第5回 iPhoneをもしのぐ勢い――躍進する中国メーカー“中華酷聯海”山根康宏の中国携帯最新事情(1/2 ページ)

» 2012年12月27日 09時40分 公開
[山根康宏,ITmedia]

 Nokia、Samsung、Appleの“御三家”を前に中国メーカーは苦戦を強いられてきた。だが、1000元スマートフォンブームに乗り、この1年で国内メーカーが急激に頭角を現している。勢いに乗る“中華酷聯海”や新興勢力、さらには老舗メーカーの復活など、中国の携帯電話市場の勢力図は大きく書き換えられようとしている。


海外メーカーを次々に抜き去った中国メーカー

 NokiaとSamsungがシェアの過半数を握る中に、Appleがあっという間に割り込み3強を形成――今から2年前、2010年の中国の携帯電話市場の勢力図はそんな状況であった。低価格を武器に国内メーカーが存在感を誇示していた時代は遠い昔の過去のこと。ここ数年は高機能なハイエンドモデルからエントリー製品まで、多種多様な製品を次々と投入する海外メーカーを前に、中国国内メーカーはかろうじて食らい付いていくのが精一杯の状況だった。

 中国の調査会社、易観国際によると、2011年の中国国内のメーカー別シェアは海外大手メーカーが62.5%であるのに対して、中国国内メーカーは37.5%であり、両者には倍近い差がついていた。Nokia、Samsung、Apple、HTCの4社だけで市場の半数弱、41.5%を寡占していたのだ。これは製品の品質や機能が優れている点や、高いブランド力を持っていることだけが理由ではない。中国の消費者自らが、自国の製品に魅力を感じたり、信頼を置いたりしていなかったのだ。

photophoto 2010年5月にChina Unicomが3Gを開始、iPhoneはあっという間にシェアを高めていった(写真=左)。同年にはSamsungもGALAXYシリーズを本格投入し、中国メーカーを寄せ付けなかった(写真=右)

 だが1000元スマートフォンが相次いで登場し、製品の機能や品質が上がっていくにつれ、中国の消費者の国産品に対する考え方は大きく変わっていった。中でも2012年になってから登場した1000元スマートフォンは、海外大手メーカーの1〜2年前のハイエンド品とそん色ないレベルの機能のものが増えている。ソーシャルサービスやオンラインショッピング、Web検索などの利用程度なら、このクラスの製品でも十分実用的で、しかも価格は安い。まともに使える安価な国産品が次々に登場したことで、中国の消費者はようやく国内メーカーの製品に目を向け始めたのである。

 一方、China Mobile(中国移動)、China Unicom(中国聯通)、China Telecom(中国電信)の3事業者は、新規加入者の獲得と、既存顧客の2Gから3Gへの移転を進めるために1000元スマートフォンの投入ペースを加速化している。迅速に新製品を市場に投入するために、各社は国内メーカーとの提携・協力関係を強化しており、毎週のように新製品が市場に投入されている。ゴールデンウィークや新学期、そして国慶節など大きな行事の前後には各社が新製品を使った大型キャンペーンを行い、国産メーカーの1000元スマートフォンをその目玉とするケースも増えている。

photophoto 2012年になって登場した中国メーカーの1000元スマートフォンは、海外大手メーカーの一世代前の製品レベルと同等のスペック(写真=左)。中国移動のクリスマスキャンペーン。1000元スマートフォンの代表としてCoolpad、Lenovo、ZTEなど中国メーカーの製品が並ぶ(写真=右)

iPhoneのシェアが低下

 これらの結果、2012年に入ってから中国の各メーカーは販売量を急速に伸ばしている。6月にはLenovoが初めてNokiaの販売台数を抜き、Samsungに次ぎ国内シェア2位に上昇した。これは世界的に苦戦しているNokiaが中国でも勢いを失ったものと見ることもできるが、Lenovoの積極的な新製品ラッシュが消費者の目を惹きつけることに成功した結果でもある。ちなみにLenovoのスマートフォンラインアップは2011年には19機種だったが、2012年には40機種と一気に倍増している。

 2012年の中国の携帯電話販売シェアの数値はまだ出ていないが、興味深い結果がIDCから出されている。前回書いたように中国ではすでにスマートフォンが全携帯電話販売台数の過半数を超え、各社の主力製品はスマートフォンになっている。その中国スマートフォン市場でAppleのiPhoneのシェアが2012年第3四半期に6位まで低下したのだ。また1位はSamsungが首位の座を確保したもののシェアそのものは落ちている。そして2位はLenovo、3位にはCoolpadが急上昇、4位がZTE、5位がHuaweiとなっており、上位6位のうち国内(中国)メーカが4社も食い込んでいるのだ。

勢い増す“中華酷聯海”の5社

 海外メーカーのシェアをあっという間に奪い去った中国国内メーカーの代表5社、その頭文字を並べた「中華酷聯海」という単語が中国メディアに見られるようになってきた。中は中興=ZTE、華は華為=Huawei(ファーウェイ)、酷は酷派=Coolpad(クールパッド)、聯は聯想=Lenovo(レノボ)、そして海は海信=Hiasense(ハイセンス)だ。この5社の製品は、いまや通信事業者の店舗や量販店など中国のどこへ行っても見かける「中国国民機」とも言える存在になっている。

