまだが、同じ「大規模店舗」であっても、駅近にある大型店は確実に商品が回転する優良店だ。近くでライバル店が営業しているケースも多いため、店からメーカーに対する要求も厳しいが、集客力が突出しているだけに、手間をかければ確実に売れる。

 また、地方によくある小規模店舗は売れないことが予め分かっているので、店頭の品ぞろえもそれに応じた売れ筋中心となる。さらに在庫数もそれほど多くないので、たとえ閉店で全数が返品になってもダメージは少ない。物流センターを経由して駅前の大規模店舗にすべての在庫を引き取ってもらえれば、返品が発生せずに済ませることも不可能ではない。メーカーの営業マンも常時巡回する必要がなく、通常は“放置”していても構わないので、「メンテ不要で小銭が稼げる」ありがたい店舗ということになる。

 ところが、だ。これに当てはまらないのが「地方の郊外型大規模店舗」だ。よくあるケースとしては、地価が安い郊外にとてつもない面積の店舗を作り、“地域一番店”を掲げてありとあらゆるラインアップを陳列するパターンだ。基本的にロードサイドの店舗になるので、1階が駐車場で2階より上が店舗、またはその逆に1階と2階が店舗で屋上が駐車場といった、車を使う来客を重視しているのが特徴だ。

 こうした店舗は、確かに敷地面積が広く、品ぞろえのバリエーションも豊富だが、基本的に週末に車で来る客しか狙えず、集客力は意外と弱い。本来なら事前に往来の調査を行った上で損益分岐点を算出するのが正しい出店計画だが、最近では特定の量販店がライバルチェーンを撃破するために、こうした事前調査はすっ飛ばして、とにかくライバルチェーンの店舗の近くに出店するというパターンがよくある。

 中小規模の地方都市における購買力という、ただでさえ小さなパイを、2店舗で分け合おうとするのだから、結果は予想するまでもない。後発の店舗だから、先に出店している店舗より広い売り場面積を確保しなければならないことも、事態をさらに厄介にしている。後発で出店する側は、ライバルチェーン店が潰れることで客を総取りしようという意図なのだが、思惑通りに事態は推移したとしても2年程度はかかるのがザラで、それまでは不毛な消耗戦が続くことになる。

店頭の品ぞろえを減らし、在庫も減らして手を打つメーカー

 メーカーにとってこうした店舗が困りモノである理由は、まずは先ほども述べた「集客力の弱さ」だ。どれだけ並べようが客が来ないので、在庫が動かない。駅前の大規模店舗であれば1週間あれば1回転するはずの在庫量が、1カ月かかってピクリとも動いていなかったということもよくある。

 店頭の在庫というのは、動かなければ放っておいても価値は変わらないように思えるが、実際はそうではない。店内の照明を長時間浴び続けていれば、パッケージは退色するしホコリもかぶる。多くの店舗ではスタッフがホコリを落として回っているが、こうした大型店舗は店内の面積が広いがゆえ、そこまで気が回る店員はむしろ少なかったりする。つまり、売り場に長期間滞留すれば、メーカーにとっても返品なり交換といったリスクが発生する。

 なによりもメーカーが恐れるのは、こうした大型店舗そのものが閉店することだ。もともとライバルチェーン店を打倒するため見切り発車的に出店しているため、数年経つとどちらかが撤退するという結末を迎えることが多い。そうなると、大規模店舗1つ分の在庫が、メーカーに返品という形で戻ってくる。新店オープンのときには、月に1千万円近い売り上げで喜んでいたのが、その何年かあとには閉店で同額のマイナス伝票が発生するわけだ。地方という定義からはやや離れるが、最近ではエディオン秋葉店の閉店を想像してもらえれば、分かりやすいかもしれない。

 新たに出店した大型店が閉店しようが、もともとあったライバルチェーンが撤退しようが、たいていのメーカーはどちらにも製品を卸している。結局、手をかければかけるほど返品が発生しやすくなるというジレンマがある。それも前述のように「どうしてこんなになるまで放っておいたんだーッ! 」というほどパッケージが退色したり、周辺機器であれば対応する本体が市場にすでにない状態になってから初めて手をつけることが多く、棚卸上は原価を持っているが、資産としての価値はゼロという品がほとんどということも珍しくない。ゴミを引き取るのに、逆に手数料を払わされるようなものだ。

 そのため、こうした地方の大型店がオープンするときのメーカー対応はおおむね決まってくる。最低限のラインアップだけを入れ、無理に陳列スペースを広げようとしない。多くの種類を納品してしまうとPOSで自動発注がかかってしまい、在庫を減らしていてもいつの間にか店舗が定める適正量に戻ってしまう。それゆえ、アイテムの種類を減らして自動発注を抑え、店頭の在庫金額は最小限に抑えられる。これなら閉店に伴う返品が発生しても、ダメージは最小限で済む。

 POSによる自動発注が通っていない店舗では、在庫もなるべく減らす策を取る。アクセサリなどでは、在庫定数が5個のところを2個にすれば、単純計算で在庫金額が60パーセント削減できるからだ。結果として、こうした店舗では、通常ならば1つのフックに3〜5個ほど商品がぶら下がっているところ、せいぜい1〜2個しか並んでおらず、陳列間隔もやたら広いレイアウトになる。見た目はスカスカで、まるでハリボテのような陳列になり、店としての魅力を欠き、客足もジリ貧になるという不毛なループが発生するが、メーカーとしても慈善事業をやっているわけではないので、背に腹は替えられない。

 余談ながら、こうした店舗は販促パネルや店頭のカタログも更新されず古いまま放置していることが多いので、すぐに見分けがつく。また、ラインアップの少なさを販促パネルでごまかそうとするので、展示在庫に比してこうした販促パネルの占めるスペースがやたらと広かったり、サンプルの展示スペースが潤沢だったりする。客が分かりやすいように展示を工夫した結果こうなったのではなく、穴埋めでこうなるというのは、皮肉な話だ。

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