「VAIO P」の新ボディをいきなり丸裸にする完全分解×開発秘話(3/3 ページ)

» 2010年05月10日 13時05分 公開
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SSDは容量によって実装方法が異なる

 フルサイズのMini PCI ExpressスロットやBluetooth 2.1+EDRモジュールの基板を取り外すと、いよいよSSDにアクセスできる。

 新型VAIO PはHDDを排除し、データストレージにSSDのみを採用している。選択できるのは64G/128G/256GバイトのSSDだ。SSDの構成は「VAIO X」と同様、64Gバイトのみ小型カードのUltra ATAタイプ、128G/256GバイトはSerial ATAタイプとなる。

 チップセットのIntel SCH US15W/US15XはSerial ATAをサポートせず、Ultra ATA/100のIDEインタフェースしかないため、64GバイトSSDの場合のみダイレクトに接続し、128G/256GバイトSSDではSerial ATA/Ultra ATA変換アダプタの小型基板を経由して接続する仕組みだ。

 Ultra ATAへの変換がボトルネックとなり、128G/256GバイトSerial ATA SSDは本来のパフォーマンスを発揮できないが、それでも64GバイトUltra ATA SSDより高速だ。また、ブリッジチップを転送速度が速く、消費電力が低いタイプに変更したことで、従来モデルよりパフォーマンスが向上したという。

 このようにSSDへのアクセスは非常に面倒なことに加え、小型化と軽量化のため、基板むき出しの薄型SSDモジュールを採用しており、端子も標準的なものではないので、ユーザーによるSSDの換装はハードルが高いだろう。

マウンタに装着された256GバイトのSSD。フレキシブルケーブルが伸びている小型基板がSerial ATAからParallel ATAへ変換するアダプタだ
取り外した256GバイトのSSDとSerial ATA/Parallel ATA変換アダプタ。64GバイトSSDは小型カードのUltra ATAタイプなので、変換アダプタは搭載されない
256GバイトSSDの表面。サイズは54(幅)×71(奥行き)×2.4(高さ)ミリだ。変換アダプタに接続する端子は標準的なSATAやMicro SATAタイプではない。128GバイトSSDも同じサイズだ

イチから作り直したマザーボード、基板の構成は大幅に見直し

 メモリカードスロット(PRO-HG対応メモリースティックデュオ用とSDHC対応SDメモリーカードスロット用)を搭載した基板がマザーボードになっている。各種ケーブルとネジを外すことで、取り出すことが可能だ。

 マザーボードは両面10層基板となっており、表にCPUやチップセット、メインメモリを、裏にカードスロット類を、側面にハーフサイズのMini PCI Expressスロットを配置している。従来モデルではカードスロットや2基のMini PCI Expressスロットを別の基板に分けていたが、新モデルでは基板の構成を大きく変えているのが印象的だ。

マザーボードの表面にはCPU、チップセット、メモリが搭載されている。CPUとチップセットの下にある白い放熱用シートで覆われているのがメモリチップだ。基板のサイズは実測で59×113ミリ
マザーボードの裏面には、メモリースティックデュオスロット(PRO-HG対応)とSDメモリーカードスロット(SDHC対応)、ボタン電池用のコネクタを配置。側面にハーフサイズのMini PCI Expressスロットがあり、ここに無線LAN/WiMAXコンボモジュールを装着する

 CPUはAtom Z530(1.6GHz)/Z550(2.0GHz)/Z560(2.13GHz)の3種類から選択できるが、新しく追加されたZ560を選んだときのみ、組み合わされるチップセットがIntel SCH US15Xになる。US15Xではグラフィックスコアが200MHzから266MHzに高速化されるため、CPUの高クロック化も合わせて、従来モデルよりワンランク上のパフォーマンスが期待できる。「従来モデルのユーザーから要望が多かったのは、やはりAtom Zの採用によるパフォーマンス不足の改善でした。今回はCPUとチップセットの両方を強化することで、パフォーマンスを高められるようになっています」(冨田氏)

 CPUとチップセットの発熱はマグネシウム合金製フレームを伝って拡散されるが、銅製のヒートパイプを内部フレームに埋め込んで放熱効率を大きく高めたことにより、高クロックのCPUとチップセットに対応しつつ、従来モデルで存在した通気口もふさいでいる。Z560とUS15Xの組み合わせではTDPが上がるが、スロットリングが早く発生して下位スペックとのパフォーマンスの逆転が生じないような工夫もしたという。

