今なぜ「いつでもお遍路」なのか――KDDIとカヤックが生み出した“新しいお遍路の形”(2/3 ページ)

» 2012年06月05日 00時00分 公開
[園部修,ITmedia]

「こんなお遍路見たことない」を目指して

 カヤックでは、ディレクターの武田一輝氏、綿引啓太氏、村上真実子氏、デザイナーの田島絹絵氏、プログラマーの日高一明氏、田中太陽氏、小川慧氏のプロジェクトチームが、いつでもお遍路アプリの開発に当たった。

 「お遍路のアプリを作りたい」と聞いたとき、綿引氏は「そのまま作っても、正直キャッチーなものにはならないだろうと思いました」と話す。だからこそ、いいものを作るだけでなく、使ってもらえるものを作らないといけないと考えたという。

 「いかにお遍路という神聖で、かつトラディショナルなものを、今の感覚でアレンジできるか。その点を皆で考えました」(綿引氏)

 そもそも東京では、お遍路に触れる機会はほとんどない。言葉として知っていたり、テレビなどで見て知っていたりはするが、それがどういうものなのか、カヤックのスタッフも詳しくは知らなかった。しかし、お遍路についての理解が深まるほど、奥深く面白い文化だと分かってきたという。お遍路は、世界最古のスタンプラリーともいわれているが、それは遊びではなく、修行の場だ。

 「知れば知るほど、ガチな世界というか、悩みを持っている人、自分を高めたい人が時間をかけて真剣に取り組むものだと分かってきました。そこはリスペクトしつつ、でも面白いから使ってみたくなるようなものが作りたいと考え、アイデアを出していきました」(綿引氏)

 開発を始める前に、カヤックではGoogle PlayやApp Storeで、お遍路をテーマにしたAndroidアプリやiOSアプリを調べてみたが、どれもみな真剣でオーソドックスな、堅いアプリだったという。リアルなお遍路をサポートすることに徹したアプリでは、無料でも手に取ってもらうのはなかなか難しいだろうと綿引氏らは考えた。

 そこから生まれたのが、「バーチャルでお遍路をする」という、いつでもお遍路の形だ。きちんとお遍路体験ができる一方で、お遍路の概念を更新するような、「こんなお遍路見たことない」といわれるようなものを目指した。イラストレーターの岡田丈氏を起用し、ユニークなイラストで巡礼を楽しく見せられるように工夫した。また、ユーザーがアプリを使い続けるモチベーションとして、健康をサポートするというテーマも外せないと考え、歩いた距離に応じた消費カロリーを表示する機能なども盛り込んでいった。

 KDDIに提案する時点では、「かなりはっちゃけた提案になっていた」(綿引氏)というが、竹村氏や前田氏ら、KDDIの担当者はすんなり賛成してくれたという。提案のしがいがあったと綿引氏は笑った。

PhotoPhoto 「かなりはっちゃけた提案」だったという、バーチャルでお遍路をするアプリ「いつでもお遍路」
PhotoPhotoPhoto イラストレーターの岡田丈氏が描いたアバターを見るだけでも楽しい。各アバターはお遍路を薦めると順次使えるようになる。上級編の終盤まで進まないと出てこないアバターもある

詳細な情報はガイドブックとしても使える

 “はっちゃけた内容”になっているとはいえ、もちろん節度は守っている。それは、歴史と伝統への敬意があるからだ。例えば、アバターのイラストで、菅直人元総理大臣や弘法大師(空海)などの案も検討したそうだが、エルダー層を中心に、お遍路を本当に神聖なものととらえている人も多いことから、不快感を持たれることはないよう、神経を使った。

 アプリに出てくる写真や札所の情報も、「四国八十八ヶ所霊場会」から教科書を取り寄せてしっかりと作り込んだ。各札所で奉られている国宝級の仏像や重要文化財の山門など、細かな情報も記載されており、ガイドブックとしても十分使える。また、札所に着くと教えてくれる機能や、Google Mapで四国内でのおおよその場所を表示する機能、県境を越えると通知する機能など、アプリを起動して歩き始めれば、あたかも自分が本当に四国にいるかのように感じられる仕掛けがいろいろ用意されている。ここは竹村氏がかなりこだわった部分だ。「四国を知っていただく工夫をたくさん盛り込みました」と竹村氏は言う。

