11月27日に開催された「MCPCモバイルソリューションフェア2009」の「ビジネスとライフスタイルが変わる!スマートフォン実践セミナー」では、ウィルコム サービス開発本部 データ通信企画室 室長の須永康弘氏が登壇。「ウィルコムのスマートフォン最前線」というテーマのもと、同社の最新モデル「HYBRID W-ZERO3(WS027SH)」開発の経緯を説明した。
シャープ製のHYBRID W-ZERO3は、同社のウィルコム向けスマートフォンとしては、「W-ZERO3」「W-ZERO3[es]」「Advanced/W-ZERO3[es]」「WILLCOM 03」に続く5世代目のモデルとなる。HYBRID W-ZERO3は3G(WILLCOM CORE 3G)通信対応やSIMロックフリーなどの仕様が目を引くが、須永氏が「大きな決断をした」と話すのが、5世代目にして初めてQWERTYキーボードの採用を見送った点だ。
「弊社のスマートフォンユーザーの多くがQWERTYキーを高く評価しており、本来ならQWERTYキーを搭載するのが正統な進化だった」と話すとおり、須永氏もQWERTYキーの必要性は認めている。それでもQWERTYキーを排したのは「iPhoneの存在が大きかったから」だという。「スマートフォンのシェアでは、iPhoneには完全に負けている。同じ路線で進んでも勝てない」と判断。「リスクはあるが、スマートフォンのあるべき形を検証した結果、ダイヤルキーのみを搭載することに決めた」。
また同氏は、iPhoneはキーを押さなくてもWebやアプリケーションを使える仕様になっていることから、「QWERTYキーがないとスマートフォンの利点が生かされないということは、段階的に減っていくのではないか」との考えも示した。もちろんウィルコム社内では、ダイヤルキーとQWERTYキーの両方を搭載することも検討事項に挙がったが、目標とするサイズに収まらなかったので、割り切ったという。「気付いたら、ケータイの中にスマートフォンの機能が入っているといえる製品を目指した」(須永氏)
前モデルのWILLCOM 03の通信速度は最大204kbpsであり、他社の3G端末に比べて速度面では大きく水を開けられていた。「WILLCOM 03の8割近くのユーザーが速度に対して不満を抱いており、速度が遅いことが原因で、他社のスマートフォンに流れたユーザーさんは多かったので、どうしてもリベンジをしたかった」と同氏は強調する。
3GとW-OAM TypeGに対応したことで、速度面の弱点を解消できたとはいえ、3G通信に対応しただけでは、他キャリアに並んだに過ぎない。そこで須永氏は、他社との差別化ポイントに「料金」を挙げた。詳細は「検討中」だが、「内蔵ブラウザの利用はもちろん、PCと接続した際の料金も含めて、リーズナブルなプランを提供したい。料金の安さはビジネス用途で使う際にも有利に働く」と自信を見せる。
iPhoneの普及やAndroid端末が台頭してきたこともあり、搭載OSには悩んだそうだが、「Windows Mobileでどこまで戦えるのかを冷静に考えた上で判断した」(須永氏)結果、Windows Mobile 6.5を採用した。これは後述するMicrosoftとの連携機能で差別化を図る構えだ。またユーザー層については、「iPhone以外のスマートフォン市場は大きく伸びているわけではないので、HYBRID W-ZERO3のターゲットは、(これまでのウィルコムのスマートフォンとは異なり)既存の携帯やPHSユーザーから他社のスマートフォンユーザーまで、幅広く想定している」(須永氏)
さらに須永氏は、HYBRID W-ZERO3による法人営業の開拓にも意欲を見せる。「法人営業は特に苦労しているので、3G通信に対応したことでコストパフォーマンスが上がれば、新しい市場を開拓できるのではないか。今までは電話機とデータ端末を個別に使っていた方も、HYBRID W-ZERO3なら1台で完結できる」(須永氏)。このほか、Microsoft Exchangeサービスを高速通信で利用できることも優位点とした。
機能面で特にこだわったのがメールだという。その中でウィルコムが着目し、Microsoftと連携して開発したのが「Windows Live メール」だ。「HYBRID W-ZERO3を購入するとウィルコムのメールアドレスと一緒にWindows Live メールのアドレスも取得できる。ケータイでユーザーIDやパスワードの設定をするのは非常に面倒なので、端末とサーバで処理をする仕掛けをMicrosoftさんと開発した」と須永氏は説明する。さらに、HYBRID W-ZERO3にはWindows Liveにワンタッチでアクセスできる専用キーを設けた。この連携機能も「他社との差別化要因になる」と須永氏は胸を張る。
Microsoftと連携したそのほかのサービスとして、画像やアドレス帳のオンラインバックアップサービス「MyPhone」と、Windows Mobile向けアプリケーションを配信する「Windows Marketplace for Mobile」にも注目したい。「MyPhoneは外部メモリを使わずにバックアップできるのが大きなメリット。Appleの『MobileMe』では年間9800円かかるのを無料で提供できるので商品力がある。Windows Marketplaceは、アプリがそれほど充実していないウィルコムにとっては歓迎すべきサービス。Microsoftのグローバルな展開について行きたい」(須永氏)
ビジネスツールとして使えるようカメラ機能も強化し、500万画素CMOSを搭載。ホワイトボードのメモ書きを撮影してPDFに変換できる「PDF SHOT」を新たに採用したほか、従来モデルでもおなじみの「名刺リーダー」や「コラムリーダー」は読み取り精度を向上させた。「5Mはコスト的に辛かったが、最低限のスペックを押えつつ、どう使うかにこだわった」(須永氏)
もう1つ、“日本製の”スマートフォンとしてこだわったのが、フルワイドVGAサイズ(480×854ピクセル)の液晶を搭載したことだ。「日本のケータイでフルワイドVGAは標準的なスペック。Windows Mobile端末だから対応できないというわけにはいかないので、Microsoftさんに協力してもらった」(須永氏)という。ただし液晶サイズがWILLCOM 03の3.0インチから3.5インチに増した分、本体の幅も50ミリから53ミリに増した。「シャープさんのこだわりもあり幅50ミリは維持したかったが、今回は“サイズ感”よりも“大画面”を重視した」(須永氏)
W-SIM型GSMモジュールと海外向けSIMカードを用いて海外で通信できる仕様については、「予想以上に大きな反響をいただいている」ようだ。「海外にはいろいろな料金サービスがあるので、気軽に選んでもらえるような仕掛けを用意した。ただ、もう少しハードルを下げて、エントリーユーザーの方に(海外の)SIMカードを案内する施策も必要だと考えている」(須永氏)
HYBRID W-ZERO3はQWERTYキー非搭載や3G通信対応、海外のSIMカード対応といった新しい要素で話題を集めているが、何よりも大変なのが「Windows Mobile 6.5の対応」だという。「現在、Microsoftさんとシャープさんと仕上げにかかっている。新しいOSにPHSを合わせ込むのは非常に大変だが、2010〜2011年になったとき、こうした市場を開拓するのは重要だと思う」(須永氏)
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