 なお、新型VAIO PはデータストレージをSSDに統一したため、1.8インチHDDも採用していた従来モデルより内部スペースに余裕が生まれ、そのぶん基板の奥行きを約6ミリ削ることで、バッテリーの容量をアップ(2100mAh → 2500mAh)している。同時に電源回路の見直しや各デバイスの省電力化、ソフトウェアの更新なども行い、標準バッテリーの公称駆動時間は従来モデルの約4〜4.5時間に対して、新モデルでは約5〜6時間まで延びている(直販モデルの場合)。

内部のマグネシウム合金製フレーム上に、CPUとチップセットを同時に放熱する銅製ヒートパイプを新設した
上が従来モデル、下が新モデルのバッテリー。容量は7.4ボルト 2100mAh/16ワットアワーから7.4ボルト 2500mAh/19ワットアワーに増えた

 本体サイズを完全に据え置いて、駆動時間が約1.5倍に延びたのは朗報だが、この点で開発は苦労したという。冨田氏は「基板の奥行きを削ったことで、従来モデルのようにMini PCI Expressスロットを横に2基並べられなくなったため、1基は薄くなったストレージの上に配置し、もう1つはマザーボードの側面に逃がしました。マザーボードを横長にして、これまで別基板だったカードスロット類も実装するなど、基板の再配置には悩みました」と述べ、浅見氏は「たった数ミリの違いですが、これが問題でした。ボディ全体のサイズは変わっていませんが、中身は大きく作り直しています。新デザインは側面に黒いパーツが挿入されるため、この部分の変更も意外と大変でしたね」と当時を振り返った。

内蔵センサーが操作の自動化や積極的な情報提供を実現

 VAIO Pのフルモデルチェンジに伴い、ソニーは“Mobile Intelligence”という新しい製品コンセプトも提唱している。これはさまざまな内蔵センサーで、ユーザーの位置情報や使用環境を検知し、より便利に新型VAIO Pを使えるような各種機能を積極的に提供するというものだ。

 具体的には、本体の傾きを検知することで縦位置/横位置表示、送り/戻しの操作が行える「加速度センサー」、ユーザーの向いている方角を検知して「VAIO Location Search」や新搭載のデジタルコンパスガジェットで方角を表示できる3軸式の「地磁気センサー」、環境光の明るさに応じてバックライト輝度を自動調整して省電力化する「照度センサー」を内蔵する。

 また、「VAIO Z」と同様、ノイズキャンセリングヘッドフォンに内蔵したマイクの指向性を自分の声に合わせ、騒がしい場所でも相手に声を伝わりやすくする「ビームフォーミング」も利用可能だ。こうした機能の搭載には、コスト重視になりがちな薄型軽量ミニノートPCであっても、競合機種にない付加価値をどんどん提供して差異化していきたいという、開発陣のアグレッシブな姿勢が伺える。

加速度センサーは底面の中央付近に内蔵する
地軸センサーは電源ボタンの右に内蔵する
照度センサーはF9キーの上に内蔵する

本体サイズは変わらないが、中身は大違いの新型VAIO P

 新型VAIO Pを初めて見たとき、外観をはじめ変更点は多いものの、本体サイズと重量がほぼ据え置きなので、内部構造もさほど変わらないのではないかと予想していた。しかし、実機を分解してもらうと、その予想が違っていたことに気付かされた。

 従来モデルの基本設計を生かしている部分は多いが、HDDの廃止で余ったスペースを最大限に活用するため、パーツ配置の見直しによって基板部の奥行きを削り、バッテリー容量に充てたほか、各種センサーも盛り込むなど、VAIOノートの開発チームらしい並々ならぬこだわりが随所に見られる。普通のメーカーだったら、本体サイズを変えないと決めた段階で、コストを抑えるため、内部設計もほとんど流用することだろう。

 一方でインスタントモードや、マグネシウム合金+光沢多層塗装による高級感ある天面デザインなど、従来モデルから省かれた部分もあるとはいえ、「7万円台から購入できるミニノートPCによくぞここまで詰め込んだ」と、またも感心させられた。確かにこれは単なるデザイン変更ではなく、性能、機能、使い勝手のすべてに手を加えた「正当進化」といえる新モデルだろう。

新型VAIO Pを構成するパーツ群。本体サイズは変わらないのに、性能と機能を強化するため、内部構造を大きく変更しているのに驚かされる

Sony Style(ソニースタイル)
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