iPhone 4の話題が中心となったWWDC 2010の基調講演だが、前半部分では日本でも販売が始まったばかりのiPadについても言及している。すでに8500種類のiPad専用アプリケーションが出ていること、3500万本のアプリケーションがダウンロードされたこと、累計50億回ダウンロードされたiPhone用アプリとあわせると、両製品のApp Storeにおける利益は総額10億ドル(1000億円)に達することなどが語られた。
また、最近はiOSがアドビのFlash技術をサポートしていないことを問題視する声もあるが、アップルは開発者のために2つのプラットフォームを用意していると説明する。1つはHTML5。つまりWebブラウザのSafariを使ったWebアプリケーション開発の道で、こちらは完全にオープンであり、技術が公開されているだけでなく、アップルの審査もなく、誰でも自由かつ即座に公開できる。
これに対してジョブズ氏は、App Storeを「Curated Platform」と呼ぶ。つまりアップルによるキュレーションを行ったプラットフォーム――アップルの側である程度の取捨選択を行い、顧客にプレゼンテーションされるプラットフォームだと語った。
とはいえ、アップルに提出されたアプリケーションのうちの95%は、7日以内に承認されており、承認されない残り5%も「宣伝された通りには動かない」「将来にわたっての動作保証が難しいプライベートAPIを使用している」「アプリケーションがクラッシュする」という3つの理由のいずれかに該当するものがほとんどだという。
これらの条件を満たし、うまくApp Storeで成功することができれば、開発者はそれまでにない大きな成功を手に入れることができる。例えば、iPad専用アプリ「元素図鑑」の作者は、過去5年間Googleの広告で宣伝して売れた売り上げ総計をたった1日で上回ったという。


iPadも好調だ。すでに専用アプリケーションは8500種類にのぼる(写真=左)。iPhone/iPad向けアプリのApp Storeにおける利益は1000億円に達するという(写真=中央)。開発者に大きな成功のチャンスがある(写真=右)また、ネットオークションサイトのeBayは、昨年iPhoneアプリケーションをリリースしたところ1000万件のダウンロードがあり、実際に6億ドル分の取り引きに使われ、今年は15〜20億ドル分の取り引きに使われることが見込まれている。
これらApp Storeのアプリを動かす製品のOSが、今回のWWDCから「iOS」に改名された。iOSはiPhone、iPod touch、iPadのOSで、iPhone 4は、同OSの最新版「iOS 4」を初期搭載した最初の製品となる。
iOS 4は、マルチタスキングやアプリケーションのフォルダ管理など、100以上の新機能と1500の開発者向け機能を備えたOSだ。iPhone 4が発売される3日前、6月21日に無償で公開される予定だ(ただし、iPhone 3GやiPod touchではマルチタスクなど一部の新機能が使えない)。
アップルが提供する3つのiOS製品は、今月中にも累計出荷台数1億台を突破する予定で、それを機に7月1日から「iAd」という広告ビジネスがスタートする。iAdは、無料または安価なアプリの開発者を支援するために作られたOS標準の広告サービスで、これまでのモバイル広告とは大きく異なる。従来のモバイル広告の多くが、ほかのアプリの宣伝など単価の安いものが多かったのに対し、iAdは大手ナショナルクライアントによる、高額の広告が主となっていて、手間ひまのかけ方や出稿金額でいうとテレビなどのCMに近い。
どうしてそんな高額な広告出稿がのぞめたのかと言えば、iAd広告がiOS機器の美しい画面や軽快な反応を生かして、これまでのモバイル広告があまり追求していなかった「人々の情感に訴えかける」までの品質追求を行ったからにほかならない。
すでに名乗りをあげている主なクライアントは、AT&Tやシャネル、日産自動車、キャンベルスープ、ユニリーバ、ディズニーなどの大手ばかりで、たった8週間の営業で6000万ドルの広告枠を販売したと言う(このうちの6割が開発者に入り、残りが広告のホスティングも行うアップルのふところに落ちる仕組みだ)。調査会社のリポートによれば、2010年度のモバイル広告の市場規模は2億5000万ドル規模と言われている。半年で1億2500万ドル規模とすれば、アップルはその48%を占めることになり、今後が期待されている。新聞や雑誌、ラジオ、テレビのコンテンツがiPadやiPhoneに集まりつつあり、既存のマスメディアの広告が減少する一方で、iOS機器の上で(かつてのテレビを思わせる)巨額の広告費が動くビジネスが再び花開くのだとすれば、これはメディア再編の大きな推進力になっていくかもしれない。
今回のWWDCは、かつてアップルの主力製品であったはずのMacについてまったく触れられないという、これまでにない基調講演となったが、それでもなお話題に満ちあふれているアップルには、ただただ驚かされるばかりだ。
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