PhotoPhoto 札所の情報はかなり細かく記載されている。観光情報へのリンクも用意する

 札所上納の中には、「周辺の観光情報を見る」というリンクも用意した。ここから、コンシューマ四国支社で用意している「おもてなしこく」という観光情報サイトへ飛ぶことができる。おもてなしこくでは、リアルにお遍路をしたい人向けのガイドコンテンツが用意されていて、周辺の観光情報なども細かく確認できる。またいつでもお遍路アプリを使っている人の人数が表示されたり、直近15分でアプリを使った人のアバターや意気込み、名前が表示されたりもする。

PhotoPhotoPhoto 「周辺の観光情報を見る」というリンクをタップすると、KDDI コンシューマ四国支社で用意している「おもてなしこく」サイトが開く。ここでより細かな観光情報が入手可能だ

 また前田氏は「スキップ機能」の実装にこだわった。スキップ機能は、札所間が40〜50キロあるような場面で、任意の札所を地図上から選べば、その場所からスタートができる機能。ひたすらストイックに1番札所から巡るのではなく、ユーザーが楽しみながらお遍路体験ができるようにしたかったそうだ。この機能を使えば、最近ずっと徳島県で飽きたので、次は愛媛県に行ってみよう、といった気軽な位置選択ができるほか、時間がないので短い区間にする、余裕があるので少し長い距離を歩く、といった使い方もできる。

 「アプリを使っているうちに、何となく地名や名産品が分かるようになってきます。すると愛着がわいてきますよね。初めてこのアプリを使う人にも、そんな気持ちになっていただけるといいなと思います。それから、このアプリで四国を知ったユーザーさんが、いつか実際に四国を訪れたときに、『このルートで行くとお寺がたくさんあって回りやすいから、ここに行こう』とか、行ったことがないのにアプリで知っているような人も出てくるとうれしいです」(竹村氏)

「auはどこへ向かっているんだ」という反応は思惑通り

 アプリの細かな作り込みは、リリースの直前まで行われていた。クリエイティブができるにつれ、どんどん新しいアイデアが出てきて、それをと次々と付け加えていったからだ。結果的に、当初の構想にはなかった面白さが、作りながらいろいろと足されていった。関係者はみな高い一体感を持ってアプリのリリースまで作業に携わったという。

 「東京(KDDI、カヤック)や大阪(イラストレーターの岡田氏)、四国(KDDI コンシューマ四国支社)と、地域をまたいでプロジェクトを進めていましたが、1つの気持ちで仕事ができました。イラストレーターの岡田さんも、最初に『お遍路アプリを作ります』とお伝えしたときはちょっと驚いていらっしゃいましたが、『とにかく面白いお遍路アプリを作るんだ』という思いを共有していただきました。岡田さんも作りながらテンションが上がっていったようで、アバターの衣装などは岡田さんがいろいろアレンジしてくださいました」(綿引氏)

 プログラマーの小川氏は「いろいろな機能追加などが終盤になってたくさん舞い込んできました。でも、いいものにしたいという気持ちがメンバー全員にあふれていたので、最後まで全力で走れました。動いているのを見ていただくだけでも楽しいアプリです」とその苦労を振り返る。

 「楽しかった」という感想は、カヤックの他のメンバーからも異口同音に聞けた。デザイナーの田島氏は「イラストをメインに打ち出して、キャラクター性を持たせるということで、今までのお遍路アプリにはない魅力が作れたと思います。チーム内では、『これは新しいお遍路の形だ!』と盛り上がりながら仕事をしました」と当時の様子を話してくれた。「普通だったらダメといわれるような所も、『え、いいの?』という感じの繰り返しでどんどんできあがっていきました。ローンチ間際まで勢いを落とさずに開発が進められたのは、あまり経験がないことでした」と、ディレクターの村上氏も言う。

 「普通のお遍路アプリだったら、もともとお遍路に興味がある人しかダウンロードしなかったと思います。でも、こうして今までにないアプリとしてリリースされたいつでもお遍路は、お遍路に興味がなかった人にも、関心を持っていただくことに成功したと思います」と綿引氏。実際、Twitterなどでは「auはどこへ向かっているんだ」というツイートもあったそうだが、これは思惑通りの反応だという。

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