スマートフォンで今度こそ変わる、“モバイルワーカー”の仕事スタイル(1/2 ページ)

» 2010年06月30日 10時40分 公開
[日高彰,ITmedia]

 不振が伝えられる国内の携帯電話端末市場の中で、盛り上がりを見せているのがスマートフォンだ。ビジネスシーンでもその応用範囲は広がりを見せており、スマートフォンを中心としたさまざまな業務システムが各社から提案されている。

 そんな中、グループウェア大手のサイボウズが、グループウェアにWindows phoneからアクセスするためのソリューション「サイボウズモバイル KUNAI for Windows phone」をリリースした。タッチパネル搭載スマートフォンのために開発した専用アプリを利用することで、グループウェア上の情報をスピーディかつ安全に利用できるのが特徴だ。

 この便利な“仕掛け”を実現したサイボウズ代表取締役社長の青野慶久氏と、マイクロソフトで国内のWindows phone事業を統括するモバイルコミュニケーション本部長の越川慎司氏は、同世代ということもあってTwitter上で活発に意見を交わす仲。春先に越川氏が青野氏に「今度対談をしませんか?」と持ちかけたことから、今回の企画が実現した。

 業務での利用において、従来型の携帯電話とスマートフォンとの間には質的な違いがあると言えるのか。自身がスマートフォンで効率的に仕事をこなしている先進ユーザーでもある青野氏と越川氏にじっくり聞いてみた。

PhotoPhoto サイボウズ代表取締役社長の青野慶久氏(左)と、マイクロソフトで国内のWindows phone事業を統括するモバイルコミュニケーション本部長の越川慎司氏(右)

“人生のムダ”だった時間が生産的なものに

――(聞き手:日高章) 今日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきましてありがとうございます。実はこの対談は越川さんのツイートから実現した企画です。どうぞよろしくお願いします。

越川慎司氏(以下敬称略) 青野さん、はじめまして(笑) 実はオフラインで青野さんとお会いするのは今日が初めてなんです。Twitter上ではよくお話ししているんですが。まさかTwitterでつぶやいたことが本当に実現するとは思っていませんでした。

青野慶久氏(以下敬称略) 確かにTwitterでそんな話をしましたね(笑) 今日はよろしくお願いします。

―― さて、さっそく本題に入りたいと思うのですが、従来のケータイでもグループウェアにアクセスすることは可能なので、外出先からでもメールやスケジュールをチェックできます。新たにWindows phoneとKUNAIを導入するとなぜ仕事がさらに効率化されるのか、まずは一ユーザーの視点から青野さんにお話しいただきたいのですが。

青野 Windows phoneを使うようになって何が一番変わったかというと、PCを持ち歩かなくなったことです。極端にいうと、PCが目の前にあってもこれ(スマートフォン)でメールを見ています。Webメールでは、読みたいメールの件名をクリックすると、ブラウザが一度サーバにメールの中身を取りに行って、それから表示されたメールを読むことになりますけど、そのわずかな1秒にイラッとする。でもスマートフォンは常にサーバと同期されていますから、受信箱を開いて次、次、次、と画面を送っていくだけで、たった10秒の間でも何本もメールを開くことができる。PCよりもこっちのほうが速くて快適なんです。そんな便利なものを、しかも「持ち歩ける」んですよ。

―― KUNAIの発表会では、以前は「人生のムダ」と感じていた信号待ちの時間が、スマートフォンの導入で変わったいうお話がありました。

青野 私は毎朝20分くらい歩いて会社に来るんですけど、残念ながら途中に信号があって、赤信号に引っかかると1〜2分待たされます。でも、今は信号に引っかかったら「ラッキー!」ですよ。なぜなら、信号が変わるまでスマートフォンを出して何通もメールが読めるからです。読むだけじゃなくてメールを返すこともあるんですけど、例えば、返信ボタンを押して「り」を入力すると、予測変換候補に「了解」がもう出ている。「了解」を選ぶと次に「しました」が出るので、それを選ぶ。あとは送信ボタンを押すだけですよ。

 信号を1回待つ間にメールをチェックして、返信も1本くらいはできる。このスピード感と効率の良さ。電波の届かない地下鉄でも同期されたメールを読むことはできますから、読んで返信を書いておけば、電波が入った場所で自動的にまとめて送信することもできます。朝の出社時間は会社のエレベーターが各階に止まるから周りのみんなはイライラしていますけど、私はこれ(スマートフォン)があるから余裕です。信号待ちやエレベーター待ちがいくらあっても生産性がまったく落ちないし、精神的なストレスもなくなります。むしろ、1人で集中できるから生産性が上がっているかも(笑)。私の場合PowerPointで書かれた資料が回ってくることも多いですが、Windows phoneならもちろんそれも開ける。

