8月22日にauの「MeMO Pad 8 AST21」が、8月29日にはソフトバンクの「AQUOS CRYSTAL」とauの「HTC J butterfly HTL23」がそれぞれ発売された。例年、商戦期の谷間となる8月だが、今年はやや様相が異なる。いずれのモデルも“戦略商品”と位置づけられており、国際展開をにらんだ開発体制が引かれている。どのモデルも、グローバルに展開することで、ボリュームを出していく方針だ。一方で、KDDIとソフトバンクの2社が置かれる立場は異なる。海外展開を見据えた戦略商品に対する考え方も、この立ち位置が大きく影響している。今回の連載では、端境期の8月に登場した新製品から、両社の端末に対する取り組みをひも解いていきたい。
KDDIから発売されたMeMO Pad 8(ASUS製)とHTC J butterfly(HTC製)は、いずれも「共同開発」とうたわれている。前者が「日本人が欲しいタブレットを、KDDI、インテルとともに形にした」(ASUS Japan マーケティング部 部長 シンシア・テン氏)タブレットなのに対し、後者は「KDDIとの共同開発で、どのようにデザインすべきか、外観、カラー、UXについてのフィードバックをもらった」(HTC CEO ピーター・チョウ氏)というフラッグシップのスマートフォンだ。
2つの機種に共通しているのは、デザインなどを日本市場にフィットするようにカスタマイズしていること。同時に、MeMO Pad 8とHTC J butterflyはアジアを中心とした海外でも発売される。ASUSとHTCはどちらも海外に足場を持つメーカーで、全世界共通のグローバルモデルを用意している。では、この2社が、なぜKDDIのために日本市場に特化したスペシャルモデルを開発したのか。その理由の1つは、日本のユーザーのデザインに対する受け止め方の違いにある。
「HTC J Oneを売る際には、グローバルヒーローモデルということで期待していたが、残念ながら日本のお客様にはあの質感や防水がない点、カメラの画素数が受け入れられなかった。デザインやスペックなど、ディテールにこだわるメーカーとオペレーターなので、そこをきちんとやり、HTC J butterflyをリニューアルしようとなった」(HTC NIPPON 代表取締役社長 村井良二氏)

ASUSのシンシア・テン氏(左)は、女性に受け入られたいと意気込みを語った。KDDIの相澤忠之氏(右)も、デザインに深く関わったことを明かす(写真=左)。HTCのピーター・チョウ氏(左)は、KDDIとの密な関係をアピール。会見には、KDDIの田中孝司氏(右)も駆けつけた(写真=右)一方で、日本だけでは市場の規模が限られており、HTCのようなグローバルメーカーが、専用にカスタマイズしたモデルを気軽に投入しにくいのも事実。グローバルモデルと共通する部分が多い方が、コスト的なメリットも出しやすい。このトレードオフを解決するのが、アジア市場だ。台湾や香港、一部の東南アジアでは、日本発のトレンドが受け入れられやすく、デザインに対するユーザーの感覚も近い。実際、「HTC Jや(初代)HTC J butterflyの影響は、アジア全般にものすごく波及した」(村井氏)そうで、日本外での販売も徐々に広がっていった経緯がある。

アジアでのブランド力向上が、HTCにとって共同開発を行う強い動機になっていると語る、HTC NIPPONの村井良二氏。CMにはアイドルグループ「乃木坂46」を活用。これも、アジアで共通のものが放映されるというHTC J butterflyのような柔らかいデザインは、アジア市場で女性ユーザーを獲得し、ブランドイメージを向上させる武器にもなる。
「(HTCの本国である)台湾でも、HTC Oneは女性がほとんど使っていなかった。あれは難しい、使えないと思われていた。香港、シンガポール、中国でもそう。どちらかというとメタルを使ったデザインがクオリティが高いと思われていたが、プラスチックでもきちんと加工してハイグロスにすれば質感は高くなる。そうしたところ、女性層をバーンと取れた。単純に売り上げが伸びただけでなく、ブランドイメージを上げることに、HTC JやHTC J butterflyがものすごく貢献した」
こうした事情は、MeMO Pad 8を発売するASUSにも共通しているようだ。同社のテン氏は、「日本生まれのタブレットで、女性の客層も開拓していきたい」と語る。KDDIで同製品を担当したプロダクト企画本部 プロダクト企画2部 部長 相澤忠之氏も、「タブレットはまだまだ男性が多く、どうしても女性層を取り込みたい」と意気込む。「ASUSさんにも、日本発の広がりを期待してやってもらえたと思っている」と、その先には、アジアでの普及もにらんでいるという。
常々「同質性の中の違いを追求したい」(代表取締役社長 田中孝司氏)と述べているKDDIだが、こうした取り組みによって、他社にはない独自モデルを発売できている。日本で他キャリアに納入できないのはメーカーにとってのデメリットかもしれないが、KDDIは他国に関する制限は特に設けていないという。アジアに本拠地を置くメーカーにとっては、日本で得たノウハウを地場で生かせるというのが大きなメリットといえる。つまり、キャリアとメーカー、お互いにとって価値のある協力体制なのだ。
2機種ともまだ発売されたばかりで、結果が出るのはこれからだが、過去にはHTC Jや初代HTC J butterflyが大ヒットした実績もあり、期待はできる。戦略モデルに位置付けられた2機種の販売動向にも、注目しておきたい。
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