法人ソリューションを立ち上げた手腕を評価――田中新社長への期待

» 2010年09月10日 19時54分 公開
[田中聡,ITmedia]

 2010年12月1日から、KDDIの代表取締役社長に現代表取締役執行役員専務の田中孝司氏が就任し、現代表取締役社長兼会長の小野寺正氏は代表取締役会長に退く。これは9月10日に行われた取締役会で決定したもの。KDDIが同日に開催した会見では、小野寺氏が社長交代の経緯を説明をするとともに、田中氏が今後の抱負を語った。

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10年目を節目として交代した

photo KDDI 代表取締役社長兼会長 小野寺正氏

 2001年に社長に就任した小野寺氏は、2006年から会長職を兼務しており、2010年は社長に就任してから10年目となる。同氏は「これを1つの節目として交代することにした」と、この時期に交代を決断した理由を話した。新社長の就任時期を12月1日としたのは、「来年度(2011年度)の経営方針を12月から決定すべきと考えたため」。

 田中氏は「7月末に小野寺社長から(社長就任の)話を聞いたときは、はっきりいって驚いた」と率直な気持ちを述べた。「こういう場なのでまずは所信を表明したいが、12月の就任以降にしたい」と話すに留め、「この10年は通信事業者間の競争だったが、昨今は新しいプレーヤーが参入して競争の形が大きく変化していると認識している。こういった競争の変化に対応できるよう、新たなKDDIを作り、お客様に応える新しいサービスを提供することで、KDDIグループの持続的発展に尽くしていきたい」と語った。

田中氏は法人ソリューションとUQの立ち上げに尽力

photo KDDI 代表取締役執行役員専務 田中孝司氏

 次期社長に田中氏を選んだ最大の理由は「法人向けソリューションを立ち上げたこと」と小野寺氏は話した。「KDDIに合併した2001年の法人向けサービスは音声しかなかったが、そこに新しい概念を入れたのは大きな功績。(KDDIの広域データネットワークサービスである)WVS開発の陣頭指揮を執り、新しいことのリスクを恐れずに積極的に進出した」と評価。

 もう1つ、WiMAX事業を展開するUQコミュニケーションズを田中氏が立ち上げたことにも触れ、「ライセンスを取る前から会社を立ち上げて、ゼロからきっちりシステムや営業を作ってきた。UQを立ち上げる際に発揮した、株主さんを取りまとめる力を発揮すれば、私ができなかったことをやってくれる」と小野寺氏は期待を込めた。

 KDDIのここ数年の携帯事業は、NTTドコモやソフトバンクモバイルと比べると順風満帆とは言い難い。田中氏はその要因を「環境変化に適応できなかったこと」とみている。具体的には「スマートフォンへの着手が遅れ、固定とモバイルネットワークを持つことの優位性を活用しきれなかった」と説明。今後KDDIが成長するためには「いろいろなデバイスが多数のトラフィックを消費する時代がやってくる。当社の今持っているネットワークを含めたリソースを組み合わせる必要がある」とした。

 小野寺氏も「我々がスマートフォンで遅れたのは事実。その理由の1つは、フィーチャーフォンに固執してしまったこと」と認めながら、「田中はオープン系のシステムをやってきた。これは今でいうGoogleフォン。そういうノウハウは、これからの事業にも生きてくる。モバイルソリューションの経験も、端末にいい影響を与えると思っている」と期待を込めた。

これまでも交代を考えた時期はあった

 これまで交代を考えたことはあったのか、社長職の10年間を採点すると何点くらいか、との質問には「交代の時期はいろいろ考えていたし、もう少し前に変えるべきと考えたこともあったが、次の後継者がしっかり育つまで、彼ならついて行けるという人間が育つまではやむを得なかった」と、結果的に10年間社長を務めた理由を話した。

 自己採点については「時期によって評価が変わるので点数は勘弁いただきたい」とした上で、「社長就任後の最大の課題は、合併した会社の方向性を決めること。その中で全社の一体化ができ、就任時に掲げた『モバイル&IP』という意味ではある程度のことはできたと思っている。ただ、最近の状況を見ると、対応しきれなかったことがあるのは事実」とした。

田中氏の長所は粘り強さ、短所は……

 田中氏にとって思い入れが深い仕事は、(KDDIへの)合併前に従事したエンジニア時代に、これまでの情報システムをUNIXに置換することを担当したこと。「今必要とされている、オープンOSデバイスを理解する上で大きかった」という。立ち上げに尽力したUQも挙げ、「免許をもらうところから事業が大きくなるまで、すべて任せてもらった。自分自身が経験してなかった分野も経験できた」と振り返った。

 小野寺氏が評価した法人向けモバイルソリューションについては「合併後、法人向けのモバイル事業は“もしもしはいはい”を中心にドコモがやってきたが、その世界にソリューションを導入して、ケータイでも会社の効率化につながる事業を立ち上げた」と胸を張った。

 小野寺氏は田中氏の人柄について「彼は関西育ちの明るい性格。会社を引っ張っていく上では彼のような性格の方がいいのでは」と話した。一方、田中氏は「よくニコニコしていると言われるが、そうでもない。けっこう悩んでいる」と苦笑い。自身の長所は「粘り強いこと。いったん決めたら情熱を持ってとことんやる」と分析。ただ、短所は「ゴルフのバンカーからなかなか抜け出せないこと」とかわした。

料金中心の評価に疑問――携帯向けマルチメディア放送

 携帯向けマルチメディア放送の免許が、KDDIが支持するMediaFLO陣営ではなく、NTTドコモが支持するmmbi陣営に付与されたことについて、小野寺氏は「非常に残念な結果になった」と話した。「私からみると、マルチメディア放送の概念がどこにあったのか、あやふやな気がして仕方がない。委託放送事業者にできるだけ安く参入してもらうことだけが最後のポイントになった気がする。ならばそれで、我々も安くするためにいろいろできる。我々はできるだけ電波が届くように、基地局の数や配置も非常に精密に打ったが、それに対する評価がなく、『料金が安いから』という評価はいかがなものかと思っている」と、選定基準に疑問を呈した。

 また、mmbiが推進する放送規格のISDB-Tmmについて「仕様を公開していないので、我々が目指しているシステムなのかが分からない。mmbiが唯一公開したのは、ワンセグと大差ないリアルタイム放送だけ」と小野寺氏は話す。さらに、ISDB-Tmmが、KDDIが目指すサービスを展開できる仕組みだと判断できなければ、端末を対応させ、(mmbiの)委託放送事業者になることは「考えていない」とのこと。

 行政訴訟を起こす可能性は「選択肢はある。勝てる仕組みがあれば考えたい」とした。ただ、「公開説明会を3回行い、(mmbiとの)内容の違いは理解いただいた上で判断がくだされた。残念だが致し方ないと考えている」と話し、決定には納得した様子だった。


 KDDIは12月1日から新しい体制で再出発をする。田中氏は「これからはいろいろなレイヤーの方とアライアンスを組んで、新たな競争環境に参入できる体制、仕組みを作らないといけない。まだ社長拝命から時間が経っていないので、新たな戦略を立てる必要がある。グループ16社のベクトルを合わせて実行していきたい」と話す一方で、具体的な戦略を語ることはなかった。今後どんな展望が明かされるのか、そして11年目以降のKDDIはどう変わるのか。田中新社長の手腕に注目したい。

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