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» 2012年01月27日 10時30分 UPDATE

神尾寿のMobile+Views:ドコモに何が起きたのか 大規模障害に垣間見える、顕在化するスマホ時代の課題 (2/2)

[神尾寿,ITmedia]
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アプリの動向・需要変化にインフラ側の対応が追いつかない

 制御信号のトラフィック増を読み誤った理由としてドコモが挙げるのが、この半年ほどで急速に普及したVoIP系のコミュニケーションアプリの存在だ。

 Androidスマートフォンでは、通常だと28分に1回の割合で制御信号のやりとりを行うが、これらのコミュニケーションアプリは、単独で制御信号を使用。ドコモによると「3〜5分に1回という比較的短時間のサイクルで、制御信号を発生させる」(岩崎氏)という。28分に1回というAndroid側の制御通信に加えて、コミュニケーションアプリ側でも頻繁に制御信号が発生するという事態が、ドコモの想定を超えていたのだ。

 むろん、スマートフォンにおけるVoIP系コミュニケーションアプリの利用は今に始まったことではない。Skypeなど老舗のアプリは2009年頃から存在していた。しかし昨今では、NTTコミュニケーションズの「050plus」やNAVER Japanの「LINE」など新興のVoIP系コミュニケーションアプリが、芸能タレントを起用して大々的に広告を展開。以前よりもユーザーの裾野が広がり、アプリのインストール数が急増していたのは事実だろう。また昨今では、SNSや位置情報系アプリでも制御信号を用いて頻繁にコネクション確立をするものが少なくない。システムに常駐し、リアルタイム性を重視するアプリが急増したことが、ドコモにとって“想定外の制御信号需要の増加”であったことは確かである。

 そしてドコモは、この「アプリ市場のトレンド変化」に柔軟に対応できなかった。今回、導入された新型パケット交換機の仕様が策定されたのは約1年前。当時はまだVoIP系コミュニケーションアプリの一般普及が始まっておらず、ドコモ側がその普及拡大に懸念を抱いたのは「TV-CMなどが増えた昨年(2011年)の11月頃から」(岩崎氏)と遅きに失した。また、同じNTTグループのNTTコミュニケーションズが050plusを市場投入していたものの、VoIP系アプリのインフラに与える影響について十分な情報共有や連携・協議は行われていなかったようだ。岩崎氏は「そのあたりは今後の課題」と言葉を濁す。

 アプリ側のインフラ需要を見誤ったことはドコモのミスであり、26日の会見でも岩崎氏が何度も「我々の見極めが甘かった。お客様にご迷惑をかけてしまった」と謝罪を繰り返したポイントだった。しかし、それ以外にドコモが不運だった要素もあった。それはドコモが“Androidスマートフォンに頼らなければならない”という現状である。

 同じ26日に開催されたKDDIの2011年第3四半期決算会見において、同社の田中孝司社長はスマートフォン急増によるインフラ負担の増大について囲み取材でコメント。その中で田中氏は、iPhoneとAndroidスマートフォンのインフラ負担の違いについて、「概してAndroidの方が通信量が多い」と語った。iPhoneはAndroidに比べるとマルチタスクで動作するバックグラウンドアプリの制御や制限が細かく行われており、バッテリー消費や通信量を抑制するためのコントロールが厳しい。これらの点から、iPhoneの方がAndroidよりも“インフラに優しい”という一面があるようだ。

 周知のとおりドコモは、ソフトバンクモバイルやKDDIと違い、いまだにiPhoneを取り扱っていない。インフラ負担が大きいAndroidスマートフォンを主力機種として拡販せざるを得ず、それに加えてVoIP系コミュニケーションアプリなど、制御信号を中心にインフラに持続的な負担をかけるアプリ/サービスが一般普及し始めた。複合的な要因で、インフラ側の負担が急増したと言える。

ドコモに求められるスマートフォン時代へのマインドチェンジ

 25日の大規模障害を受けてドコモでは、2月中旬までに全国のパケット交換機の処理能力を総点検し、速やかに同時接続数だけでなく制御信号の増大にも耐えられるよう設備増強と処理能力の最適化を行う方針だ。その一方で、インフラ負担拡大の原因となっているコミュニケーションアプリなどについては制限は行わない方針だ。

 この点について岩崎氏は「スマートフォンの利点はさまざまなアプリを使えるところにあり、お客様もそれに期待している。アプリに制約をかけることは考えていない。制御信号の増加についてはトラフィック側で対応していきたいと思う」と強調した。

 まずは設備投資で負担増に対処しつつ、GSMAやGoogleなどと連携。過度にインフラ負担をかけないアプリの在り方について協議しながら、アプリ開発者も交えて将来的な対策は考えていきたいという。今回の大規模障害が、アプリ規制の議論にすぐにつながらなかったことは歓迎すべきことだろう。

 その一方で、いくらスマートフォンだからと言っても、アプリで「何をやってもいい」わけではない。スマートフォンはモバイル環境で利用するものであり、それを支えるインフラは有限のリソースだ。アプリ開発者側もインフラ負担軽減の努力をすべきであり、キャリアとの協議や連携が必要だ。

 また、今回の大規模障害を通じてドコモ側に言えるのは、「スマートフォン時代に向けてのマインドチェンジが必要」ということだろう。

 スマートフォン時代はアプリやサービスのトレンド変化が激しいため、インフラの設計・整備においても、急激な変化に対応できる柔軟性や冗長性が必要である。今回、直接的な障害発生原因になったパケット交換機の入れ替えにおいても、“構成数が変わることで1時間あたり通信量の総処理能力が減る”ことを警戒し、移行期においては十分な余力を持たせた運用をしておけば、これほどの大規模障害は防げたはずだ。

 また、スマートフォン向けのアプリやサービスへの対応においては、まずはスマートフォン向けアプリ開発企業との関係を強化。トレンドの把握やインフラの効率的な運用について連携を深めることが重要だろう。国内最大手のISP「OCN」を持つNTTコミュニケーションズなど、インターネット分野でノウハウを持つ身内の力を積極的に借りることも1つの選択肢だ。

 ドコモ1人がすべてを背負わず、多くのステークホルダーと柔軟に連携する考え方。それがスマートフォン時代には必要になってくるのではないだろうか。

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