越川 ありがとうございます。ある調査によると、会社のメールをケータイで読み書きできる環境にある人は、従来型のケータイを含めても日本の労働人口のわずか数パーセントと、意外に少ないんです。まして添付ファイルをケータイで見るなんてことは、ほとんど行われていないのではないでしょうか。PCと同じようなセキュリティ、管理、コンプライアンスということまで考えると、従来のケータイではまず実現できないと思います。

青野 「できる/できない」でいうと、従来のケータイのWebブラウザでもメールは見られます。でも、会社のセキュリティポリシーでパスワードが記号入りだったりすると、ログインする度に入力していられないですよね。スマートフォンなら、画面は4ケタの数字とかでロックされていますが、グループウェアには常にログインしている状態です。なぜそれでいいかというと、万が一端末を落としてもリモートワイプができるからです。私の場合、写真はすぐWebサービスにアップロードしてしまうし、メモも「Evernote」でサーバと同期されているから、端末をなくすことは何も怖くない。いつリモートワイプされても、端末上のデータは惜しくないんです。

越川 セキュリティ/コンプライアンスと、生産性というのはだいたいトレードオフの関係にあって、セキュリティを高めると使いやすさや生産性は落ちるというのが一般的だと思いますが、Windows phoneなら両方高められるのではないかと。KUNAIのような「苦の無い自由さ」と、セキュリティとを同時に提供するのは、従来型のケータイではなかなか難しかったと思います。

―― 「モバイル端末にも対応」という業務ソリューションは多いですが、それは「ケータイからでも見ることはできる」といった意味で、PCから利用できるすべての機能に対して、その一部がケータイからも使えるに過ぎないということがしばしばあると思います。一方KUNAIは、単に従来のサイボウズ ガルーンがモバイルに対応したいうことではなくて、モバイルの導入でワークスタイルそのものを変えようという取り組みですね。

青野 そうです。「グループウェアでスケジュールを共有すると便利です」というこれまでの話とは違うんです。場合によっては、もうPCからはグループウェアにアクセスしなくてもいいんです。例えば大きな店舗を運営している会社だと、多くの従業員は普段売り場に立っていてPCは見ない。そうすると、モバイルが特別なのではなくて、むしろモバイルがデフォルトになると。本部からの連絡をチェックするために奥の部屋に引っ込んでPCを見るといったムダがなくなるわけです。

Windows phoneはスマートフォンの「楽市楽座」

―― 数あるスマートフォンのプラットフォームの中で、Windows phoneのメリットはどのような部分にあるとお考えでしょうか。

Photo

青野 制限がないところですね。私自身も、マイクロソフトさんには申し訳ないですけど、デフォルトのエクスプローラよりも使いやすい「GSFinder」を使っていますが、それはサードパーティの面白いアプリが自由に入れられる優しさがあるということですよね。テキストエディタは「jot」か、場合によっては「Evernote」で、メディアプレーヤーは「Kinoma Player」、Twitterは「moTweets」を使っています。私もiPod touchは初代が日本で発売された直後に買って、iPhone OSのUI(ユーザーインタフェース)は素晴らしいと思いました。でも、僕がiPod touchでやっていたことは、Windows phoneでも全部実現できたんですね。だったらこれ(制限のないWindows phone)のほうがいいじゃないですか。

越川 我々は、ビジネス向けにはスマートフォンの選択肢の1つとしてWindows phoneがあればいいと考えています。というのは、ビジネス向けはまだシェアを取り合うような市場ではないと思うのです。まずは、スマートフォンを使って仕事をするという習慣を広げて、日本に根付かせたいと思っています。KUNAIも、Windows phoneを利用したこういうワークスタイルはどうですか、という提案だと思いますので、マイクロソフトとしてもそれを大々的にバックアップして広げていきたいと考えています。

青野 お客様のどんな端末にも便利さを提供したいと思っているので、基本的には端末プラットフォームは選ばない路線で、BlackBerryiPhoneもサポートしますし、将来的にはAndroidもやりたい。ただ、PCでWindowsを広げたときのように、モバイルでもここまでオープンで、僕らに自由にビジネスをさせてくれる「楽市楽座」の世界を作ってくれるのは、やはりマイクロソフトさんだと思います。

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