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» 2009年10月28日 13時30分 UPDATE

神尾寿のMobile+Views:国内メーカーを取りまく三重苦──携帯電話市場はいつ回復する? (1/2)

2009年上期の端末出荷台数が、2000年以降の上期実績としては過去最低を更新した。端末市場の「冬の時代」はいつまで続くのだろうか。

[神尾寿,ITmedia]

 10月22日、MM総研が2009年度上期の携帯電話出荷状況に関する調査結果を発表した。詳しくはニュース記事に譲るが、総出荷台数は前年同期比14.0%減の1704万台となり、2000年度以降の上期の出荷台数としては過去最低。半期別出荷台数で過去最低となった2008年度下期に比べると96万台回復しているものの、依然として市場が冷え込んでいるのは間違いない。

 端末市場の「冬の時代」はいつまで続くのか。これから始まる冬商戦と来年の春商戦で回復するのか。それを考えてみたい。

日本メーカーを取りまく「三重苦」

 2009年を振り返ると、メーカー各社は大きく3つの理由によって販売低迷と業績悪化を余儀なくされた。

 1つは、2007年に最大手のNTTドコモで本格導入された「2年利用契約」と「端末の割賦販売」の影響だ。

 今から2年前の2007年、ドコモは2年間の利用を前提に料金を割り引く「ファミ割MAX 50」と「ひとりでも割50」を投入。さらに905iシリーズから端末価格と利用料金を分離する新販売方式「バリュープラン」を導入し、あわせて端末販売価格の上昇による売れ行き悪化を防ぐ目的で金利ゼロの割賦販売「バリューコース」を開始した。

 ドコモの2年利用割引とバリュープラン/バリューコースは同社の想定以上のペースで普及し、ドコモの解約率は劇的に低下。しかし、その副作用として、MNP利用件数が減ってキャリア移行による新端末の需要が縮小。さらにバリューコースの支払期間で2年を選択するユーザーが大半だったことから、2009年上期は割賦払い期間中のユーザーが積み上がり、それが新機種への買い換えを抑制する原因になった。

 料金プランと販売方式の両方によるドコモの2年縛りによって、2008年後半から2009年前半の端末販売市場は「買い換えもMNP利用も低調。とにかくユーザーが動かない。市場が凍りついてしまった」(国内メーカー幹部)のだ。

 2つめの理由は、市場ニーズが「廉価な普及モデルへシフト」したことだ。これまで日本市場では、キャリアの販売奨励金によって店頭価格が低く抑えられていたことや、ユーザーがより高付加価値・高性能な端末を求めていたこともあり、ハイエンドモデルの需要が高かった。しかし、新販売方式によってハイエンドモデルの割高感をユーザーが実感しやすくなったことや、普及モデルの性能が底上げされて一般ユーザーがハイエンドモデルとの機能差・性能差を感じにくくなったことなどにより、廉価な普及モデルが販売の中心になってきている。

 こうした普及モデルへの需要シフトは、日本メーカーの開発投資の負担を重くし、“先進的なデバイスや技術を搭載した高性能モデルに強い”という優位性を損ねてしまう。さらに端末市場全体が縮小する中で主力モデルの価格水準が下落することは、メーカーの業績を悪化させる要因にもなっている。

 そして、3つめの理由が、キャリア主導の「新サービス拡大による牽引効果」が得られなくなったことだ。1999年のiモード登場以降、日本の携帯電話市場は端末のコモディティ化が起こる頃に新たなサービス需要が立ち上がり、それが“販売奨励金で最新端末が安く買える”ことと相まって、最新サービスに対応した新機種の水平展開とサービスの垂直立ち上げを実現していた。例えば、カメラ付きケータイや着うた/着うたフル、ワンセグ、おサイフケータイなどがその好例だろう。

 しかし、2007年以降は、「iコンシェル」など画期的なサービスが登場したものの、分離プラン・新販売方式では最新サービス対応機種の水平展開に従来より時間がかかり、それが結果としてユーザーの認知度向上やコンテンツ増加の足かせとなり、“新サービスの牽引力”を弱くしてしまった。

 また、Appleの「iPhone 3GS」のようにキャリア主導の新サービスではなく、メーカー独自のまったく新しいサービスやコンテンツ/アプリ環境がユーザーを強く惹きつけるなど、これまでのように“キャリアが新たなサービス・プラットフォームを作り、多くのメーカーが均等に恩恵を得る”というモデルが通用しない一面も現れ始めている。

 このように今の日本メーカーは市場環境の変化による「三重苦」に苛まれているのだ。

日本メーカーの隙を突く海外メーカー

 一方、日本メーカーの苦境を尻目にシェアを伸ばすのが海外メーカーだ。日本市場はこれまで海外メーカーの進出が難しい地域とされてきたが、2009年は対前年比2倍以上のペースで海外メーカー製端末が売れている。

 この海外メーカー躍進を、実数とイメージの両方で牽引しているのがAppleである。

 本コラムでもこれまで取り上げたとおり、AppleのiPhone 3GSは都市部で販売が急伸しており、その存在感が増している。Appleは国内メーカーと異なり、キャリアに頼らずに、ソフトウェアやサービス、コンテンツ/アプリ、そしてユーザー体験での「新しさ」を創り出せる。さらに当初からグローバル展開を前提にした結果、iPhone用のアプリや専用周辺機器が多数登場し、iPhone周辺にさまざまなビジネスを生みだす「エコシステム」(生態系)になっている。

 iPhoneは東京など都市部では女性層や若年層にも広く受け入れられ、猛烈な勢いで人気が拡大中だ。とはいえ、iPhoneはその普及が都市部に偏っていることから、今すぐ日本メーカーのシェアを大きく切り崩すことはない。だが、日本メーカーのハイエンドモデルが売れない中で、複数のメーカー幹部が「iPhoneが新しいケータイのニーズを獲得してしまうのではないか。昨年より危機感を感じている」と話す。

 一方、Appleと並んで注目なのが、韓国のLG電子だ。同社はドコモ向けに価格が安くてデザイン性の高いモデルを相次いで投入し、今年に入ってから一気にシェアを拡大している。筆者もLG電子の日本向けや米国向けモデルを複数試したが、デザイン性や質感に優れており、普及モデルとして十分な基本機能を有していると感じた。なにより店頭での販売価格が安い。ハイエンドモデルのニーズが減少し、普及モデルが主役になる中で、LG電子の「優れたデザイン」と「安さ」は日本メーカーの脅威になり得る。今後も普及モデルへの需要シフトが続けば、価格競争力のある韓国メーカーの躍進は無視できないものになるだろう。

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