 「中」と「華」、すなわちZTEとHuaweiは日本でもデータ端末を中心におなじみのメーカーだが、中国国内ではスマートフォンメーカーとしても広く認知されている。両社ともインフラも手がけていることから、W-CDMA、CDMA2000、TD-SCDMA、それぞれに対応した製品をまんべんなく販売している。特に加入者約7億人の世界最大通信事業者、中国移動向けにTD-SCDMA端末をいち早く投入しているのは大きな強みだ。

photophoto ZTEのスマートフォンはあらゆる通信方式に対応し、ディスプレイの大画面化も進んでいる(写真=左)。クアッドコアCPU搭載スマートフォンも投入したHuawei。スマートフォンのラインアップは34機種に及ぶ(写真=右)

 両社ともにインフラ提供を通じて通信事業者との関係も密なことから、1000元スマートフォンも事業者と協業し、他社に先駆けて投入してきた。そのためか、両社の1000元スマートフォンは今でも各事業者の売れ行きトップの常連だ。また当初はエントリーからミッドレンジクラスの製品が多かったものの、2012年後半からは4インチ以上の大画面モデル、デュアルコアやクアッドコアCPU搭載のハイエンド製品もラインアップに追加。大手メーカーの製品をじわじわと脅かし始めている。

 一方、スマートフォン3位と一気に頭角を現した「酷」ことCoolpadは、スマートフォン専業メーカーである。同社は元々はビジネス向けフィーチャーフォンを手がけていたことから、高級携帯メーカーとして高いブランド力を持っていた。スマートフォンはWindows Phoneを早い時期から国内投入しており、Androidへの転向以降もハイエンド製品を中心に製品を展開している。大画面モデルは他社に先駆けて発売、また1000元スマートフォンももちろん用意、あらゆる製品をそろえている。

photophoto 中国のスマートフォンの顔ともなったCoolpad(写真=左)。大型ディスプレイ、高速CPUなどハイエンド製品も多い(写真=右)

 そして「聯」のLenovoは、ハイエンドスマートフォンからエントリーフィーチャーフォンまでをそろえる中国最大手の総合携帯電話メーカーとなった。Lenovoも当初はWindows Phoneからスマートフォンに参入したが、Androidスマートフォンへの転換は2010年に発売した「楽Phone(LePhone)」からだ。このLePhoneは中国向け製品ながらも同年1月にラスベガスで開催された「CES2010」で華々しく発表された。Android OS上に自社開発UIを搭載した「LeOS」の採用、そして上下に大きく弧を描いた本体デザインは、中国各社のスマートフォンと比較しても斬新なものだった。

 LePhoneはその後品質の良さや使いやすさから人気商品となり、順調に製品ラインアップを拡大していった。製品が多岐にわたることから今では4つのシリーズに再編。Aシリーズはミッドレンジ及びエントリーモデルの1000元スマートフォン主力製品が属している。Sシリーズはデザインモデルや若者向けのファッショナブルな製品など。Kシリーズはフラッグシップのハイエンドモデル、そしてPシリーズにはビジネス向けの高級モデルがそろっている。

 充実したスマートフォン製品群に加え、フィーチャーフォンも定期的に新製品を3つの事業者にくまなく投入することで、Lenovoは中国メーカーナンバー1の座に上り詰めたのである。そしてシェア1位のSamsungとの差も縮まりつつあり、地域によっては単月の販売量がSamsungを抜くこともあったという。2013年はSamsungとのシェア1位争いが毎月のように繰り広げられるかもしれない。

photophoto 4つのスマートフォンシリーズからフィーチャーフォンまで多数の製品を扱うLenovoのオンラインストア(写真=左)。世界初のクアッドコア・5インチモデルをうたう「Lenovo K860」。価格は2188元(約3万円)だ(写真=右)

 これら4社に加え、2012年に急成長したのが「海」ことHaisenseだ。総合家電メーカーの同社は中国のテレビ市場で8年連続シェアトップ、日本にも格安の液晶TVで参入したのは記憶に新しい。だが携帯電話は2002年からCDMAフィーチャーフォンを中国国内で販売していたもののヒット商品には恵まれず、国内外大手の携帯メーカーの影に隠れた存在だった。

 だが2012年に1000元スマートフォン市場への参入を本格化させ、3つの通信事業者向けに製品の供給を開始した。その結果、2012年の同社の携帯電話販売台数は前年比190%と大きく伸びた。特にスマートフォンはこれまで製品数がわずかだったこともあり、前年比626%増と急激に販売数を拡大している。2013年も1000元スマートフォンを中心に新製品を40機種以上投入する予定で、販売総数も2000万台を目指すとしている。

photophoto 中国のテレビではトップメーカーのHaisense(写真=左)。1000元スマートフォン参入でシェア拡大を目指す(写真=右)
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